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第十九話 コムラット鉱石採取②

 森を抜けると、四、五メートルほどの杭の防壁が進路を塞ぐ。

 入り口は……、と視線を左右に数度振る。右に五十メートルほど行った先に門らしきものがあった。


「シルビナです。族長殿はおられますか?」


 門の前でシルビナは並の声量で問い掛ける。普通張り上げるもんだと思うが、と思案。

 ああ、風魔法で届かせたのか。


 間を置かずに、ギギィと錆びた鉄の音を響かせて、両開きの門が開いた。

 杭自体が門になっていて、幅六メートルほど開くようになっている。


「ヨクキタ」


 野太いカタコトで出迎えたのは、ガンジンの名に違わない容貌の巨漢? だった。

 声を聞けば男なんだろうが……

 身に付ける衣服らしきものは腰に巻いた獣の毛皮程度で、判別がそれぐらいでしかできない。

 身長は三メートルあるかないかってところだ。


 後ろに控える二人のガンジンは彼よりも一回り小さい二メートルから二,五メートルってところで、手に持つ全ての素材が石でできた斧を見るに、護衛の類か。

 対応している彼は、この集落でそこそこの地位にいるんだろう。


「ム? ソノ男ハナンダ」


 直ぐに注意が俺に向く。

 圧倒的圧迫感が降り注ぐ。ゴツゴツした顔立ちは表情の判別も難しいが、岩で細まった目が睨んでいるように見え、一文字に結ばれた口もそれに拍車を掛けた。


「私の兄です」


 さりげなくシルビナが前に出た。それだけで俺の感じた圧力は緩和される。

 魔物とは別種の、強者然とした圧力で、無意識に息を止めていた俺は、そっと呼吸を繰り返す。


「フム、兄ガイタトハ聞イタコトガナイナ」

「言っていませんから。必要も無いでしょう?」


 こちらからその表情は伺えないが、三人の反応からして、余り反抗する気力の出る表情ではなさそうだ。


「……入レ。族長ハ食事ヲ取ッテイル」

「失礼します」

「……どうも」


 悠々と門を通るシルビナと違い、俺は居心地の悪い気分でガンジン達の横を通った。


 建物……じゃないか。見た目はテントのようだが。

 イネ科っぽい植物の茎を束ねて円錐に重ね、入り口を作っただけのものだった。

 文明っぽさがある。


 通路のようなものは設けていないし、テントの配置も乱雑で仕切りがない。

 防壁の傍にある幾つかのテントが武器庫の役割っぽい。そこから石斧やら石槍を持ち出す奴がいた。


「五十七人がこの集落で生活しています」

「ふぅん? 交流ってどんなことするんだ?」

「食器等は彼らの手作りなんです。私が魔物を間引く代わりの対価として頂きました」


 なるほど、と頷く。精巧な作り云々は俺には判断できないが、日本の安物食器と大差ない作りだったのではなかろうか。

 見た目に依らず、器用な種族なのかもしれない。それとも、この部族が特殊なのか。


「族長ってのはどこにいるんだ?」


 案内もなくシルビナはテントの合間を進む。

 ガンジンが他にもいるが、みんな腰に毛皮をつけているだけだ。性別の判別はできない。小さなガイジンもいない。子供はどこだ?


「この先の洞窟です。食事の最中だそうですが、お邪魔させて頂きましょう」

「食事? 洞窟でか?」


 テントはガンジンに合わせて大きな作りになっている。

 五十七人という規模に反して――かどうかは俺には分からないが――防壁も大きく作られているし、テントだってガンジンが数人囲って座っても、十分なスペースがあるように思える。


「着けば分かります」


 シルビナは振り向かずに答える。

 平地は終わり、岩山を登る。剥き出しの山肌はゴツゴツしていて、傾斜も強い。登り難いぞ、この山。


 見上げれば幾つもの穴が見える。そこへ続く通路はやはりなくて、踏み固められた大地が、辛うじて通り道を示していた。


「暗いな」

「暗がりに慣れる目も養わなければなりませんね」


 迷いなくシルビナは一つの洞穴を選び、入った。

 登って三つめの洞窟だ。人工的に掘られた穴なんだろう。指で削ったような跡や、叩いて固めた跡が見て取れる。

 入り口も、内部も似たような大きさで、ガンジンに合わせているにしても尚広く作られている。

 天井が高く、幅も並の人間が十人は並んで通れる広さがある。


 奥に進む。明かりはシルビナが指先に点した魔法の光のみ。

 周囲十メートル程度を照らすだけだ。先が見えないというのは、少し恐怖感を煽る。


「――っ」


 入り口から百五十歩ほど歩いたところで、視線の先にモゾモゾと動く気配と、ゴリゴリと石を擦り合わせるような音が聞こえた。


「族長殿」


 シルビナが声を掛けると、ピクリと反応して振り向く。

 ここに来るまで何人か見たが、みんな同じような顔に背格好。ガンジンの見分けは俺には難しい。

 分かったのは、せいぜいが大きのと小さいのの、二種がいるってとこだ。

 俺達を出迎えたのが大きいの。住居と思われるテントにいたのが小さいの。まぁ、小さいといっても、二メートルは確実にあるが。


 しかし、このガンジン、デカいぞ。胡座をかいて座っているのに、頭の位置がシルビナの顔の位置よりも高い。


「おおっ。シルビナ様かっ。よくぞ来られたっ」


 振り向いたガンジンは流暢な言葉で嬉しそうに応えた。

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