第十八話 コムラット鉱石採取①
登れば当然降りなければならない。普段ならそれも鍛錬の一環なんだが、今日は別に用事があるってことで、俺は今シルビナに手を繋がれて空を飛んでいた。
「おぉっ、落ちる経験はあるが、飛ぶってのはなんとも、まぁ、不思議な体験だなっ」
興奮冷めやらぬままに、声も弾む。
雄大な緑の絨毯を見下ろして俺達は空を飛ぶ。風は強く感じない。シルビナの風魔法で流しているらしい。
「歩いても良かったのですが、二日は掛かりますからね。飛んだ方が楽で良いのです」
少し彼女より後方にいる俺には、その表情は見えない。声音からして、得意気な顔なのはなんとなく察せられた。
しかし、魔法とは本当に便利だな。これだと、確かに科学技術の進歩は見込めないだろうな。ファンタジー小説にはよくある話だ。
「見えました。あそこです」
自然の神秘で出来た塔から見えていた山を超えた頃、シルビナが声を掛けてくる。
彼女の指さす先には、地肌を剥き出しにした岩山が見える。
その麓付近には幾つもの洞窟が見えていて、森戸の境目辺りに丸太の杭が連なってで出来たバリケードのような壁が設置されていた。
「ああして防壁を築いて、魔物の侵入を防ぐんです」
「ふぅん? 大変なんだな」
「ええ。地球のヒエラルキーの頂点は人でしょう。けれど……」
この世界ではその限りではない、と。
まぁ、それはそうだろうな。あんな化け物共が闊歩する大陸だ。バリケードなしに生活なんて難しいんだろう。
二週間前に遭遇した魔物を思い出して、ブルっと身震いする。
「お兄様?」
「お、ん? なんだ?」
「降りますよ?」
集落に着く前に降りるらしく、シルビナの視線の先は深い森の中だった。
「恐らく、向こうはこちらを確認したと思うので。空からの無闇な侵入は敵対行動と同義です。礼節はできるだけ取るのが世術というものです」
「分かった」
目測で一キロメートルほど離れた場所に降り立つ。
「交流はあるのか?」
「彼らとですか?」
「ああ」
ただ黙々と歩くのも退屈なので、浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「ええ、ありますよ」
「種族とかってどうなるんだ?」
「ガンジン族ですね。分かりやすく言うなら、岩の人、となるでしょうか」
「岩の人……なるほど、ガンジンか」
姿形はそのままなんだろうな。
想像するに、ファンタ○ティック・フォーの、オレンジでゴツゴツした超人的な感じか。
「穏やかな種ですよ。温厚で動植物を愛でる気質の者が多いです。戦士は力強く頑強。先の大戦でも、彼らには苦戦を強いられました」
「戦ったのかっ?」
大戦ってことは、殺しあった仲だろ。それが“ひなた”なのか“シルビナ”なのかは分からんが、交流を持てるってのはまたなんとも……俺の分からない世界だな。
「彼らではありませんから」
「うん? それはどういう……?」
「魔族にも部族があるのです。同じ種族であっても、それぞれの長を仰ぎ、従う者達がいます」
地球にもいるような、部族別民族のようなものだろうか。
「この先に住む彼らは、私が戦った者達とは違う部族なのですよ」
会話の途中、草木を掻き分けて迫り来る、二メートルを超える狼の魔物の姿があったが、シルビナが瞬時に左右の掌で生成した二つの風の渦を飛ばし、削り斬られて絶命した。
クロスに交差した風の渦は、ウウゥゥンとF1カーのような唸り声を上げて左右に別れ、大きく旋回する。
どうも魔物は群れだったようで、俺達をいつの間にか包囲していた同種の魔物を削り斬った。
最後に合流する後方で互いにぶつかり合い、ボヒュウと規模の小さい暴風を起こして相殺した。俺達に届く頃には、暴風はそよ風にまで弱まっていた。
「魔族の集落には食料があったりしますからね。この大陸で比較的弱者に位置するジャットウルフなどは、集落の傍で虎視眈々と襲撃の機会を伺っていたりするんですよ」
「勿論、彼らは弱者なりに強者に歯向かう術を持っていますが、彼らにはなかなか」とシルビナは続けて、血の香るようになった一帯を抜けていく。




