第一話 説明①
説明が数話続きます。
「――ぁっ!!」
唐突な意識の覚醒だった。
強い息苦しさを覚え、喘ぐように呼吸する。
「……はぁっ……はぁっ……」
起こした身は嫌に汗ばんでいて、髪が額に張り付く。
「……ここ、は?」
喉を震わせると妙に痛み、声もしゃがれたものが出た。
長時間無言でいて、急に声を出すとこんな感じになる。
「起きられましたか、お兄様?」
「え?」
淑やかな声が左隣から聞こえた。
顔を向けるとそこには白髪の美女が横たわっていた。肩までシーツを被っているが、露出した肩や隙間から見える胸元に衣服の類はなく、予想するに全裸の可能性がある。
「お寝坊さんですね」
余りの展開に思考が停止した隙を狙われた。
そっと身を起こし、たわわな果実をふるんと震わせて――シーツに覆われて全貌は確認できないが、確実にユイよりデカい――顔を近づけると、チュっと湿った音をさせて頬に唇を押し付けた。
「――のわっ!? どわぁっ!!」
驚いて右側に逃げようと手を突こうと伸ばせば、そこにはなにもなくて、俺は腕から落ちた。
「いっつつ」
「まぁ、ご無事ですか、お兄様?」
痛めた腕を押さえる俺に呑気な心配する声が降かかる。
ベッドで寝かされていたらしく、五十センチの高さから落ちたらしい。そこから、白髪の美女が見下ろしていた。
女性らしい丸みのある柔肌をシーツで隠している。
「今、治癒しますね」
不可思議な発言の後、痛めた腕が暖かな緑光に包まれる。
「は? あ?」
なんと表現すればいいのか、痛みが和らぐと云うよりも、光に吸収されているような、吸い取られる感覚がある。
それはまるで――
「魔法ですよ」
「あ?」
俺の内心の疑問に答えるように女が言う。
まほう? 魔法、か? そんな馬鹿な。いや、でもそれ以外にこの現象に説明がつかない、か。
じっと女を見詰める。
ベッドから身を乗り出し、片手でシーツを押さえながらもう片方の手は俺の腕に掲げられている。
ほんのり頬が赤いのは流石に恥ずかしいからか? 何気なく同衾していたようにも思えたが、内心は違うようだ。
「……ここはどこだ?」
痛みが引いた腕をぷらぷらと揺らして具合を確かめながら聞く。まほうとやらのことは後だ。今は現状把握が最優先だろう。
なるだけ、女の方に顔を向けないようにする。
喉の痛みも序に癒えたようで、もう声を出しても違和感がない。
女はベッドから降りてシーツを落としてしまった。いや、着替えるのか、そのままひたひたと素足で歩き、部屋の脇にあったクローゼットに向かう。
で、お着替えの時間だ。男がいるってのに、どんな神経してるんだ。
「ここはセルベティアと呼ばれる大陸です」
絹擦れのを音を響かせながら女が言う。妙に生々しいそれで、衣服を纏い始めるのが分かった。
「セルベティア? 聞いたことないぞ、そんな大陸」
聞き馴染みのない単語に首を傾げる。
「それが、あるんです。魔神セルベティア様が排他される魔族を憂い、居場所を与えるために、遥か昔、二億年も前に神力でお造りになられた大陸なんです」
「は? まじん? まぞく? じんりき?」
「ええ。ゴブリンやオーク、リザードマンなどはポピュラーな魔族でしょうか。彼らは知能が低く、大した力もない木っ端で、人型ではあるものの、魔人族に分類されるオーガやドラゴニュートらとは比べるべくもない、魔物寄りの存在ですが」
ちんぷんかんぷんだ。
いや、意味は分かる。ゴブリンなんかはRPGゲームに出てくる馴染みのある雑魚キャラだ。オークとかリザードマンなんかもそうだろう。
魔法やら魔神やらってのも疑わしい。
生で、リアルで聞く単語じゃない。夢を疑うレベルの事案だ。
だがしかし、それもさっきの落下の痛みがこれが現実であると訴える。まぁ、その痛みも嘘のように消えてしまったが……
「これは現実か?」
現実逃避地味た俺の呟きに、女はにこりと微笑んで……
「今の格好は魅力的ですが、お兄様も着てください。私の理性が保ちません」
頬を朱に染め、視線は顔よりも下に向いている。
「へ? きゃああぁぁぁっ!!」
女の視線を追えば真っ裸の身体。男のシンボルもブランとしている。
俺は悲鳴を上げて女が寄越した絹の衣服で身体を隠した。