第十四話 修行⑤
朝食を終え、十分程度の食休みも済ませた。
直ぐに動くと辛くなるからな。胃を落ち着ける時間は重要だ。
「では、付いてきてください」
「ああ」
さっきもその一言だけだった。
「……?」
「どうした?」
昨日のドレスではなく、白地の修道服に召喚されたときに見た、フード付きの白ローブを羽織ったシルビナが、背を向けたと思ったらすぐに振り向き、眉根を寄せた。
「いえ、何をするのか聞かないのかな? と思いまして」
「……ああ」
そういえば、さっきは聞いたな。「どこにだ?」と問えば、「どこにでも、です」と返答された。
それでもう聞いた気になっていた。何をするのかも知っているしな。
「ひなたを救うのに必要なことなんだろう? なら、問答の時間も惜しい」
ということで納得してもらおう。
「……」
「まだなにかあるのか?」
「……いえ、気の所為、ですね。行きましょう」
疑念を払うように頭を振って進むシルビナに追随する。
そして繰り返されるザモーロとの鬼ごっこ。
「予定変更です」
(来た!)
「ザモーロの討伐。それを訓練内容にしましょう」
木に刺さった直剣を引き抜く。行動は迅速に、だ。
木々の陰を駆けながら思うことがあった。
俺はユイを救った。彼女自身も、俺が助けたんだと認識してくれた。
でも、それは違うように思えていた。何故なら、俺は危機を回避したに過ぎなかったから。敵を打倒したわけではなかった。
真っ向から挑んだことはある。でも、歯が立たないことを知った。
だから俺は問題の回避に躍起になっていた。思考は常にどう動けば障害を避けられるか、壁を迂回できるかしか考えていなかった。
でも、それではダメなんだ。それではひなたを救えない。戦わなければならない。立ち向かわなければならない。
避けては通れない壁だ。乗り越えなければならない。ぶち壊さなければならない。
さっきは足音を立て過ぎた。もっと静かに、素早く動く。
足裏全体ではなく、なるだけ、爪先で地面を蹴るように走る。気分はさながらバレリーナだ。
ただ、不安定な状態の地面も多く、そんな走り方を続けていると、足首を捻りかねないんで、傾斜だったり、へこみがあったりのところは、足裏全体でしっかり踏みしめる。
ただ、これも気付かれてしまったらしい。動物の聴覚や嗅覚、視覚ってのは人の数倍、数十倍は優れているそうだ。
魔物という括りではあるが、アレもまた動物といえる。五感のいづれかが優れていても不思議はない。
左方向から迫る尾っぽをスライディングで躱す。その先にあった根のアーチも潜り抜けて、左足を軸に立ち、直剣を斬り下ろした。
狙いは右の後ろ足首。
キィィンッ。
どれほど硬いのか、皮膚は裂けず、火花を散らして剣が弾かれた。
「それではダメです。お兄様の技量で、ザモーロの肉を裂くことは不可能です。魔力を惹いては、魔素を剣に流し込み、強化するのです」
どこからか聞こえるアドバイス。けれど、今はそれを活かせない。
ほら、後ろ足が降ってくる。
デカいなぁ。足の大きさは周径二メートルはあるんじゃないか?
そして、意識は再び闇に包まれ……
………………
…………
……
三度目の二日目の朝食だ。ややこしいにも程がある。が、そうとしか表現できないのだから仕方ない。
三度目の朝食も済まし、三度、ザモーロに追い掛けられている。
体力作りや悪条件での身体の動かし方等を学ぶのに、最適な鍛錬方法なのだというシルビナに付いていく。
(……?)
足を動かしていると違和感を覚える。ただ、それがなんなのか判然とせず、モヤッとした気分にさせられた。
「予定変更です」
シルビナが木に登るまでの過程も終えて、分岐点に到達する。ここから先は死んで戻るか、生きて進むかだ。
………………
…………
……
はい、死にました。角でぐさぁっと逝かされた。初体験だった。
ナイフはあるけど、俺の胴を優に超える太さのそれに、腹を貫かれるとか、もうね。
まぁ、痛みを感じる前に意識はとっくに暗転するんだけど……
このままじゃダメだよなぁ。どうにかして突破しないと、始まりすらしない。
「お兄様?」
「ん?」
「手が止まっていますが、お口に合いませんか?」
心配そうに顔を覗き込むシルビナに「いやいや、美味いぞ」と答えて、朝食を取る。
妹――だと思われる――であるシルビナに心配を掛けちゃ、兄失格だよな。
シルビナは言った。剣に魔力を通すんだと。それができれば、素人の俺でもザモーロに傷を付けることができるのかもしれない。
『魔力渡し』――そう呼ばれる技術があるそうだ。
魔力による『身体強化』の発展版。己の身に付けた衣服や武具、防具に魔力を通して強化するのだとか。
三度目に死ぬ前に、シルビナの説明を受けた。回を重ね、延命する度に彼女はアドバイスを多くくれる。
生き残る術は、『身体強化』と『魔力渡し』にある。
この二つを身に付けることが、今の俺の急務になるだろう。
大丈夫だ。何度でも繰り返してやる。前もそうやったんだ。今回もいけるはずだ。




