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プロローグ〜マンホールから落ちました〜

タイトル長っ


余り長いタイトルは好きじゃないんですが、思いつかなかったのでこれにします。

 皆は何故マンホールの蓋が丸いか知っているだろうか?


 聞くところによると、四角や三角だと角を斜めにしたとき、蓋の縁と穴の縁が噛み合わず落ちてしまうから、角のない丸い形なんだとか。


 万が一、何かの拍子で蓋がズレても落ちはしない……らしいんだが、何故か俺は今落ちている。

 マンホールを踏んだ瞬間、踏み込む感触と共に沈む感触を味わった。


 浮遊感が身体を襲う。

 上を見れば青空が広がっている。ぽっかりと黒い穴が見えた。あそこから落ちたらしい。

 下は森だ。地平の果まで続く深い森林。緑がずっと先まで続いている。微かに土気色の地肌を晒す山の連なりが、視界の先に霞んで見える。


 周囲を見れば白い雲が上下左右に幾つかと、鳥の群れ、か? なんか足が四つあるように見える鱗の生えた鳥類よりも爬虫類に分類されるような翼を持った生物が、十数匹(頭?)目の前を横切る。俺に気がついた様子はない。


『……なんだ。夢、か?』


 喉を通って出たはずの声が、脳内で反響する。

 余りにも現実味がなくて、けれど浮遊感は怖いくらいに本物で……

 いや、実際怖かった。

 キ〇タマがヒュッてなった。階段を踏み外したとか、顔すれすれを車が通ったとかそんなレベルじゃない。

 今も俺のキ〇タマは縮み上がっていて、恐怖に震えている。


 ◇


 さて、少し遡って思い返してみよう。俺――藤佐田(ふじさだ) 隆之(たかし)が現実味のないスカイダイビングをしている理由を……


 朝、両親と可愛い妹と一緒に朝食を取った。

 妹と家を出て登校。スクールバス通学の妹とはバス停で別れて半時間掛けて登校した。その際、今年度の春から付き合い出した幼馴染で彼女の華道 唯華(かどう ゆいか)と合流。

 教室は違うから、廊下で別れて無事クラスに着く。


 無難に午前授業を終えて昼休み、いつもの様にユイ――ユイは唯華の愛称だ――と中庭で彼女手製の弁当を食べ、午後の授業も無難に終えて下校。

 今日はバイトだった俺はユイと途中で別れてバイト先へ向かい荷降ろし、荷積みを繰り返して帰宅……の途中でマンホールを踏み込んで今の現状に至る。


 理解不能だ。不思議現象に遭遇したことはあるが、どうもそれとは異なるようだ。

 結構な速さの落下だというのに、風は感じないし、頭が下を向くことはなく、姿勢も安定している。

 足は着いていないが、透明のエレベーターで降りている感覚だ。浮遊感もそれに近いかもしれない。


 数秒か数分か数十分か、妙な時間の引き延ばしを感じながら周囲を観察していると、いつの間にやら地面に随分近づいていた。生い茂る木々の枝葉を抜けた。

 上の視点からでは分からなかったが、結構なデカさだ。一本一本が十メートルほどの高さで、幹の太さが五メートルに及ぶ。低い位置には枝葉がなくてスッキリしたもんだ。

 不思議なことに、枝葉を抜けたのに引っ掛からなかった。謎だ。


 地面に近づいて分かったが、着地点は剥き出しの地面ではなくて、森の中にある丸太造りの山小屋だった。


 枝葉を抜けた時点で分かっていたが、この身体は物をすり抜けるらしく、屋根にはぶつからず、そのまま抜けて屋根の断面、屋根裏、天井の断面と通過していく。


 屋内には何もない。六畳ほどの部屋があって、向かい合う壁に二つ扉がついている。


 部屋の中央には光り輝く……魔方陣、か。円の中に幾つかの六芒星が重ねて描かれていて、空白部分にアルファベットを崩したような文字がある。

 人一人寝転んでも十分に余る大きさで、中心に全裸の男が寝かされている。

 魔方陣の外には手をかざす白髪の女がいる。目を閉じてなにか呟いているようだが、上手く聞き取れない。


 俺は今、魔方陣に寝かされている男の上で停止している。

 髪色はグレーだが、顔の造形、背格好、どこかで見覚えが……ああ、俺か。

 細部は違うんだろうが、鏡で見る自分自身に近いことが分かる。通りで見覚えがあると……


『――っ!? なんだっ!』


 魔方陣が一際強く光を放つ。床に描かれた六芒星がキュルキュル回っているようにも見える。


(いよいよファンタジーかよっ)


 信じられない光景に心中で悪態を吐く。


『っ』


 光量に耐えられず顔を上げると、女と目が合った。

 光をキラキラ反射させる白髪は、よく見れば少し銀掛かっている。目は琥珀色で夕焼けのように鮮やかで、ローブと言うんだろうか、フードの付いた純白のそれを押し上げる胸部装甲は平均以上のユイと比べても遜色ない。いや、身体の線を隠すそれを羽織って尚も内から持ち上げるのなら、彼女以上かもしれん。


 ゴクリと壮大な“夢”の詰まったそれに戦慄を覚え生唾を飲み込むと、白磁のような肌を持つ女の頬に朱が差す。


(こいつ、やっぱり俺が見えて――)


 思考の途中に、身体が下がるのが分かった。

 未だ強い光量に目を細めて見下ろすと、足から徐々に男の中に入っていくのが見て取れた。


『は?』


 疑問を表す間抜けな声が頭に響くと、更に高度は下がり、一気に床が視点の高さに達し、電源が落ちるように視界が暗転した。

週一間隔で投稿します。二週に延びたりはするかも……

長編は苦手ですが、(元々高くない)クオリティを保てるように頑張ります。

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