第七話 リリアン、妹として認められる。いいのか!? これで!!
こんなの読んでくださる皆様。ブクマくださる皆様。評価くださる皆様。感謝です!!
そして何故こんな作品に・・・・・
今回は制作1時間15分でした。
スピード「だけ」はけっこう早かったです。
アニトニオの苦悩をよそに、無情にも馬車は行く。
いや、アニトニオの気持ちを思えば、逝くと表現すべきか。
やがて進む道の先には、懐かしの我が家、愛すべきエルモア城が見えてきた。
・・・・・それ以上に城に巣食っているリリアン姫が大嫌いなので寄り付きたくもないが。
はあああっと、深いため息をつくアニトニオは、城の様子がいつもと違っていることに気づき、目をごしごしとこすった。
「・・・・・・おい、なんだかエルモア城が霧に・・・・・いや、湯気に包まれていないか?」
いつもここまで来るとくっきりと見えてくるエルモア城が、もあもあと白くけぶっている。
「・・・・・気のせいでしょう。さあ、急ぎますぞ」
リリアン姫に人質にとられた愛する家族の心ことで頭がいっぱいの御者は、気もそぞろに答えた。
「・・・・・巨大な水柱がふきあがってるんだが、あれはなんだ」
霞む城の中庭あたりから、水柱、いや、湯柱が噴水のように天高く噴き上がっている。
そのせいで湯気と水煙りが発生し、城全体をおおいかくしているのだ。
ドラゴンのリリアンが岩盤を叩き割って地表にあふれだした温泉は、とても湯量が豊かであり、いまだにどうどうと音をたて、湧き続けているのだ。
「なに、よくあることでさ。蚊柱のでっかい奴でしょう。さあ、もうすぐ城ですよ」
家族の安否しか頭にない御者にあっさり流され、アニトニオは、ううーむ、と首をひねって腕組みし、黙りこくった。納得はいかないが、もう城に着くし、あとは自分の目で確かめればいいか、と思い直したのだ。
なぜか開け放しになったままの城門を馬車が通過し、アニトニオはとてもいやな予感がした。
門番がおらず、はね橋まで降りっぱなしだ。
もうもうたる湯気のせいで遠くは見えないが、見張り塔にも動く人影は見えない。
中庭に馬車がとびこむやいなや、御者は愛する家族の名前を叫びながら、こけつまろびつ走り去ってしまった。馬丁も後に続く。リリアン姫に家族の命乞いに行ったのだろう。
「おい!! こんな中途半端なところに置き去りにするな!! せめてドアを開けていけ!!」
貴族の馬車のドアは内側から開くようには出来ていない。
アニトニオは抗議の叫びをあげるが、誰も答えるものがないことに気づき、馬車の天窓をあけるとそここからのそのそと這い出した。まるで空き巣であり、とても次期領主の姿とは思えない。
「・・・・・俺、人望ないのかなあ。自信なくしちゃうよ、ほんと・・・・」
馬車のてっぺんから足をすべらせて転げ落ち、ぼやきながら腰をさすって立ち上がった。
じつはアニトニオは自分で思っているより家臣に慕われている。
気取り屋だが公正だし面倒見もいいからだ。
・・・・・ただリリアン姫への恐怖は、この城ではすべてに勝る、というだけで。
「・・・・・な、なんだ、これは。大地震でも起きたのか・・・・・」
自信を失いうつむきながら、それでも気を取り直して顔をあげたアニトニオは、信じがたい城の状況に顔をこわばらせた。風向きが変わり、一気に湯気が流れ去ったのだ。
エルモア城はあちこちの屋根がめくれあがり、壁が崩れ、それはもう散々なありさまだった。
とくにひどいのが、城の中心部にある大広間を内包する天守で、上半分は完全にふっとび、瓦礫と残骸に埋もれた大広間がむきだしになっている。
そして中庭には亀裂が走り、ぶっとい湯柱が轟々と盛り上がっている。
温水が雨のようにふりそそぐなか、湯柱の周囲をぐるぐる回りながら、城代が喜びのダンスを踊っている。まるでキャンプファイヤーのレクリエーションのようだ。
さらにそのすぐ横で困った顔で立っている執事。
そのまえに土下座している、エルモア城の旗を服代わりに巻き付けた少女。
少女はコメツキバッタのようにぺこぺこと謝り続けている。
がつつんがっつん額がぶつかるたび、地面が揺れる。
執事の顔は戸惑いだけでなく、恐怖の色が濃かった。
「ごめんなさい!! 悪気はなかったんです!! 姫さまになりすまそうとしたことは謝ります!! 堪忍してつかあさい!! どうかこのことはご内密に!!」
泣き喚く少女の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
年頃の女の子とは思えぬ豪快な泣きっぷりだった。むしろ幼児に近いものだった。
それでもなおその美少女っぷりは健在であった。
そして二本のピンクのおっぽがしょんぼりと地面に投げ出されていた。
「・・・・・しっぽが生えた美少女お? なんだあ、これは・・・・・なにが起きてるんだ」
茫然としているアニトニオに気づき、執事がはっと救いを求めるように振り向いた。
「おおっ!! アニトニオさま!! いいところにお帰りで!! 私では手に負えない話なのです!! どうかこの方のお話を聞いてやってください」
どうやら現れたアニトニオがこの場で一番偉いらしいと悟ったしっぽつき少女は、膝がしらから煙をふく勢いでにじり寄って来た。
「・・・・・ひいっ!?」
あまりの勢いに気圧され、あとずさりしようとしたアニトニオの足に、逃すまいと少女はしがみついた。
「お願いします!! どうかお姫さまを殺っちゃたことを内緒にしてください!! 私、どうしても人間界にいたいんです!! あれは不幸な事故だったんです!! ああっ、野蛮なドラゴンの世界に軟禁なんていや!! 歌や詩やステキなものであふれた人間界に来られなくなったら、私、わだじぃっ・・・・・!!」
本人が興奮しまくりの悲観しまくりで、ちっとも話は要領をえない。
だが、執事と踊りをやめて戻って来た城代の補足説明で、アニトニオはだいたいの全容をつかむことに成功した。
「つまり、君はほんとうは妹と同じ名前なだけのドラゴンということか。そして事故で妹を殺したことを隠蔽しようと、妹の姿に化けたと」
「・・・・・はいっ・・・・・ううっ、ぐすっ・・・・でも、城代さんと執事さんには、なぜか、すぐ見破られてしまって・・・・ううっ、ごめんなさい・・・・・」
しゃくりあげる、にせリリアン姫を見て、執事が深くため息をつく。
「・・・・・当然です。本物のリリアン姫さまは、あなたとは似ても似つかないお姿です。ひとことで申すならば、カバを地獄で煮しめたような・・・・・もがっ・・・・!?」
執事の口をがばっと抑え込み、アニトニオは横にかぶりを振った。
とととんっと、執事の手の平をアニトニオの指がつつく。執事は目を見張った。
それは暴虐のリリアン姫の目を盗んで連絡をとりあうため、姫以外の領主家族と上位家来達のみが知る暗号通信だった。
〝わかってる。どうせ間違って、あの嘘八百のリリアンの自画像を真似しちまったってとこだろ。いいから俺にまかせろ。どうやらこのリリアン殿は、人間の文化が大好きの気のいいドラゴンらしい。せっかくこれだけの超美少女が、あの地獄カバの身代わりになろうとしてくれてるんだ。しっかり利用させてもらおう〟
さすがは次期領主、いつのまに御立派に御成長を、と感涙する執事にうなずき、アニトニオは、リリアンに向き直った。
「・・・・・君の事情はよくわかった。聞けば、うちの妹が君を狩ろうとしたのが、そもそもの原因だとか。ならば君の行為は正当防衛といえよう。・・・・・愛する妹を失ったのは、心の底から哀しいが。しかし罪を憎んで、人・・・・・ではない、ドラゴンを憎まず。二年間変身が解けないというのなら、そのあいだ俺の妹リリアンとして暮らすことを許そう」
罰を言い渡されるかとびくびくしていたリリアンは、驚きに目を見張り、ついには祈るように両手を組み合わせて感極まって叫んだ。
「なんて寛大なお心なんでしょう!! だから私は人間が大好きなんだわ!! ありがとうございます!! アニトニオさま・・・・・・!!」
「ふっ、もっと褒め称えまえ。そして違うだろう。俺は君の尊敬する兄だ。ならば呼び方は・・・・・」
「・・・・・はい!! 世界一すてきな私のお兄様!! 」
「ふははっ!! 善き哉!! 善き哉!! 兄を呼ぶときは、訴えるような上目づかいを忘れぬようになっ!!」
頬を上気させ感激するリリアンを見て、御満悦の高笑いをするアニトニオ。
ふってわいた幸運に我を忘れて抱きつくリリアンに、やに下がりながら。
執事は、そう言えばこの方は、リリアン姫の反動で、けなげで美人な妹というものに死ぬほど憧れていたっけと思いだし、溜息をついた。
「なんだ。文句あっか。俺は泉におとした錆鉄の斧が金にかわったら、躊躇わず金を取る男だ」
力強くアニトニオは宣言しながら、今年のミス新入生杯の優勝はもらった、と心の中でガッツポーズを取るのだった。
お読みいただきありがとうございます!!
高速制作で、なにかを掴めるような、掴めないような・・・・きっと掴めてないと思います(笑)