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第三話、知らない。

この物語はフィクションです。実在する人物、団体、その他とは一切関係ありません。また物語を進めるにあたって、史実とは異なった描写を用いてる部分があります。ご了承ください。

この物語はアルファポリスにも投稿しています。

藤堂平助(とうどうへいすけ)藤原宣虎ふじわらののぶとら。北辰一刀流目録を十代半ばで取得し、同流伊東道場に出入りしていた。また後に土方や沖田と同じく近藤勇の道場試衛館に入門をする。永倉新八著の『新選組顛末記』によると試衛館時代からの同志であり、最年少幹部として八番隊隊長や副長助勤を務めていたと言われている。

 また藤堂は自ら「死番」を引き受け、常に隊の先陣を切っていたことから『さきがけ先生』の異名もあった。

 そして、新選組脱退後、伊東道場主であった伊東甲子太郎いとうかしたろう率いる御陵衛士ごりょうえじとなり――「油小路の変」にてその生涯を終えた。

 二十四という若さであった。





 ◇◇◇





 ――小一時間前。


 西洋風の商店街に黄昏の橙が落ちる。

 学生の呑気な笑い声や走る自動車の音に紛れるようにして、折田が自身の足音を響かせる。

 掃討屋が苦であるわけじゃない。寧ろ、思いがけない再会の連続で、嬉しさの余り物も言えなかったくらいだ。

 足音に軽快な音程をつけて、鼻歌を歌う。

 さりとてこれからどうしようかと、取り敢えず商店街を抜けてみる。退社した手前、態々《わざわざ》戻って事務仕事をする気にはなれない。


 ――タタタッ。


 不意に自分のものじゃない足音を拾った。

 なんだなんだと耳を澄ませているうちに折田の横を走り去って行く。まだ若い少年だった。

 「おや、こんな黄昏時に何事かな」

 束の間、折田の横をまた何かが通り過ぎて行った。風力で髪を巻き上げる。

 ひとではない何かに無意識に「ほう……」と溜息を漏らした。あれは先刻の「獅子」ではないか。

 ……あの少年は『視える』のか。


 否、それよりも。


 ――袖振れ合うも他生の縁。


 気が付けば二つの影を追って、駆けていた。

 少年が何かに躓いて転んだ。

 一気に距離を詰められて逃げられないと悟ったのだろうか、足元の小石や小枝を投げつけ始めた。が、獅子はびくともしていない。


 ……好都合だ。


 「そこの少年~、そいつ斬るから頭伏せてて~」


 折田は走る速度を上げて抜刀の構えをとった。徐々に感じる刀の重さにニタリと笑い、鯉口を切る。

 腰を落とし、刃を顔の横に持ち上げて、眼前に狙いを定める。

 斬れる。


 「『天然理心てんねんりしん三段菊さんだんぎく』」


 踏み込みの足音が一つだけ鳴り、三輪の黄色い菊が舞った。そして其々が「刃」となり、異形を貫く。最後に折田が胴を斬ると、異形の黒い靄が一気に晴れた。

 つい「最近多いよなあ」と、独り言が口から漏れる。

 折田は刀を鞘に納めてから少年と向き合った。

 「やあ、やっぱり君か。怪我は無いかい?」

 かつての友の顔。

 見間違えるはずはない。

 話したい事も言いたい事も山積みだ。しかし順を追っていかなければと折田は深呼吸をする。

 そして口を開いた。

 「また会えて良かった。憶えてい――」


 「……あんた、妖怪か? なんで俺を助けた」


 暫くの間。


 ……そうか。



 そういうことか。



 思いがけない辛辣な言葉から勝手に状況整理をして「なるほどね」と頷く。

 折田は、こほん、と咳払いをし、営業用の笑顔を張り付けて、芝居がかった喋りを始めた。

 「僕は『異形掃討屋』っていう、さっきみたいな化け物専門の企業で働いてる人間だよ」

 「いぎょうそうとうや……」

 「君って昔から()()()()()視えてたでしょ? 妖怪の類とか」

 少年の顔色が少しだけ変わった。沈黙は肯定だと捉えて話を続ける。

 「それは君が、他人より『死』に近しい人間だからだよ。そして偶然ながら僕もその人間の一人だ。……ところで少年、名前は? って、人に訊く前に自分からだよね。僕は折田、折田史和だ」

 「……幸助こうすけ

 「おーけー、幸助くんだね。さて、ここで僕からひとつ相談があるんだけど……君の力を貸してくれな──」

 「断る。妖怪絡みだろ、面倒ごとは嫌だ」

 即答された。少しくらい考えてくれていいのにと思ったが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 今こうやって、この時代で会えたという事実自体が確実に縁だ。それに折田は、彼の意志の強さを誰よりも理解している。

 理解しているからこそ、此処で逃がしては駄目なのだ。

 面白い、とまたニタリと笑う。

 「そう言わずに。ちゃんとお金になる仕事バイトだからさ~。今なら僕の権限で正社員採用もできるけど」

 それに、さっきのような異形に追われることも無くなる。そう付け足すと幸助の目が一瞬泳いだ。と思うと、食い気味に「時給は?」との言葉が飛んでくる。

 矢張り、何時の時代も世の中「かね」だ。

 「実力によって手当が付くから色々だよ。詳細は社にあるからよくわからない……でも確か最低でも二十五万かそれくらいだったような」

 勿論、それ相応の力と成績があってこその給料だ。嘘は言っていない。

 「……わかった」

 幸助が淡々と言った。如何やら引き受けてくれるらしい。

 「履歴書は?」

 「あ〜……要らない。でも入社前に『局長』の面談がある。面談って言っても幸助くんの採用は確実だから心配しなくていいよ」

 そうか、と言う幸助の返事に内心安堵しながら、折田は携帯端末を取り出した。

 「僕の連絡先を教えよう。何かあったらすぐ連絡を頂戴。勿論、仕事バイトの話だけじゃなくて身の危険を感じた時でも構わないからさ」

 「……わかった」

 そう答えた幸助も自身の携帯を取り出した。

 思っていた以上の手の平返しに少々の不安を感じたが、「まあいいか」とひとまず電話番号のついでにメールアドレスも交換する。「ラインでも構わない」と言ってくれたが「流石に初対面の人間にそれはまずい」と自重させてもらった。外見を見る限り、義務教育を終了しているかすらも危うい。

 それを言ってしまうと「じゃあ何故勧誘した」という話になるから、胸の内に仕舞う。

 「さて、また異形に出遭うのは面倒だ。折角せっかくだし家まで送ろう」

 折田は幸助に手を差し伸べた。

 幸助は其の手を取らずに「こっちだ」と踵を返す。

 「……連れないなあ」

 折田はポツリと呟いた。




◇◇◇





 「ところで幸助くん、新選組って知ってる?」


 「……知らない」

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