呪いの対価
「猫」ねこねこ
悪魔には息子がいる・・・正確にはいた。
勘当した息子だ。
「父上、自分は人間に仕えます」
つやつやした漆黒の毛並みとエメラルドグリーン色の瞳の面影を浮かべる。
「彼女は・・・・あのヒトは自分がいないとダメなんです」
自分がいないとダメ?
お前に何が出来るのか。
人間界では通常の「猫」と同じように猫語しか話せず魔力も使えないお前に!
ただただ人間の・・・あの下等な生き物の玩具になりさがるというのか?
あの脆弱で何も出来ない・・・悪魔から見れば餌でしかない生き物の。
誇り高き一族の血を受けながら・・・・
許さない。
絶対に許さない。
二度と目の前に現れるな・・・・そう言ってもう3年になる。
息子は人間の雌と一緒に住んでいるらしい。
ペットとして・・・普通の人間界の猫として。
その人間の雌は恋人を亡くし一人で健気に生きている・・・らしい。
どれもこれも伝聞でしか息子の近状を知らない。
まれに人間界に行った同族たちからそれとなく息子のことを聞く位だ。
人間なんて我々悪魔族と一緒・・・・力がない分、それ以上に醜く自己中心だと聞く。
悪魔は試してみることにした。
人間の欲望を・・・・。
その醜さを。
一人は地球の鳥から悪魔を助けてくれた小娘。
そしてもう一人。
秋保。
幼稚な召還術の真似事で本当に悪魔を・・・我々を呼び出せるとでも思ったのか?何て稚拙な!なんと愚かな!
しかもそこまでしての願い事が「キレイになりたい」だと?
愚かだ。
余りに滑稽で幼稚で喜劇にすらなれない。
そんなコトのために魔力を使うのはもったいない。
折角だから彼女の「欲望」を試してみたくなった。
願いが叶いどん欲に次ぎを求める人間は・・・・どこまで醜いのか見たくなった。
しかし・・・秋保の願いはちょっとした「こらしめ」程度だった。
カエル嫌いの男の腹にカエルを憑依させて欲しいと頼まれた。
しかも2日間だけ。
そんなままごとみたいな願いに命をかけるつもりか?
愚かだ・・・その愚かさは無知からなのか生粋のものなのか・・・・
自分を弄んだ男を殺すのか?と聞いた時、秋保は即座に
「まさか!」
と言った。
恨みはしないのか?
自分を弄んだ男を切り刻みたくないのか?
わからない。
自分勝手だが他人を恨み切れない。
他力本願で愚かだが素直でもある。
人間とは・・・・「猫」は判らなくなった。
息子が仕えている・・・・魅入られている種族がどんなものか。
明日、秋保の願いが終わる・・・つまり、明日になれば秋保の魂をもらうことになる。
そして恐らく明日、あのもう一人の少女の願いも判る。
あの善良そうな少女の欲望は・・・・・
秋保の幼稚な欲望を思い出すと「猫」は小さく溜息をついた。
契約は契約。
「猫」は秋保に連絡を取るべく携帯でメール文面を作成しはじめた。