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残り香と誤解

お久しぶりです

実希から差し出された新作の杏仁シェークなるものは非常に甘く、ってか甘すぎて予想はしていたことだが純一は思わず顔をしかめてしまった。

「ね、これ何だか本物の杏仁豆腐より甘くない?」

「え?そうかなぁかなり忠実に再現してると思うんだけれど・・・・・」

ずずーっとシェークをすすりつつ実希は純一を見上げた。

しかめ顔の純一を楽しむかのように実希はにんまりとしている。

「?」

微かな違和感。

実希とシェークの甘い香りに混ざって非常に微かだが『何か』の香りがした。

(CREATUREのにおい・・・・?)

純一のように人間界に溶け込み生活している魔物は少なからず存在する。

しかし漂う香りは魔物本体というよりその残り香のような・・・・魔術を感じさせる・・・小さな痕跡。

その発信源と思われる方向・・・右前方には実希と同じ制服を着たギャル系の美少女がいた。

ふと美少女と目があいそうになりそのまま視線を泳がせつつ観察。

どうゆう構造になっているのか複雑に編みこんだ髪型にくるくると巻いた髪。

黒々とした睫毛は眉まで届きそうな程だし揚げ物でも食べた後のような唇は何だか海洋生物を思わせた。

(キレイなのに・・・何かもったいないなぁ)

純一は密かに思いつつ実希を観た。

(うん。やっぱりナチュラルがいい)

「ねぇ。実希。

 今すれちがったコって同じ学校のコだよね?」

少女と十分な距離を取った後、小声で聞いた。

「え?えっと・・・ああ。隣のクラスの塚田さん。

 なぁに?純一ってば彼女みたいな美人系が好みなの?」

「違う違う。実希が一番だって。

 そうじゃなくて・・・・あのさ、彼女って最近変わったことなかった?」

「え?何で知ってるの?

 以前はもっとこう・・・・正統派美人っていうか・・・

 もっと近寄りがたい美人さんだったんだけれど最近、何かギャルになったの。

 以前は以前で隠れファンが沢山いたけれどギャル系になった途端、

 雑誌に出たりですっごい有名人になったの」

以前の物静かな美人さんの時も良かったんだけれどなぁと実希は続けた。

「そっか・・・」

「何で?塚田さんのこと知ってるの?」

「いや・・・えっと・・・彼女からCREATUREの臭いがして・・・・」

「なぁに?それ。香水?」

とぼけた答えをする実希につっこみを入れたかったけれど保留した。

「魔物。俺たちみたいな種族のことだよ。

 さっきの彼女・・・あの子は完璧に人間だと思うけれど身近に魔物がいると思う・・・」

「ふぅん・・・。じゃぁ私と純一みたいに友達なのかしら?」

(えぇやっぱり俺ってまだ友達かぁ)

若干凹みつつも悪気はないであろう実希に笑顔を向け

「そうだったら良いけれど・・・悪い魔物だったら・・・・」

と穏やかに返した。

「同級生が魔物の餌にされたりしたら実希もいやでしょ?」

「餌・・・って喰い殺されちゃうの?」

「種族によってはね。

 俺たち吸血鬼や夢魔は殺さずに餌とするけれど・・・

 もしも悪魔族と契約なんかしていたら確実に殺される・・・

 あの魔法陣のこともあるし・・・。」

「・・・・ねぇ。純一にとって私って餌候補?」

真摯な瞳で突然、実希が問うた。

あまりに衝撃的な台詞だったので驚いてしまい思わず足を止めてしまった。

「何バカな事言ってるの。

 俺、今まで一度でも血吸った事ないだろ?」

ムキになって語調が少し強くなる。

「そっか。餌ではないんだ」

さして気に留めるでもなくまたストローに口を付け実希はペースを変えずに歩き出した。

(餌?実希が俺の?何を言ってるんだろう・・・)

真意が掴めず釈然としないままだが純一も実希とあわせて歩き始めた。

俺、何か不安にさせたのかな?


太陽が沈み、空が藍色のグラデーションに染まる中、純一は実希を自宅まで送るべく2人でのんびり歩いた。

「この道・・・暗くて民家から遠いから一人では通っちゃだめだよ」

実希の家がある住宅地には少し大きめの公園がある。

そこを通過していくと住宅地の道沿いに歩くよりも5分ほどショートカット出来る。

しかしその道は鬱蒼とした木々の合間にところどころ外灯があるだけで昼間はとても穏やかな公園だが夜は少し・・・・若い女性には勧められない道だった。

「えー。この道。すっごく便利なのに」

「便利でもだーめ。

 俺が送るコト出来る日だけにしようね」

「過保護だなぁ・・・・

 でも・・確かにこの道は夜に一人で通っちゃダメって

 小さい頃から親にも言われていたなぁ」

「でしょ?ほら、みんなの言うこと聞こうね」

「はぁい・・・あっねぇ見て!ちょうちょ!」

実希が指さす先にちょうちょにしては大きな何かが蝶にしては随分としっかりとした飛び方でひらひらしていた。

日もかなり落ち、黒いシルエットだけ見えるソレはスズメなど小鳥とは明らかに異なる飛び方で方向転換しながら飛び去った。

「あれはね、実希。コウモリだよ」

「へ〜っ凄いね。コウモリって日本にいるの?」

「たくさんいるよ。特に住宅地にね。

 屋根裏とかに巣を作るだんだよ」

「すごい。アレみたい。ホラーっぽい」

楽しそうに空を見上げる実希の顔に髪が一房かかっていた。

その髪をそっと指にからめ耳にかける時、頬を撫でた。

「ん?」

小首を傾げるように見上げてくる実希の大きな瞳が外灯の光を拡散させてきらきらしている。

(キスしたら・・・・だめかな?・・・)

このまま実希の口唇の感触を確かめたい衝動を感じた。

と、同時に雲間から満月の明かりが薄暗い公園を照らした。

(やばい・・・何でよりによって満月なんだよ・・)

本能が・・・吸血願望が純一の中で頭をもたげてくるのがわかった。

吸血願望とともに犬歯が伸び純一の種族の本来の姿となった。

口元から覗く牙を見た実希は久しく見ていない怯えた表情を一瞬見せ

「あのね、私は餌になる気はないから」

そうハッキリと言い、アーモンド型の大きな瞳を勝ち気に煌めかせながらぷいっと純一を置いて歩いていってしまった。

吸血鬼だから怯えさせた?

いいや。

もしかしたら自分が普通の人間だったとしても同じように怒らせてしまったかもしれない・・・・。

なんだか自分の下心を見透かされた様な気がし純一は実希を追いかけることが出来ずに立ちすくんだ。

また描きます

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