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いちごミルクのプールで泳ぎたい

たまに書かせていただいている吸血鬼の純一&実希さんです。

のほほ〜んとしたカップルが好きです。

その数学の教科書は同じページのままもう15分は経過していた。

「はぁ・・・」

特大の溜息をつきながら朝日 実希はにぎっていたシャープペンシルをほぼ真っ白なノートに放り投げた。

「もういやーっテストいやーっ数学嫌いーっ」

大きな瞳をぎゅーっとつぶり、いやいやと細い首をぶんぶん振った。

「まぁまぁ。ね?どこが判らないの?教えてあげるよ?」

純一は呼んでいた物理化学の専門書から顔を上げ、穏やかな声で実希に話しかけた。

大学のキャンパス外れにある生協のカフェはオープンエアスペースがある。

春や秋は学生たちが椅子に座ってだべったり勉強したり・・・・思い思いに外の空気を満喫している。

大学の生徒だけではなく近所の家族連れや高校生たちも利用しているそんなスペースで近所の高校に通う実希はテスト勉強を、そしてそれに付き合いながら純一はレポートのために読書を、と非常に穏やかな放課後を過ごしていた。

「全部!もうね、どこが判らないのかわからない〜っ!

 数学なんて無くても生きていける〜っ」

「いや、そゆワケにはいかないよ。

 生物を突き詰めると化学になって化学を突き詰めると物理に・・・

 そして物理ってのは最終的には数学に行き着くから・・ね?」

実希は来週からテスト期間。

しかも初日から大嫌いな数学のテストがあるってことで非常にご機嫌ななめかつやる気がない状態だった。

「なによーっ自分が理系だからって・・・・」

「まーそりゃ一応は物理科の大学生だしね。

 ほら、実希、どこの問題が判らないの?教えるよ?」

拗ねて駄々っ子みたいな実希も可愛いなと思いながら教科書に目を落とした。

「ねぇ、純一。吸血鬼って魔法使える?」

何、突然?

純一は一瞬きょとんとしそうになったが

(ああ・・・勉強に飽きて現実逃避したいのかなぁ?少し付き合うかぁ・・・)

と思い直した。

吸血鬼である純一の生態に対し、実希は不思議なほどに無関心であった。

吸血鬼の男と人間の女。

普通なら捕食者と被食者の関係になりそうだがそんな過去は一度もない。

吸血鬼にとって血は魔力を使うには必須な栄養であるが人間の振りをして生きていくには摂取しなくてもコト足りる食材なのだ。

純一は心持、声のトーンを落とした。

「どうだろ。

 人間から見たら魔法っぽいのかな?

 でもね、出来ることなんて限られているから

 きっと実希が思うほど万能じゃないよ」

「ふぅん。例えば?」

ノートに目を落とすことなく実希は猫の様な瞳をまっすぐ純一に向けた。

黒目勝ちな瞳に見つめられると思わずどきりとしてしまう。

純一はそんな内心を隠しながら続けた。

「え?例えばって・・・・そうだなぁ

 まず、良く物語であるように魔法でカボチャの馬車をだしたり・・・

 なんてことは出来ない。

 空も飛べない。

 でも、筋力がすごく発達しているから

 人間よりは遙かに高く跳ぶことはできる。

 あとね・・・視力はすごくいいけれど透視はできない」

「そっか、んじゃ人間の能力を限界まですごくした感じ?」

「近いかな。あ、でも人間には出来ないこともあるよ。

 記憶を操作したり魔界ってよばれる場所とを行き来したり。」

魔界との行き来はたまに普通の人間でも紛れて来ちゃうことあるんだけれど魔界の空気の毒気にあてられて大抵は絶命するとの説明を付け足した。

「でもどうして急に魔法?」

「今ね、何か流行ってるの。

 魔法を手に入れるって術。

 でも鳩の血使ったり公共の場所に魔法陣描いたり

 しなくちゃいけないから誰もやっていないっぽいんだけれど・・・・」

「ソースはどこ?」

「ソース?え?何で調味料?」

「あ、ごめん。情報源はどこ?」

「へぇソースっていうんだ。

 えっとねぇスマホに迷惑メールみたいにきたらしいよぉ

 私のトコは来なかったけれど・・・・あ、来ていたかも。

 ゆみみから回してもらったやつ消してないかなぁ??

 見たい?」

そう言いながら学校指定のバッグを引き寄せ中から四つ葉クローバーモチーフのストラップをカバーからぶらさげたスマホを取りだした。

「これ。『悪魔の召還方法』ってヤツ」

はい、と実希が手渡したスマホの画面には悪魔の召還方法が淡々と書かれていた。

「・・・これ・・・・」

ぞくり。

純一は背筋が寒くなるのを感じた。

(本物だ・・・)

どの悪魔族を呼び出すかは判らなかったがこの手順も魔法陣も・・・本物であることには間違いない。

「・・・こ・・これ・・・ねえ、実希。

 この魔法ってやらを試したヒトっているかな?」

「え?居ないんと思うけれどなぁ?

 こんなんどこかでやったらきっと片付け大変だし・・・ね。

 悪魔なんて呼び出せると思うほどロマンチストってそんなにいるのかなぁ?」

「本物の吸血鬼を目の前にしてそのコトバも何だかなぁ」

純一は苦笑しながら更に声のトーンを落とした。

「悪いんだけどこのメール、俺にも転送してくれないかな?

 ちょっと友達に見せてもいい?」

人間界に住んでいる魔物(CREATURE)たちは取り敢えず新しい魔物がらみの情報があったらその種族の族長に報告する。その情報の吟味し族長が魔物全種族をとりまとめている悪魔族族長に報告し対処する仕組みとなっている。

「いいよ。友達さんでこゆオカルト好きな人がいるの?」

「んーと・・ま、そんなもんかな。

 この召還術さ、誰かやったって噂聞いたら教えてくれる?」

「うん。わかったぁ。聞いたら教えるね。

 なぁに?悪魔でも捕まえてみたいの?」

「いやぁ・・・・悪魔と友達に特別なりたいワケでもないし・・・

 悪魔族ってちょっとエキセントリックだしなぁ。

 まぁ・・・ちょっと気になってね」

「この噂、もっと大きくなって都市伝説になったらTVとかで特集されるのかなぁ?」

「そしたら悪魔捕まえるために検証実験するかもね。

 いやだなぁ・・・俺は人間に捕まりたくはないなぁ

 ヘルシンキ宣言とか無視した扱いされそうだし」

純一は苦笑しながら実希が机に置いた教科書の表紙帯を直した。

男性にしては繊細な指をきれいだなと実希は思いながら

「へるしんき?なぁにそれ」

少し溶け気味の苺シェークをすすりつつ尋ねた。

紺色のセーターからのぞく実希の指は冷たいシェークのせいで少し赤く染まっていた。

「えっとねぇ・・・んと・・平たく言えば酷い人体実験はしませんって宣言だよ。」

「ふーん」

「でもきっと俺がその筋の機関に捕まったらモルモット扱いされることは必須だろうからね」

「ねぇ純一、じゃあなんで危険を冒してまで人間の社会にいるの?」

肩をすくめて

「そりゃ、実希に悪い虫が付かないように、だよ」

「ふぅ・・・ん」

実希が純一と出会ったのは今から3年前・・・まだ実希が中学3年だった頃、夕立と雷が怖くて人間とは関わらずのんびりとした吸血鬼生活を送っていた純一の住む洋館に不法侵入したのが初めてだった。

当時を思い出すと『だって空き家だと思ったんだもん』と実希。『空き家でもね、いくら雷が怖いからって雨宿りついでに一人肝試しなんかしちゃだめだよ?』と苦笑いの純一。何故か純一はそんな非常識娘な実希に惚れてしまい今まで人間社会を避けていたのに実希より2つ学年上として人間社会にとけ込み高校、大学と進学した。

『実希はなかなか振り向いてくれなくてねぇ』なんて言いながらじゃじゃ馬・実希と友達とも兄妹ともつかぬ関係を続けていた。

「ふぅんって相変わらず冷たいなぁ。

 で、実希はテスト勉強進んでいるの?

 もう20分は休憩したからそろそろお勉強再会しようね」

「えー・・・・仕方ないなぁ

 そろそろやるかぁ・・・」

実希は不満そうに頬を膨らませながらも教科書の問題に目を落とし「うーん・・・」と悩み始めた。

そんな図をほほえましく見ながらふと純一は質問をした。

「さっきの話だけれど実希はさ、魔法が使えたら何を願うの?」

「そうだなぁ・・・・苺ミルクのプールで泳いでみたいな」

「え?苺ミルク!?」

「うん、だって苺ミルクって小さなパックでしか売ってないじゃない!

 だからね、アレでプール作るのって不可能に近いと思うの。

 魔法使えるならそれしたいなぁ」

純一は実希の無邪気な善良さが嬉しかった。

やっぱり実希はいい。


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