プロローグ
こんにちは
三月やよいです。
久しぶりに長いお話を書いてみました。
相変わらず読みにくい箇所あるかと思いますが気を付けて書き上げますのでお付き合いの程、よろしくお願いします。
教室の床の後ろ半分を使って大きな魔法陣を描いた。
鳩を捕まえて殺すのは怖くて出来なかったので代用品としてスーパーで買ってきたマグロの血を使った。
(鳥は可哀想なのに魚は平気って残酷かしら?)
塚田秋保はカーテンを閉めて薄暗い教室を見渡して一人ごちした。
・日常利用している公共の場所で深夜行うこと
・魔法陣を描くのに鳩の血を用いること
・召還の代償として若い雌鳥を用意すること
以上の注意書きが記されているHPのプリントアウトを何度も確認しながら魔法陣を美術の授業で使用している水彩絵の具用の筆でマグロの血を付け何語だか解らない言語に縁取られた丸い図を描いた。
本来なら深夜に儀式を行わなくてはならないらしいが学校に夜忍び込めるほど度胸もないので土曜日の部活生たちに紛れて校舎に潜り込んだ。
こんな状況でクラスメートが入ってきたらどうする?
(きっとどうも変わらない)
どうせ今でも友達もいないし存在感なんてないもの。
奇行のひとつくらいちょっと噂になるくらいだわと秋保は腹をくくったのだ。
「えっと・・・・そしたらどうするの?」
若い雌鳥の代わりにクリスマス用などに売られているチキンを用意したいと思ったがホールサイズの味付けチキンが普通にスーパーで売っている季節ではないのでカットされたチキンのもも肉が生のまま発泡スチロールトレーにのせてある。
これで呼び出す為の魔法陣も描いたし生け贄も用意した。
あとは悪魔を呼び出すだけ。
そう、欲しいのは万能の力。
きっと人間が古来より憧れている魔法という術。
送り主不明のメールが来たのは2週間前だった。
『悪魔の召還方法』
そんな安易で気持ち悪いタイトルのメールなんていつもだったら即捨ててしまうのにその時は何故かスグに削除はせずに内容を読んでみた。
『信じても救ってくれるかわからない神よりも明朗会計な悪魔と取引しませんか?』
秋保はその一文につられてメール本文を受信した。
そしてそれをPCへ転送し本文をプリントアウトして今日に備えたのだった。
不可思議な文字に円形と三角形を駆使して描き上げる不思議な図形。
辺りは魚屋のような一種独特の生臭い香りが立ちこめていた。
その中心にチキンを置き、秋保はHPの指示通り、呪文を唱えた。
「テキ・・・テキ・・・ニココ・・・・我に秘術をさず・・けん?」
練習をしなかったので若干棒読みかつ途切れ途切れではあったが何とか全文を読みあげた。
(これで・・・?いいの・・・?)
ふと自分がやっていることが馬鹿馬鹿しくなり「ふー・・」大きく息を吐いた。
「そうよね。私ってば・・・・何を期待したのかしら・・・バカみたい」
「そうや。ねーちゃん。アンタ何で我を呼んだんや?」
「きゃぁっっっ」
秋保が悲鳴をあげるのも無理はない。
一人で居た薄暗い教室の中で突然ヒトリゴトに対して返事されたのだ。
「なっ・・・」
「驚きすぎや、ねーちゃん。呼んだの自分やろ?」
驚くべきは返事されただけではなくてその返事の主。
どうみても猫。
しかも可愛い白猫。
つやつやの毛並みで小柄な子猫ちゃん。
でも返事する声はおじさん声。
しかも何故か変な訛り。
(え?関西人?悪魔?ってか関西弁じゃない!コレ!)
叔父家族が関西に住んでおり関西弁に馴染みのある秋保にはその嘘くさい関西弁ともなんとも言えない訛りに対して非常に違和感を覚えた。
(って違う。関西弁とかそんなんじゃなくて、これ、猫。)
ふわぁぁぁ
大きくあくびするその可愛い猫ちゃんは
「あんさ、願いなんかあるんやろ?ちゃんと言うといいよ」
なんて秋保に小首を傾げる可愛いポーズで言ってきた。
「あ・・・・えっと・・・」
そう。願いがあるから呼んだのだ。
でも言葉がでない。
あまりに非日常的過ぎて脳がうまく現状を処理し切れないのだ。
あの・・・秋保が言葉に詰まっていると
「早くいいな、しかも分かり易くな」
猫は可愛い顔と不似合いな声でせかした。
「あ・・・貴方はあ・・・くま?」
「そうや、その通りや。何や?その質問が願いか?」
「い・・・いいえ、違うわ・・違う・・・・」
秋保は大きく深呼吸をし
「綺麗に・・・・綺麗になって明るい性格になりたいの・・・」
口が渇いて声がうまく言えなかったが何とか言葉にした。
言わなくては!だって怪しいけれど何か・・・・もったいないじゃない?
「で、どうなりたいんや。ねぇちゃん。
ギャル系か?キャバ系か?
それとも万人受けを狙ってアイドル系か?
あー・・・・オタクウケなマニア系も需要はそこそこやな。
どれがいいんや?」
やっとでた言葉に対する返事はいやに軽いものだった。
ヤケに世俗感溢れる猫(悪魔?)だなぁと秋保はいくぶかしがった。
「よく・・・そんなすらすらでてくるわね?」
「そりゃねーちゃん。悪魔っちゅーのは博識じゃなきゃ勤まらん商いなんよ」
「そう・・・・」
少し疑わしくも思ったがそもそも猫が喋っているだけで十分不思議出来事なのでこれはちゃんと願い事をしなくては損かもしれないと思い直した。
「そうね・・・・じゃぁ雑誌に出てくるような・・・綺麗系ギャルになりたい」
ぱっと人目を引きつつもただのギャル系よりもクラス感あるかんじに・・・秋保はぼんやりイメージしながら答えた。
「ほいな。おやすいご用。
なんや。
そんなん魔法なんかつかわんでも自分で何とかなる範囲なん違うか?
あれやな、最近の人間つーのはどうも他力本願やな。
まぁええわ。こっちも商売やからな。」
やれやれと小さな頭を振ってみせた。
その仕草は妙に人間じみていて秋保は何だか薄気味悪く感じた。
「ふ・・・ん。くるっと回ってみ・・・・なんや、ねぇちゃん。
地味なナリだが結構いいもん持ってるやんけ。
そやなぁ・・・・ちょっとメイクポーチ見せてみ。
ってなんや、コレ。自分女子高生だよな?
女子高生っちゅーもんはもっとこうがっつり化粧品持ってるもん違うの?」
秋保が自分のポーチを差し出すと猫型悪魔は心底信じられないという声で(表情は読みとれない・・・だって猫だもん。)やれやれという風にまた頭をゆっくり振った。
「ヒト様のもんやけど我慢してな」
そう猫型悪魔は言うと2本足で器用に歩き女子生徒の机を勝手に漁り・・・誰かが学校に置きっぱなしにしていると思われるメイクポーチを持ってきた。
「ま、まかせとき。
そもそもな、ねぇちゃんスタイル悪くないんだしもっとスカート短くすりゃいいんや。
あとな、なんやその寝ぼけた目は。
取り敢えず目なんてモノはでかくすりゃそれなりに可愛く見えるんや」
そう言いながらリキッドアイライナーでびっちりとアイラインを引きマスカラを下地から丹念に塗った。
「いたっ・・・いたたたっ」
「ねーちゃん。自分オンナやろ?この眉はあかんって」
猫の手なのに器用に毛抜きで余分な眉毛を抜き驚くほど丁寧に眉を描き上げていった。
「髪もまっくろやなぁ・・・でもまぁ健康だからええか」
コームを取りだし適度に逆毛を立てふわふわと髪を軽く盛った後、これまた誰かの机から拝借したと思われる巻きゴテでゆる巻きにしてくれた。
「まぁこんなもんかな?自分でもチェックしてみ」
鏡を見て一瞬誰だかわからなかった。
渡された鏡をのぞき込むとそこには良く知っている顔と似ているが見たことないように感じられる少女の顔があった。
つややかな白肌に長い睫毛と大きな瞳。
唇はふっくらと濡れていて妙に色気があった。
「すごい・・・・・」
自分なのに自分じゃないように感じられた。
少しメークするだけでこんなにも違うなんて・・・・・今まで何で何もしなかったのだろう?
秋保は妙な後悔を感じた。
「私・・・・」
「どうや?結構イケてるやろ?」
猫型悪魔は満足げな声で言った。
「これ・・・自分で出来るかしら?」
「あーできるできる。
お行儀悪いがほれ、この雑誌ガメて参考にすりゃいいやろ。」
ぱさん。
また誰かの机を漁って見つけたものだろう。
もはやどこの人種かわからないくらい明るくカラーリングした髪にカラコンの少女が表紙を飾っているファッション雑誌を口にくわえ秋保に差し出した。
「Cherry Girl・・・・」
何気なく表紙のロゴをつぶやいた。
「追加情報でいいこと教えよか?
この雑誌な、読者モデルは新宿のヨーヨー劇場広場でたむろしてる女子高生の中から
可愛いコを見つけて声かけてるんや。
中には雑誌関係者を名乗ってナンパしている偽者もおるから気をつけや。
見分ける方法教えちゃる。
本物はな、まず何処か事務所に所属しているかを確認してきてその後名刺をだすんや。
そしてな、その場でカメラ写りが良ければ来月号にはあんさんの写真が出るってことや」
どうしてこの猫はそんなことまで知っているのだろうか?
「私・・・別に雑誌なんて出たくない・・」
キレイになってちょっと特別扱いしてもらえるだけでいい。
ちょっと周囲に溶け込んで友達とかとお話出来るだけでいい。
「何欲のないコト言ってるんや。
あんな、同じくらい可愛いAちゃんとBちゃんがいるとするやろ。
そのウチ片方が雑誌に出ているプチ有名人だとするやろ。
するとな、男も女も有名な方と知り合いになりたいって思うもんなんや。」
目立っておいて損はないって。
悪魔は妙に人間じみた説明をした
「どや?満足か?
ねーちゃん。結局今日はわいの魔力使わなかったなぁ。
ま、次回また呼んでや。その時に取引しましょ」
「え?またいいの?」
「おう。今回は魔力、使わなかったからな。わいも対価をもらえないし」
「そう・・・・また・・・マグロ・・・」
難解な記号を書かなくてはと思うと気が滅入った。
「ああ。そうか。んじゃわいのメアド教えるから、メールしてや」
ほいっと秋保のスマホを勝手に取ると肉球でぽむぽむと器用にタッチした。
「登録完了。『ねこ』で登録しといたから。また呼んでや、ねーちゃん」
そう言うと『ねこ』は忽然と・・・・煙のように消えてしまった。
猫・・・・そして悪魔・・・夢ではなくソレが確かに存在した証としてこってりとメイクされた秋保とスマホに「ねこ」のメモリが残った。
猫がお話したらホラーかしら?