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23.無課金、外出す

【前回のあらすじ】

ジュリア「前が見えねェ」(顔面陥没)

ディディ「もっと……もっとぉ……♪」

ザガン(なんやこいつ……)

ジヴァ「燃え尽きよ! 燃え尽きてよぉ!(泣)」



 ―― 地上 ――



(早くおうち帰りたい……)


 ダンジョン『朽ち果てた都』の門前で、女はため息をついた。


 女は騎士だ。生まれは二級市民だが、成人の儀で☆5付喪神【烈火の七支刀】を引き当て、下級貴族に取り立てられた。


 長年、家格の低さが災いして出世の機会に恵まれなかったが、今はこうしてダンジョン転移門の警備監督を任せられている。


 転移門の警備監督は、人気のポストだ。少々退屈だが業務は楽で、その割に俸禄も良い。この役職の有無で、木っ端貴族は石高の桁が変わるほど。


 が、女騎士の顔色は冴えなかった。


「…………」


 ちらりと不安げに背後の転移門を見やる。今日、何度こうして振り返ったかわからない。



 ――先日、この門から【ドラゴンゾンビ】が出現した。



 警備兵に多数の損害が出たほか、【ポイズンブレス】の影響で近隣の市民が体調を崩し、建築物が損壊するなど被害が続出。当時、警備監督を担当していた騎士は『休憩』と称して現場を離れており、責を問われて解任された。


 その後釜として、白羽の矢が立ったのが女騎士だ。


 より正確に言うなら、周りから押し付けられた。


(どうすんのよ、また【ドラゴンゾンビ】なんか出てきたら……)


 下唇を噛み、再び不安な面持ちでため息をつく。


 みな敬遠したのだ。深層の化物を相手取るなど自殺行為、誰だって御免だろう。いくらおいしいポストが餌としてぶら下げられていたとしても。


 できれば女騎士だって断りたかった。女騎士もある程度レベリングしているし、武装も整えている。【烈火の七支刀】は火属性なので【ドラゴンゾンビ】に大ダメージを見込め、傍らにはいつでも乗り込めるように霊動甲冑――付喪神で駆動する強化外骨格――も待機させている。


 が、それでも、Lv80超の竜種と正面からやり合える気はしない。


(クソックソッ、なんでわたしがこんな目に……)


 貧乏くじを引かされた、己の運命を呪う。


 前任者の男は解任された上に、大幅な減俸まで食らったが、命拾いしたという点では運が良かった。彼は少々休憩時間を長く取りすぎただけで、敵前逃亡を図ったわけではない。


 が、女騎士には、同じ建前を使うことが許されなかった。前代未聞の事態だった前回とは異なり、今は『出現の恐れあり』と誰もが認識している。


 本当にたまたま休憩時間に【ドラゴンゾンビ】が出てきたとしても、すぐに駆けつけねば敵前逃亡とみなされ、前任者より重い罰を受ける羽目になるだろう。最悪貴族位を剥奪されるかもしれない。


 敵わない相手でも、戦わざるを得ないのだ。貴族とはいえ所詮は木っ端の騎士、それも二級市民の生まれの女騎士には、後ろ盾もなにもないのだから……


(クソッ! だいたい、なんで『朽ち果てた都』から敵が出てくんのよ!)


 (いかめ)しい表情を取り繕いながらも、胸中では悪態が止まらない。



 ダンジョンには2種類ある。


『常設ダンジョン』と『限定ダンジョン』だ。



『常設ダンジョン』は書いて字のごとく、一定の場所に存在し続けるダンジョン。それに対して『限定ダンジョン』は、ランダムな場所に出現し、一定時間で崩壊・消滅するダンジョンのことだ。


『限定ダンジョン』の場合、ダンジョンの崩壊時、それを察知した敵が中から出てくることがある。ダンジョンによっては強力なボスクラスのモンスターが解き放たれることもあり、野生化したモンスターを討伐するのも帝国軍の重要な役割の一つだ。


 何はともあれ、『朽ち果てた都』は、ここ第53居住区の中心に存在し続ける。帝国が成立する以前からずっとあり続けたのだ。


 つまり、『常設ダンジョン』――である、はずだった。だから中からモンスターが出てくることなど、万が一にもありえなかった。



 が、実際には、【ドラゴンゾンビ】が出現した。


 これの意味するところは……



 近頃、第53居住区には不吉な噂が流れている。実は『朽ち果てた都』は、出現期間が極端に長いだけの『限定ダンジョン』だったのではないか、と。


【ドラゴンゾンビ】の出現は、ダンジョン崩壊の予兆なのではないか、と――


『朽ち果てた都』は全10層の大型ダンジョンだ。低層~中層の敵だけならまだしも、深層クラスの怪物が崩壊を察知して、一斉に出てきたら何が起こるか。


 ――今この瞬間にも、深層の怪物が群れをなして溢れ出してくるかもしれない。


 そう考えると、女騎士は気が気でないのだった。仮に【ドラゴンゾンビ】が崩壊の予兆なのだとしたら、近日中にそれが起きる。


(早くおうち帰りたい……)


 一刻も早く、勤務時間(シフト)を終えて持ち場を離れたい。


 それが女騎士の唯一の望みだった。


(……もういっそのこと、適当な男と子供でも作ろうかしら)


 目をつぶって、そんなことまで考え始める。



 ハイジーン帝国において、妊婦の地位は高い。



 貴族や市民に限らず、奴隷でさえ妊娠中は労役を免除され、胎児に悪影響がないよう、三食昼寝付きの快適な生活が保証される。


 子供は宝だ。成人の儀で優良な恩寵を引き当てれば国力が強化されるし、そうでなくてもダンジョンを攻略させれば確実に石が手に入る。まさに人的資源。


 女騎士も、妊娠が確定すれば産休に入れる。働かずして俸禄の神魔石はもらえるし、何よりダンジョンの崩壊が起きても堂々と逃げ出せる。



 完璧だ。



 完璧なプランだ。



 ――子供を作る相手がいない、という一点を除けば。



(男がいない……ッッ!)


 女騎士は独身だった。特に親しい男もいない。というより、男とそういった関係を持ちたいと思ったことがなかった。


(【男夢魔(インキュバス)】がいたら、今さら生身の男となんて、ねえ……)


 実は女騎士は☆3式神【男夢魔インキュバス】持ちだ。自分好みのイケメンに姿を変えられ、誠心誠意尽くしてくれて、しかも夜の技術も抜群。パートナーとしてこれ以上ないほど理想的な存在、それが【男夢魔】だ。


 初任給の石ガチャで引き当てて以来、女騎士はどっぷりと【男夢魔】にハマっていた。


 人肌恋しさを満たすという一点で、見目麗しい式神に敵うものはいない。絶対に裏切らず、何を頼んでも嫌な顔ひとつせずにやってくれる。少なくとも同僚の下級貴族の中に、【男夢魔】より魅力的な存在はいなかった。


 そして、それは同僚たちにも同じことが言えた。下級とはいえ貴族の端くれ、皆それなりにガチャを回しており、見目麗しい式神を引いているのだ。同僚の男たちも『恋人役』を持つ者が多く、生身の女にはそれほど魅力を感じないようだ。


 よしんばガチャで式神を引けていなくても、色街に繰り出せば【女夢魔(サキュバス)】をはじめとした美人式神を自由にできる店がある。下層市民が小遣い稼ぎに己の式神を『貸し出し』ているのだ。女騎士からすれば、自分の【男夢魔】を他人に貸し出すなど、まっぴら御免だが――たとえ神魔結晶の副収入が得られるとしても――それはさておき。


(男がいない……)


 それが唯一にして最大の問題だ。式神との間に子をなすことはできない。子供を産むには、どうしても生身の男と致す必要がある。


 だが同僚の男たちは、上記の事情で厳しい。かといって、その辺で適当な下層民の男を漁るのは、女騎士のプライドが許さなかった。


 聞けば、奴隷階級の女は、初潮を迎えるやいなや見境なく男とまぐわい子をなすらしい。妊娠中はダンジョン攻略が免除されるためだ。そうして子を産めば、期間をおいてまた同じことを繰り返す。


 まるで獣ではないか! 初めて奴隷の女の生態を知ったときは、その浅ましさに嫌悪感を抱いたものだ。だからこそ、ここで女騎士が、子種のためだけに行きずりの男とまぐわうわけにはいかなかった。


 もしそんな真似をすれば、下賤の者どもと同じ次元に堕ちることになる――


「はぁ……」


 さりとて、適当な男もおらず、良縁のアテもなく。いったいどうしたものか――そうだ、早くおうちに帰って愛しの【男夢魔】に慰めてもらおう。きっと美味しい夕ごはんを用意してくれているはず――


 そんなことを、現実逃避気味に考えていると。


 コツ、コツ、コツ、という硬い足音が聴こえてきた。


「……!」


 誰かが転移門から出てきた。ダンジョンでひと稼ぎしてきた市民か? それとも指定時刻までに戻れなかった奴隷か? あるいは――深層の化物か?


 無意識のうちに、腰のベルトに吊り下げた【七支刀】の柄を握りながら、女騎士は振り返る。


「ッ!?」


 が、目に飛び込んできたのは予想外のものだった。




 ――白銀の装甲をまとう騎士。




 さっそうと蒼のマントを翻し、その立ち振る舞いは堂々としたもので、圧倒的な強者の風格に満ち溢れていた。フルフェイスの兜に隠されていて素顔は見えない。全身を隙間なく覆う甲冑は、下級貴族の女騎士をして目にしたことがないほど立派なものだった。


(なんだ!? この鎧は!?)


 ひしひしと尋常ならざる霊圧を感じる。ただの鎧ではない、最低でも☆4クラスの付喪神を宿していると見た――


 が、その騎士に続いて転移門から現れた式神に、女騎士は度肝を抜かれる。


(あれは――【ジュリア】!?)


 虹色の燐光を散らしながら、騎士に付き従うのは金髪の戦乙女。小麦色の肌、背の黒翼、間違いない、あれは☆5式神【堕天聖騎士、ジュリア】だ。


(――そして、【ジヴァ】だと!?)


 ダメ押しとばかりに、今度は炎の髪をたなびかせる美貌の女神まで姿を現した。第53居住区の管理官、クラウス五十三郎卿が使役していることでも有名な【灰燼の断罪神、ジヴァ】だ。


「…………」


 しばし茫然とした女騎士は、すぐさま前に向き直り直立不動の姿勢を取った。



 雲上人。



 そんな言葉を、連想した。【ジュリア】と【ジヴァ】、☆5式神を二体も従えている時点で、最低でも中級貴族。ひょっとすると大大名やその子息かもしれない、そうでなければ☆5式神を二体も引けるものか! 女騎士の上司の上司の上司の上司である、居住区の支配者たるクラウス五十三郎卿より、さらに格上の可能性さえあった。


 絶対に、目をつけられてはならない。


 もし何かの拍子に不興を買おうものなら、女騎士の身分など風の前の塵より簡単に吹き飛んでしまう。


 置物のように。路端の石ころのように。


 風景と化せ。


 存在を殺せ――


 額に冷や汗を浮かべながら、身じろぎすらしない女騎士をよそに、蒼と銀の騎士は脳天気にもその場で背伸びをした。


「う~~~~ん…………はぁ~。やはり外の空気はうまいな」

「全くです! カビ臭さも腐敗臭もないのが、こんなにありがたいなんて!」


 蒼銀騎士の言葉に、【ジュリア】が相槌を打つ。


 どうやら長時間ダンジョンに潜っていたらしい。女騎士がシフトについたのは数時間前だが、こんなトンデモ騎士は見かけなかった。


(しかし、既に☆5式神を二体も従えているのに、いったいこんなダンジョンに何の用事が……?)


 虚空を睨みながら、女騎士は不審に思う。ハイジーン帝国の中でも、『朽ち果てた都』は指折りの不人気ダンジョンだ。まず敵が強く、ドロップ品も不味い。神魔結晶を稼ぐにしてももっとマシなダンジョンがあるはずだ。この蒼銀騎士ほどの人物なら、移動許可証だって取り放題で、どの領にでも行けるだろうに。


 それに、例の【ドラゴンゾンビ】の件もある。ダンジョンの崩壊に巻き込まれれば、存在が消滅してしまう。いつそれが起きるとも知れぬダンジョンに、わざわざ好き好んで潜るなど狂気の沙汰としか思えない――


(まさか、知らないのか?)


 いやそんな馬鹿な、何も知らされていない奴隷じゃあるまいし、と女騎士はその考えを打ち消す。きっと自分には計り知れないような深い理由があるのだ。それか雲上人特有のただの酔狂か。


「なあ」


 つらつらとそんなことを考えていると、突然、蒼銀騎士が話しかけてきた。


「アィェッ!? は、ハッ!」


 想定外の事態に裏返った妙な声が出たが、どうにか答える。


(ナンデ!? 話しかけナンデ!?)


 内心パニックに陥りながら。なぜ声をかけられるのか、心当たりがない。石ころになってたはずなのに。


「しばらく潜ってたんだが、何か変わったことはあったか?」

「か、変わったことでありますかッ?」


 今あんたに話しかけられてることだよ!! と答えられたらどんなに楽か。


「なッ、何もッ! 異常なしでありますッ!!」

「……。そっか」


 ――なんだ!? 今の一瞬の間はなんだ!? 不興を買ったか!?


 だらだらと冷や汗を流す女騎士から視線を外し、☆5式神を引き連れた蒼銀騎士は、ゆっくりと歩み去っていく。


 その後姿が通りの向こうに消えてから、女騎士は思い出したように息を吐いた。


 額の汗を拭う。寿命が五年も十年も縮まった気がした。


「おうち帰りたい……」


 女騎士の情けない呟きが、その場に小さくこだました。




          †††




 ――いやぁ、外は清々しいな!


 俺はルンルン気分で通りを歩きながら、新鮮な空気を堪能していた。


 そう、俺は今ダンジョンの外にいる。


【仮面騎士、ハヤテ】の姿で、だ!!


 ここら一帯には、木造家屋がひしめくようにして建ち並んでいる。それぞれ、家ごとに細かな造りが違い、若干の個性が感じられた。


 画一的な箱型の宿舎が並んでいた、奴隷居住区とは大違いだぜ。


「うまく行きましたね」


 後ろを歩くジュリアが、小さな声でそう言った。


 全くだよ! 当初、神魔結晶で礼服(スキン)を買って貴族のガキのフリをしようかと思ってたんだが、気づいたんだ。


 変装が目的なら、ハヤテの【一心同体】が最強だってことに!


 姿形はおろか、声まで変わる。おそらく『この世界』の住人には、高位の付喪神で武装した騎士にしか見えないはずだ。よしんば万が一の事態が起きても、全身装甲化されているので不意打ちにも強い。安心だ。


 そして目論見どおり、俺は転移門の警備をスルーして、堂々とダンジョン脱出に成功したわけだ。……まあ、今の俺を見て、元奴隷だと見抜ける奴は皆無だろう。あの警備の女騎士を見る限り、俺を中級以上の貴族と解釈してたみたいだからな。


 ああー。それにしてもあの女騎士。


 奴隷時代には見たことがない顔だった。俺にビビりまくってて、思わず笑いそうになっちまったよ。


『貴族』という時点で()りたくて震えたが、今は自重したぜ。白昼堂々血祭りに上げて騒動になったら面倒だからな。


 騎士はアイツだけじゃない、然るべきときに、まとめて根絶やしにしてやる……


 ちなみに、俺が連れてきた式神は、ジュリアとジヴァの二人のみだ。ディディは特殊な俺の切り札でもあるので、万が一を考えて送還しておいた。代わりに、俺が【無防備な祈り】を時々発動し、体のコントロールをハヤテに任せることで、変身維持の霊力を捻出することにした。


 今のところ、びっくりするほど全てが順調だ。


 このあとはどうするか……なんか、宿屋みたいなのがあったら、そこに泊まって転職したいんだけどな。でも、この極端な管理社会に宿なんてあるか? そもそも国民に旅行の自由とかあるんだろうか。何もわからねえ! 無学な元奴隷だから!


「それに、人通りがやたら少ない……」


 夕方の市街。通りにはほとんど人影がなかった。周囲の家々には人の気配があるが、みな息を潜めているような印象を受ける。


 通行人や道端の市民たちは、俺を見るなりギョッとしたように目をそらしたり、そそくさと去っていったりするので、会話を盗み聞きすることさえできない。


 マズいな、やはり悪目立ちするか? ☆5式神二体はやりすぎたかな、この世界の一般常識的に。


 ジヴァは【第三の瞳】でステータス看破と真偽判定ができるから連れてきたんだが、クラウスのクソ野郎の式神と一緒だからなぁ……


「目立たない場所を探そう」


 小さく背後の二人に告げて、のんびりと歩いていく。


 ……できれば、久々にお粥以外のものも食べたいところだ。


 とりあえず宿屋を探すぜ! あればの話だがな!!!


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