22.無課金、挑戦す
【前回のあらすじ】
俺「【仮面騎士、ハヤテ】が思ったよりぶっ壊れだった」
「石が欲しいかーッ!?」
「「「欲しいーッ!!」」」
俺の呼びかけに、ジュリア、ディディ、ジヴァの三人が答える。
「ガチャが引きたいかーッ!?」
「「「引きたーいッ!!」」」
俺も引きたいッッッ!!!
「っしゃぁ! ならラスボス殴りに行くぞオラァ!!」
「「「おお――ッ!!」」」
ボス部屋『玉座の間』を前に。
俺たちは決起集会を開いていた。
――『朽ち果てた都』最深層――
さて、ハヤテのぶっ壊れ具合が判明して数日。
鬼のようにレベリングに打ち込んだ俺は、早くもLv120に到達した。魂の器にも余裕ができたので、今日はいよいよラスボス【不死王、ザガン】に挑む。
「作戦はシンプルだ。ジュリアが【罵倒】で引きつけて、ジヴァがひたすら殴る。俺とディディはサポートだな」
【不死王、ザガン】は高位の不死者だが、例外的に、聖属性へ高い耐性を誇る。
普段は聖属性持ちのジュリアがアンデッド無双してくれるんだが、ことザガンに対しては、あまり有効打たり得ないのだ。従って、メイン火力は炎の断罪神ジヴァが担っていくことになる。火属性もアンデッド特効だからな。
「はーい! お任せください!」
「必ずや主殿のご期待に応えてみせます!」
太刀と盾を掲げて元気いっぱいのジュリア、両手に炎の鞭を握ってやる気に満ち溢れているジヴァ。
ジュリアの太刀と盾は最深層でドロップしたものだ。未鑑定なので特殊効果の有無さえ不明だが、呪い品ではないようだし、ジュリア曰く感触的には悪くないらしい。
俺が『商人』だったら、職業技能の『目利き』で詳しく調べられたんだけどな、まあ仕方がない。しばらくはあの装備でザガンの攻撃を受け止め、壊れたらいつものように大剣を召喚して戦うことになるだろう。
「あと、ディディ。……全力でカバーするから、ザガンの標的が向いたときは、頼んだ」
【不死王、ザガン】はカルマ・ドーンでも指折りの後衛殺しボスだ。紙装甲の敵を執拗に、そして的確に攻撃してくる。
後衛型のディディは真っ先に目をつけられるはずだ。いくらジュリアが【罵倒】で引きつけると言っても、CDがあるし、おそらく抑えきれない。
「うふふ。ゾクゾクしちゃぁう……」
が、俺の心配をよそに、ディディは顔を紅潮させて舌なめずりしていた。
「大丈夫よぉ、ザガンは☆4でしょう? せいぜい嬲られて時間を稼いであげるわぁ……」
うーん、この余裕っぷり。楽しそうで何よりです。
ディディは【魔王の覇気】というパッシブを持ち、自分に向けられた格下の――つまり☆4以下の攻撃を大幅に減衰させてしまう。後衛型なので本来防御力は低いはずだが、格下に対しては圧倒的な打たれ強さを発揮するのがディディだ。
ハヤテの影に隠れてしまいそうだが、切り札の【サドンデスカノン】もあるし、やっぱりディディもぶっ壊れなんだよなぁ……
「ま、ともかく。俺は部屋に入ったら速攻で上空に退避する。俺だけ楽して申し訳ないが、みんな頑張ってくれ」
「全然そんなことないですよー!」
「主殿の御身が一番大事ですので!」
「うふふ、楽しみねぇ……」
ハヤテの姿をした俺は、いかにも前衛っぽい見た目でありながら回復役だ。ザガンが飛行能力を持たないのを良いことに、高みの見物と洒落込む。まあ俺が撃破されたらみんな消滅するからな、こればかりはしゃーない。
「せいぜい上からザガンにピシパシ嫌がらせしてやるぜ! フッハッハッハァッ! そういうわけで貴殿ら、少年の体は僕が責任を持って守ろうッ!」
俺のセリフに間断なくハヤテが割り込んできて妙な感じだ。
「ここ数日で慣れましたけど、やっぱり一人芝居にしか見えませんね……」
太刀の峰で肩をトントン叩きながら、ジュリアがしみじみしている。
「こまけえこたぁいいんだよ! というわけで、みんな、武器は持ったな!? 行くぞォ!」
俺は雄叫びを上げて、ボス部屋の光り輝く転移門に突っ込んで――
「――ぬわぁッ!」
いこうとして、足がもつれて転んだ。やっぱりこの体、慣れねえ!
「ジュリア、いっきまーす!」
「主殿のためにぃー、突撃ぃーッ!」
「うふふふふふふ」
地面に這いつくばる俺をよそに、ジュリアたちが突っ込んでいく。
「ちょっと、みんな待ってぇ! フッハッハッハハハァ! ええいッ、ハヤテ、体のコントロールは任せた! ハッハハァ承知ッ!」
俺は早々に主導権を手放し、諸々の技能のコントロールに専念することにした。極めて滑らかな動きで、ハヤテが転移門に飛び込む。
虹色に染まる視界。
抜け出した瞬間、一気に薄暗くなる。
蒼白い松明の光に照らされたそこは、荒れ果てた玉座の間。
色褪せてぼろぼろになった赤絨毯の先に、座り心地がクソ悪そうな角ばった玉座に腰掛けるアンデッドの姿。
【不死王、ザガン】――『朽ち果てた都』の、かつての王。
永い年月を過ごしたのだろう、衣服は崩れ落ち、見るも無残な襤褸切れと化している。骨と皮だけの体はただの木乃伊にしか見えない。ただ、その頭に戴く虹色の冠だけが、在りし日の地位と権勢を窺わせる。
パキッ、ピシッと乾いた音とともに、ぎこちなくザガンは立ち上がった。
だが少し体を動かすうちに、不気味なほど身のこなしが洗練され、油をさされたようになめらかになっていく。
無手だ。王冠と襤褸切れの他は何も持たない。
だが、怖気の走るような霊圧がビリビリと伝わってくる。
――こいつは、強い!
「【かかってこいッ股間の萎びたバナナ野郎!】」
盾を掲げてジュリアが【罵倒】――って、そのセリフちょっとアレじゃない!?
【罵倒】が効いたのかわからないが。
ザガンが、動く。
バウッ、と残像を残して、消えた。
違う。目にも留まらぬ突進。
流星のような蹴りがジュリアに迫る。
「強……! 速…避……無理!! 受け止めるッッ!」
ジュリアが咄嗟に盾を突き出し、真正面から受けた。
インパクトの瞬間、ズドンッと重低音が鳴り響く。
あまりの衝撃にジュリアの身体が浮いた。だが、無事だ。エアブレーキのように背中の翼を広げて体を支え、反撃に太刀を薙ぎ払う。
しかしザガンは既に、蹴りの反動を活かし間合いを取っていた。
円を描くような脚さばき、左手を牽制に突き出し、右手は腰のあたり構える。
まるで引き絞られた弓のようだ。ひとたび力を解放すれば、矢のような一撃が飛んでくるに違いない。
徒手空拳。
ザガンの職業は『拳闘士』――アンデッドのくせにバリバリ格闘を挑んでくる、妙ちくりんなボスだ。設定によると、生前はムキムキで、王でありながら国で一番強い脳筋戦士だったらしい。
アンデッドになってもその力は衰えず、むしろ頑強過ぎる肉体を得てさらに強化されている。
拳闘士と言えば奴隷頭もそうだったが――正直、格が違う。
「【一足飛び】」
俺は装備していた☆5付喪神【イダテンの羽草履】の能力を起動、虹色の燐光と化して上空へ転移。ハヤテがマントを広げて【滑空】し始める。幸い、玉座の間も十分に天井が高く、飛行に支障はない。
「……!」
ザガンが一瞬、こちらを見上げた。
眼窩に揺らめく青い光と視線がぶつかり合う。
「【あなたの力、ちょうだぁい……】」
その隙を見逃さず、ディディが【おねだり】を発動。黒いオーラがザガンの身体から吹き上がり、ディディに吸い込まれていく。ぐらりと体勢を崩すザガン、しかし状態異常【恍惚】は抵抗されたらしい、ほとんど効いてない。
「ふンぬッ!!」
盾ごとぶつかるような勢いで、ジュリアが距離を詰めた。ザガンは風に揺れる柳のように柔らかな動きで盾をかわし、突き出されたジュリアの左腕に手をかける。
そして目にも留まらぬ速さで、ジュリアの腕関節に膝蹴りを叩き込んだ。
パキッ! と乾いた音が響く。
左腕の関節があらぬ方向にねじ曲がり、力なく盾が手から滑り落ちた。
「このッ」
だが対するジュリアも修羅だ。痛がる素振りすら見せずに、無事な右腕で太刀を振るう。首狩りの一撃。
「【ファルコンスティング】!」
すかさず回避しようとするザガンに、ハヤテがニードルガンを放った。強烈な仰け反り性能が付与された弾丸に、ザガンも抗いきれず動きを止める。乾いた幹のような首に太刀の刃がめり込むが、刎ね飛ばすまでには至らない――
「おおおッ!」
ザガンの側面に回り込んだジヴァが炎の鞭を叩き付けた。炎はアンデッド特効、打たれたザガンの皮膚が燃えさしのように赤く染まる。
入れ替わるように飛び退ったジュリアに、俺は上空から☆2神業【癒しの光】を発動。ジュリアの身体がフワッとかすかな光りに包まれた。
「【ジュリア、ファイトッ♪】」
間髪入れずにディディの【おうえん】、ジュリアの腕がビキビキと生々しい音を立てて治癒していく。
「不浄のものよ、疾く燃え尽きよ!」
その間にもジヴァの炎の鞭がうなる。まるで蛇のように、あるいは炎の嵐のように、荒れ狂いながらザガンの身を焼き、削っていく。沈黙を貫いていたザガンも、耐えかねたように「グオオオオオッッ!」と咆哮した。
バウッ、とその姿がかき消える。
どこへ――ディディを狙ったか――だが見ればディディは無事。
ぞわり、と背筋を這う嫌な感覚。
弾かれたように振り返れば、天井、クモの巣状に走ったヒビの中心に、ザガンがいた。地を蹴って天井に『着地』したのだ、と理解する。
こいつ、今の連携を見て俺こそが本当の後衛だと気づきやがったな!?
まるで引き絞られた弓のように、こちらを見据えて構えられた腕――
「【イーグルブレイド】ッ!」
ハヤテの反応は素晴らしかった。ザガンが天井を蹴るのと同時、剣で切り払う。いくらザガンが速いといっても、光の刃を伸ばす剣にはリーチで勝てない。そして空中で軌道を変えることもできず、逆に防御するハメになった。盾のように掲げられた両腕が、真一文字に切り裂かれる。
が、それでも、切断にまでは至らない。どんだけ頑丈なんだこいつ!
だが俺は【イダテンの羽草履】のお陰で空中でも踏ん張れるが、ザガン、お前は空は飛べまい!
「【今だ、ぶちかませ】!!」
俺はここぞとばかりに☆3神業【鼓舞】を発動、味方のステータスにブーストをかける。無防備に落下し始めたザガンに火力が集中した。ハヤテがニードルガンをぶっ放し、ジヴァは炎の鞭を振り回し、ディディが魔力弾を連射し、両手で太刀を握ったジュリアが落下地点で待ち受ける。
「【さっきのお返しだ――】」
修羅の笑みを浮かべ、戦乙女が白刃を閃かせた。
「【――墜ちろッ干物野郎ッ】!」
干からびた左腕が、ザンッ! と斬り飛ばされる。そして太刀からパッと手を放したジュリアが、体を回転させながらいつもの大剣を召喚。
「ンぬぁっそぉいいッッ!」
背中の翼でさらに勢いをつけ、バッティングの要領で大剣を叩きつけた。
「グゴアアァァァ――ッ!」
ザガンは吼えながら、冗談のように吹き飛ばされ壁に激突する。
あまりの衝撃に砕ける壁、舞い上がる土煙、ぱらぱらと天井から降ってくる塵。
「おおっ、やったか!? やめろハヤテそれはフラグだ!」
思わず歓声を上げたハヤテを諌めるが、その瞬間、ドウッと風が渦を巻き土煙が吹き飛ばされた。
中心には、左腕を失ったザガンが、銀色のオーラに包まれて仁王立ちしている。
「――第2ラウンドだな」
空中にとどまったまま、俺は冷静に呟いた。これはゲームと同じ流れなので、特に動揺はない。
これこそが【不死王、ザガン】の奥の手。
パッシブ技能【不朽】だ。生命力が2割を切ると自動的に発動し、1分間、ヤツは無敵になる。
無敵。無敵だ。あらゆるダメージやデバフが無効化される状態。
【不死王、ザガン】は後衛殺しの非常にやりづらいボスだが、それ以上に、戦闘がやたら長引くので数あるボスの中でも特に不人気だった――
「正念場だ! 耐えるぞ!」
再びザガンが突貫してくる。狙うは――ディディか? あの超速移動、【瞬足】はまだCDか、助かるな。だが【不朽】の効果でさらに強化されたザガンは、素の移動速度まで上がっている。ここで気を抜くと壊滅的な打撃を受けてしまう。
「【ファルコンスティング】!」
ハヤテが左上腕からニードルガンを放つ。ダメージは通らないが、仰け反り性能は健在でザガンの動きが止まる。
「ふンぬッ!」
すかさずジュリアが大剣を大振りして、硬直したザガンをバシンと吹っ飛ばす。無論、ダメージは皆無だが、時間稼ぎにはなる。この調子で行くしかない――
と、思ったところで、吹っ飛ばされたザガンが曲芸じみた動きで柱に着地、スーパーボールのようにジュリアに跳ね返り、拳を突き込んだ。
「もきょッ」
ギャグ漫画みたいなめり込み具合で、ジュリアの顔面にグーパンが突き刺さる。ヒェッ、美少女の顔面崩壊なんて見たくなかった……っつーかなんてことしやがるあいつゥ!
「ぐぎぎぎぎ少年ッ落ち着けッ! ここで君が出張っても意味はない! ああよくわかってるよ畜生ッ、【癒やしの光】ッ!」
一瞬、意識を失ったのだろう、ぐったりと力の抜けたジュリアがマネキンか何かのように地面で跳ね、ごろごろと転がっていく。俺は上から回復技で支援することぐらいしかできない、クソッ。わかっちゃいたけど胸クソ悪いぜ。
ジヴァが炎の鞭でビシバシやっているが、ダメージが全く通らず、実体のない鞭では打撃力もないので完全に無視されている。ジヴァ、泣きそう。
そして悠然と佇むザガンが次に目をつけたのは――
「うふふふ……」
手の届かない空中の俺ではなく、当然、ディディだった。
頬を紅潮させてぺろりと唇を舐めたディディが、ドクロのステッキから魔力弾を放つ。が、牽制にすらならず、全て弾かれ霧散した。
ズンズンと距離を詰めるザガン。
「うふふふ……いらっしゃぁい♪」
妖艶に笑い、両手を広げて歓迎するディディの顔に、グーパンチがめり込んだ。
――それからは、目を覆わんばかりの惨状だった。
唯一の救いは、サンドバッグと化した当のディディが、すっごい楽しそうだったことだ。常日頃からやべえやつだとは思っていたが、ディディのそれは思った以上にガチだった。途中でザガンさえも「えっ何こいつ……」みたいな雰囲気出してたし。
そして【魔王の覇気】により、ディディは圧倒的な耐久力を発揮した。俺の回復支援も込みだったが、残りの時間、ザガンの攻撃を一身に引き受けたのだ。
さらに【不朽】の効果時間が終わる頃には、ディディの生命力もちょうど2割を切っていて――
「【きっと、貴方なら――】」
ごぽりと口から血を流しながら、それでもディディは嗤う。
「【――『向こう』でも、うまく、やっていけるでしょう】」
ボロボロになった彼女の眼前に、ぽつんと生まれる黒い点。
それは一瞬にして広がり、禍々しい魔法陣を成した。
「【――地獄に落ちなさい♪】」
ザガンが異変を察して、飛び退るも遅く。
【サドンデスカノン】が発動。
無敵効果を失ったザガンは、蒼い業炎に呑まれて蒸発した。
あとに残されていたのは、一握りの灰と、虹色に輝く石だけ――
「……神魔石、取ったどォォォォッ!」
そうして俺は、『朽ち果てた都』を完全踏破したのだった。ジュリア、ディディの両名はすぐに再召喚したので、ぴちぴちのたまご肌に戻ってる。良かった……。
うーん。俺が無傷だから戦略的勝利なんだけど、ゲームと違って式神のみんなの負傷がエグすぎるから、もうちょっとスマートに倒したいな。
契約枠構成を洗練して、次は【不朽】が発動する前に確殺しよう。
ザガンの生命力の2割を一撃で消し飛ばす構成――不可能ではない。
だが魂の器がまだ足りない。レベルを上げなければ。そして魂の器を最優先で上げるなら、修験者としてレベリングするより、転職した方が手っ取り早い。
「うし、地上に戻るか」
ボス部屋に現れた金色の転移門を見やり、俺はそう決意するのだった。
次回、ダンジョンの外に堂々と出るの巻。




