表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

20.無課金、変身す

【前回までのあらすじ】

腐敗竜(ドラゾン)「イヤーッ!」

奴隷頭「グワーッ!」

腐敗竜「イヤーッ!」

奴隷頭「グワーッ!」

腐敗竜「イヤーッ!」

奴隷頭「グワーッ!」

主人公「キエエエッ!」

【天罰】<ドーン!

奴隷頭「サヨナラ!」(爆発四散)



「――っしゃぁ!」


 メニューを開いて確認し、俺は拳を天に突き上げた。


「修験者Lv100になったどォォォ――ッッ!!」



 ――『朽ち果てた都』深層Ⅲ――



 奴隷頭を処してから数日。


 修験者に転職し、解呪の奇跡で額の入れ墨も消した俺は、再びダンジョン深層に舞い戻りレベル上げをしていた。


 また例によって養殖ドラゴンゾンビ狩りだ。今回のレベリングはなかなかハードだったぜ。なんと言っても俺が『陰陽師』から『修験者』に転職した影響で、陰陽師の『式神のステータスが1.5倍』という職業ボーナスがなくなったからな。


 代わりに俺が回復の奇跡や【天罰】でみんなを支援できるようになったが、1.5倍の差はそう簡単には埋まらない。陰陽師は初期職のひとつだが、職業ボーナスの有用さではトップクラスなのだ。


「おめでとうございます! 主様!」


 かすり傷や埃まみれで、どこかボロッとした雰囲気のジュリアが、それでも屈託のない笑顔で祝福してくれる。


「ぼうや、よく頑張ったわねぇ……」


 頭をよしよししてくれるディディもやつれ気味だ。もはや決め台詞もなしに無言で【サドンデスカノン】を放つ存在と化してたからなぁ。


「険しい道のりでした、主殿……おめでとうございます!」


 ぐっ、と涙ぐむジヴァはLv100の壁を突破し、今やLv110に到達している。高Lvになって本格的に戦力化したジヴァは大活躍だった。聖属性+火属性の彼女の攻撃はドラゴンゾンビの天敵、俺が陰陽師の職業ボーナス抜きで養殖狩りを断行できたのはジヴァのおかげと言っても過言ではない。


 ちなみに、『限界突破』――Lv100超えには、同じ式神か特殊素材を合成しなければならないのだが、今回はもともと持っていた特殊素材を使った。特殊素材は貴重品ではあるが、一応メニューのショップから神魔結晶を消費して入手可能だ。


「グルルオァァ~!」


 おめでと~! 的なノリで元気よく吼えているのはドラゾンくん。ドラゾンくんは予備の【ドラゴンゾンビ】を合成してジヴァともどもに限界突破し、Lv120にまで育っている。ここまで来るとその耐久力は圧巻で、深層Ⅲの【ドラゴンゾンビ】なら2体同時に相手できるほどだ。


 Lvが上がるにつれてますます賢くなり、腐った表情筋のコントロールさえも身につけてどこか愛嬌がある。超巨大なペットの犬、という雰囲気だ。その人懐っこさもあいまって、無味乾燥なレベリングの中、俺たちのムードメーカー的な役割も果たしていた。


 今や、なくてはならない存在――!


「ドラゾンくんも祝ってくれるか!」

「グオオ、ガルオオ~ッ!」

「ありがとう! でも、Lvも上がって別の戦闘スタイルに移行したいし、ドラゾンくんとはそろそろお別れかな」


 俺が告げると、ドラゾンくんがスンッ……と真顔になった。


 いや、仕方ないんだよ。


 次は『朽ち果てた都』の最深層に挑むわけだが、待ち受けるラスボスは人型で、しかもかなり機動力が高い。ドラゾンくんのスピードではおそらく攻撃を当てられないと思う。ラスボスは異常耐性も凄まじいから、頼みの【ポイズンブレス】もほぼ無効化されるだろうし……


 俺がLv上げに勤しんでいたのも、ひとえに俺自身のステータスの強化と、魂の器(キャパシティ)を増やして契約枠(スロット)の選択肢を多くするためだった。ラスボスに挑むにあたり、ドラゾンくんのコスト削減は避けられぬ運命(さだめ)……


「ルルォ……」


 しばし茫然自失していたドラゾンくんだったが、そこでハッと我に返り、何やら爪でカリカリと廃墟の壁に書き出した。



『やだ (>_<)』



 顔文字……だと……


 表情筋の限界ゆえ、たどり着いた境地か……!


 顔文字とセットでしょげかえるドラゾンくんの姿に、俺の気持ちも揺らいだが、それでもこれは決定事項だ。


「……ごめん、ドラゾンくん。俺も残念だよ。でもラスボスの【不死王、ザガン】はドラゾンくんと相性が悪いから、充分に備えて挑みたいんだ……」


 しかも、ただ相性が悪いだけでなく、めちゃくちゃ強い。ジュリア、ディディ、ジヴァの三人がいてもなお不安だ。【不死王、ザガン】は凄まじい火力と機動力を誇り縦横無尽に動き回って後衛やプレイヤーを狙うため、事故率が圧倒的に高い。いくらタフな式神を引き連れていても、俺自身が防御を固めておかないと瞬殺されてしまう。


「グルル……」


 それはドラゾンくんもわかっているらしく、うなだれている。すまぬ……


「ドラゾンくん。なにも今生の別れってわけじゃないから」

「ルルゥゥ?」

「また一緒に養殖【ドラゴンゾンビ】狩りをしよう! 俺はドラゾンくんのLvをカンストさせたいんだ!」

「……グオオアア!」


 俺が情熱的に再会を約束すると、ドラゾンくんもわかってくれたようだ。


 改めてお礼を言ってから、俺はドラゾンくんを送還した。


(ドラゾン)がいなくなると、ずいぶん空間が寂しくなりますね」


 大剣を肩に担ぎ直しながら、ジュリアが感慨深げに言った。その隣で、ジヴァもうんうんと頷いている。二人ともドラゾンくんとは肩を並べて(?)戦っていた。なんだかんだで皆、ドラゾンくんに愛着が湧いてしまったんだなぁ。


「……それで、ぼうやは代わりに何を喚ぶつもりなのぉ?」


 ステッキを弄びながら、ディディがねっとりと問う。


「【ハヤテ】だ」


 俺の答えに三人が「ほう」と感心したような声を上げた。


「とうとう喚びますか、『アレ』を」

「ああ、やっと喚べるぜ。あのコスト120の野郎をな……」



 ☆5(ウルトラレア)式神【仮面騎士、ハヤテ】――同名アニメとのコラボ式神だ。



 ぶっ壊れと名高いディディをも凌ぐ、最凶のバランスブレイカー。運営はコストを高めに設定することでバランスを取ろうとしたが見事に失敗し、カルマ・ドーンで唯一、公式大会やランク戦で使用できない『殿堂入り』を果たしている。


 殿堂入り前はひどかった。大会上位の全てのプレイヤーが職業にかかわらず採用し、あまりの有用さに『ハヤテ・ドーン』とまで呼ばれていた。コラボ限定キャラで再入手が不可能だったこともあり、コラボ前後のプレイヤー間で様々な軋轢を生んだ。


 ネット掲示板やSNSでは未所持プレイヤーに対する煽りが加熱し、『出、出~ハヤテ未所持奴~www』『ハヤテ持っとらん奴、おりゅ?w』『ハヤテ出なかったんですか? あ、僕は無料ガチャで引きました^^』などという無慈悲な投稿がいたるところになされ、カルマ・ドーンプレイヤーのモラルハザードも著しかった。かくいう俺も煽っていた。あの頃はまだ若かったからな。無料ガチャで引いてすまん。


 だが、こっちの世界では殿堂入りなんざ関係ねえ。卑怯だろうがぶっ壊れだろうがわからん殺しだろうが、自分が生き残るためならなんでもやるぜ。



「――と、いうわけで今から【ハヤテ】を喚ぶ」


 深層Ⅲのボス部屋――ボスは討伐済みなので安全地帯――に移り、俺は改めて皆に確認した。


「みんな準備はいいな!?」


 ジュリアたちがコクンと頷く。記憶を共有しているから、何が起きるかはわかっているのだ。


「――召喚、【仮面騎士、ハヤテ】ッ!」


 俺が叫ぶと、周囲の霊力が嵐のように荒ぶり、虹色の光が渦を巻き始める。


「よし逃げろ! 【瞬足】ッ!」


 予めセットしておいた☆3(レア)神業【瞬足】により、俺は全力で距離を取った。周囲のジュリアたちもダッシュで俺に続く。


 たっぷり50メートルほど離れ、ボス部屋の端っこまで遠ざかると本格的に召喚が始まった。



 虹色の光が、徐々に人の形を取っていく。



 ばさりとはためく青のマント。


 全身を装甲化する白銀の甲冑。


 鳥類を連想させるフォルムの兜。


 そして蒼く涼やかに光るアイガード。



 甲冑に身を包む騎士――というよりはパワードスーツのような強化外骨格を身にまとう、近未来的な装いの戦士がそこにいた。



「ハッハッハッハァ――ッ!」



 喚び出されて早々、イケボで高らかに笑い、「とゥッ!」と無駄に高く跳ぶ。


 マントを翻しながら空中でスタイリッシュなポーズをキめ、腰の鞘から剣を抜き放ちながら軽やかに着地ッ!


 その素顔はフルフェイスの兜に隠され、決して明かされることはない――


 なぜなら彼は!



「仮面騎士ハヤテ――見☆参ッ!」



 剣を掲げるハヤテの背後でドォ――ンッ! と凄まじい爆炎が上がり、放射状に衝撃波が広がった。


 変身ヒーローものでよくある演出だが、あの爆発にも衝撃波にも、ダメージ判定がある。俺たちがダッシュで距離を取ったのはそのせいだ。ノーガードで受けたら今の俺でも瀕死になるほどの威力。ハヤテ本人はパッシブ技能の【風守】により爆破ダメージがほぼ無効化されるので平気だが。


「よっ、ハヤテ」


 俺が手を上げて軽く挨拶すると、ビシッ! と無駄にキレキレな動作でハヤテがこちらに向き直った。


「おおッ! 少年ッ! 我が主よッ!」


 剣を鞘に収め、ハヤテが優雅に一礼する。なんか言動がキラキラしてる。


「このように相見える機会に恵まれるとは――このハヤテ、光栄の至りだッッ!」

「俺もびっくりだよ」


 まさかあの【仮面騎士、ハヤテ】と会話する日が来ようとはなぁ……にしても、召喚前からわかってはいたが、テンションが高いッ! 俺も圧され気味ッッ!


「そしてジュリア殿、ディディ殿、ジヴァ殿ッ! 貴殿らとともに、少年を支えていけること――嬉しく思うッ! これからよろしく頼むッ!」

「こちらこそ! 頼りにしてますよ!」

「よろしくねぇ」

「うむ! 新たな戦力は歓迎だ!」


 ジュリアたちは気圧される風もなく、あくまで普通に受け入れている。式神同士ではまた違った印象があるのかな……というか偉そうにふんぞり返っているジヴァを久々に見た。


 俺に対しては、召喚当初のトラウマからか「いつ嫌われるかわからない」みたいなビクビクした態度が抜けきらないからなぁ。なんだか新鮮だ。『らしい』ジヴァを見れただけでも、喚んだ甲斐があるってもんだ。


「そして少年、できれば今度、ドラゾンくんにも会わせてくれないか? 僕のせいで彼が押し出される形になってしまったからね。一言、謝らねばなるまい」


 ハヤテは律儀な性格らしく、そう願ってきた。俺も否やはない。


「わかった。そのためにも、Lvをもっと上げないとな……」


 俺の現在の魂の器(キャパシティ)は299。ハヤテのコストは120で、ジュリア、ディディ、ジヴァがそれぞれ50。四人だけで既に270だ。


 そこに☆5神業【女神の口づけ】――あらゆる状態異常を浄化し、生命力を回復させる――コスト20と、☆3神業【瞬足】コスト5をセットして合計295だ。神業は式神に比べて大分コストが低いからな、何とかなってる。


 でも贅沢を言うなら攻撃技として【天罰】もセットしたいし、神業【瞬足】よりも上位互換の☆5付喪神【イダテンの羽草履】を装備したい。霊力回復用に☆5付喪神【神酒瓶】も使いたいし、とにかくキャパシティが全然足りないのだ。



 新たなステージに進む必要がある……!



「そういうわけで。次は最深層に挑む」


 俺はボス部屋の向こう、虹色の光の渦を見やった。


 ダンジョン『朽ち果てた都』――その最深層につながる転移門(ゲート)だ。


 真面目な俺の宣言に、皆も表情を引き締める。ハヤテは顔見えないけど。


「最深層のラスボスを撃破して、『朽ち果てた都』を完全踏破すれば、さらに効率的なLv上げとドロップアイテム集めができるようになる……」


 奴隷の証、額のIDの入れ墨も消した。


 個人的には業腹だが、これからは貴族のボンボン息子に成りすまして気軽にダンジョンの外にも出られるようになるだろう。転職・周回がやりやすくなるし、装備も調達できるかもしれない。


「今日はまず、様子見だ。現状の構成でどの程度やれるかを見極める。無理はせずに最深層の敵にひと当てしてみようじゃないか」

「了解です、主様!」


 ふんすふんすと鼻息も荒く、ジュリアが大剣を担ぎ直す。ディディがぺろりと唇を舐めて悩ましい手つきでステッキを弄び、ジヴァが両手に燃え盛る炎の鞭を顕現させる。


「……ハヤテ、準備はいいか?」

「もちろんだとも! さあ少年ッ、いつでもいいぞ!」


 ハヤテが「飛び込んでおいで!」とばかりに、バッと両腕を広げる。


 ……うん、いざやるとなると恥ずかしいな。


 だが、やり方はわかっている。



 羞恥心を押し殺し、俺は自分の胸を叩いてポーズを取った。



「【俺が】!」



 続いてハヤテが、俺を指差す。



「【君が】ッ!」



 二人揃って、叫ぶ。



「「【ハヤテだ】!」」



 ハヤテの腰のベルトが、カッとまばゆい光を放つ――





 ――なぜ、【ハヤテ】が『殿堂入り』したのか?


 答えは単純だ。バランスブレイカーだったから。


 ――では、バランスとはなんだ?


 それは秩序と言い換えてもいいだろう。


 たとえばカルマ・ドーンには『職業』というシステムがある。


 それぞれの職ごとに長所短所が用意されている。職業ごとの得手不得手があり、立ち回りにも多様性が生まれる。


 たとえばカルマ・ドーンにはステータスというシステムがある。


 高位の式神はプレイヤーよりも強く、それを補うため、プレイヤー側には多彩な武具や神業という選択肢がある。


 だが、【仮面騎士、ハヤテ】は。


 そういった秩序を、根底から破壊してしまう――





 爽やかな蒼の光がほとばしり、俺とハヤテを包み込む。


 ふわりと体が宙に浮かび上がるのを感じた。


 眩いオーラの中で、俺の身体が紐のように解けていく。


 ハヤテも同じだ。甲冑ごと解けていく。


 まるで遺伝子のように。


 俺たちは二重螺旋を描いて。


『新たな一』に、生まれ変わる。




 ――光が弾けた。




 とんっ、と軽やかに着地する。


 身体が羽のようだ。見れば、普段は見上げているジュリアたちの顔が、自分の肩くらいの高さにあった。


 手を広げる。白銀色の装甲に覆われた腕。


 ばさりとマントを翻し、腰の鞘から剣を抜き放つ。


【ハヤテ】がバランスブレイカーたる所以。



「【(ぼく)が、(ぼく)自身が、ハヤテだ】」



 それはプレイヤーを☆5式神と同次元に強化してしまう――『変身能力』だ。







お久しぶりです! 更新再開しました。

ただ毎日更新はキツいので、ぼちぼち書き足していくスタイルで行こうと思います。

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます!


また、ちょくちょく↓こんな感じの短編なんかも投稿しておりますので、お暇があればぜひこちらの方もどうぞ!


【豺ア蛻サ縺ェ繧ィ繝ゥ繝シ】チート剣もったまま召喚されたら異世界がバグった

https://ncode.syosetu.com/n9691fa/


異世界乙女の婚約者破棄フィアンセデストロイ

https://ncode.syosetu.com/n4777dk/


バブみの勇者 ~年下の可愛い子に「ママ~!」とオギャって「よしよし、いい子でちゅね~」と甘やかしてもらったら一時的に無敵になるチートを獲得した!in 異世界~

https://ncode.syosetu.com/n6051ek/




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ