0.無課金、死す
基本はコメディでいきたいと思います。よろしくお願いいたします!
人間には四大欲求がある。
食欲、性欲、睡眠欲、そしてガチャ欲だ。
ガチャを引きたい――
その欲求に抗える者はいない。
死ぬほど回せ。
死ぬまで回せ。
――人は、ガチャを回すために生きている。
†††
夕暮れ時。
「うおおッオオオッ出ろおおおォォッ!」
スマホをかかげて、奇声を発しながら、坂道を駆け下りる不審者が一人。
俺だ。
その名も多々石師太郎。
どこにでもいる普通の高校生だ。
突然だが、俺にはジンクスがある。
『全力疾走しながらガチャを引くと良いのが出る』
基本、ソシャゲでは無課金を貫く俺は、とにかくガチャの引きが良い。
友人がバイト代全部突っ込んでも引けなかったレアを単発で引いてしまったり。
無料配布チケットやら何やらで話題の強キャラをコンプリートしてしまったり。
しかしそれも全て、このジンクスのおかげだ。
今、俺はガチャを引こうとしている。
数年前からドハマリしているソシャゲ『カルマ・ドーン』。
パワード大鎧を身にまとう侍や白虎を駆る騎士、金髪碧眼のエルフ陰陽師、獣人忍者にドワーフ刀鍛冶などなど、洋風ファンタジーに和モノがねじ込まれたような歪な世界観が特徴のアクションRPGだ。
ダンジョンに潜って装備を集めたり、ガチャで式神を引いて育成したり、着せ替えアバターでキャラをカスタマイズしたり。
他のプレイヤーたちとの共闘や対戦も可能で、最大64人で争うバトルロワイヤルモードは特に人気があり、若者から社会人まで幅広い層に遊ばれている。
学校の帰り道、ふとカルマ・ドーンにログインした俺は、ガチャのゲリライベントが開催されていることに気づき、いても立ってもいられず、貯めていた神魔石(ガチャを引くのに必要)を解き放つことに決めたのだ。
「うおおおおおッッ!」
神魔石、投入。
俺はガチャを回すときは単発派だ。
十連やら二十連やらは邪道。
一回一回、魂を込めて引く。
何が出てくるか、画面を見つめ、祈り、呪い、喜び、嘆く。
その一瞬。
結果がわかるまでの一瞬。
星々が煌めくように、俺は自身の生を実感する。
俺が目にするのは、☆5の虹色の輝きか?
それとも☆1のきったねえ茶色のエフェクトか?
何が来る。
何が来る――?!
「☆5来い――ッ!」
ガチャを、回す。
緊張の一瞬。
すると画面が――虹色に輝く。
「よっしゃ☆5来たああァァァァッッ!」
絶叫しながら、思い切り跳ぶ。
今の俺なら空でも飛べるッッ!
が、プア――――――ッ!! というけたたましい音が俺を現実に引き戻した。
「あ?」
顔を上げる。
そして俺が目にしたのは、☆5の虹色の輝きでも、☆1の茶色のエフェクトでもなく。
すぐそばまで迫る、ぎらぎらしたヘッドライトの光。
その上に、ハンドルを握るトラックの運ちゃんが、「嘘だろ」という引きつった顔をしているのが、やけにはっきり見えた。
あっこれ死ぬやつじゃん、と他人事のように思う。
せめて何を引いたのか、確認させてくれ――
そんな思考を最期に、凄まじい衝撃が全身を襲い、
俺の魂は次元の彼方まで吹っ飛ばされた。
作中日本の道交法では常に車両が優先です。トラックの運ちゃんはドライブレコーダーの映像などもあり、無罪放免となりますのでご安心ください。
また、歩きスマホ及び走りガチャは大変危険ですので、決して真似しないでください。