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守銭奴×不良  作者: 鼻息
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後編

それから、かなりの確率でひっくり返された弁当を食う俺を、浜山くんは無言で蹴りつけ止めさせるや、まあゴミだし!と良く分からない台詞と共に確かに捨てる部位なのだろうが手間掛かってる料理を振る舞ってくれるようになった。魚の骨煎餅とか大根の葉っぱの浅漬けとか。


何故か俺の心に浜山くんスペースが増えた。






「テメェっっ!どういうことだこりゃあ!ああ゛?」

放り投げられる俺のノートそこには、三文小説もびっくりなカップルたちの睦言集がギッシリ埋まっている。宇都金物物産の跡取り息子とanything株式会社総取締役員息子の会話集だ。それを書いてる最初、かゆくてかゆくて仕方がなかった。

そう、俺のバイトかつ、この良いとこ学校に通えている理由。宇都金物物産の跡取り息子とanything株式会社総取締役員息子の見張りと報告。

彼らは付き合っている。

しかもラブラブだ。気持ち悪いくらい。でも1年ずっと書き続けた彼らの馬鹿っプル振りは俺を使って見張ってまで行く末を案じていた彼らの親を説得する材料となったらしい。

俺はきっとそろそろお払い箱だろう。

俺も高校に進学するつもりはない。早く働きたかった。中卒とは言え、ここに通ったというステータスは大きい。それに中学を卒業すれば、俺は堂々とバイトが出来る年齢である。


「見ての通りだ」

「テメェ!」

「彼らは付き合っている」

「良くも宇都さんを!」



俺らはパチパチとお互いの顔を見て瞬いた。

「彼らは付き合っている?」

「いや、知ってるから」

「え?じゃあ何に怒ってんの?浜山くんは」

「お前が、宇都さんらを逐一親にチクってるスパイだったからだろ!?」

「いやだってそうしないと俺ここ通えないし」

「は?テメェ外部編入試験受けて来てんだろーが!」

「金無いから。俺、孤児」

浜山くんは、目を丸くし固まった。そして低く低く小さく聞く。いくらだ?と。

「何が?俺が浜山くんのご主人様とその恋人の親に支払われてる金額?ここの学費?合計?」

なんか施してくれそうな勢いだったが、何故だか浜山くんには千円単位の金しかたかりたく無いという中途半端な気持ちが有ったのでわざと突き放す言動を取る。


何か言ってくれるかと期待したが、クソが!という下品な言葉が教室の机にかけられただけで終わった。浜山くんが、俺の正体に気付いた次の日。卒業式だった。不良な彼はサボった。



俺は、それが妙に腹立って彼の靴箱を開くや、第2ボタンの代わりに貰います。とメモを残し履き潰された上履きを片方貰った。

……彼の実は居たらしいファンクラブ会員たちと熾烈な追いかけっこをする羽目になるとは思わなかったが。浜山くんってどこのアイドル?




さて、その後、云年間の俺の生活は全てに金だった。幸せは、ちょっとずつ増えて行く通帳のケタ。多分、孤独を越えて金が生きる動機になってしまった俺は、少しオカしくなっていたのだろう。その通帳の数値が動く度の俺の興奮は性的それにも酷似するものだった。


俺の中はほんの少しの人の部分と大部分の金欲で出来上がっている。ほんの少しの中に何故かずっと玄関にしまわれている浜山くんの上履きがあった。





この話を蹴らなかった俺はまだ、金に全ての心を売ってはいなかったのだなと妙な感慨を持った。薄水色のツナギに片手に箒、片手にチリトリとゴミ袋。ツナギの背には懐かしい母校の梟と女神のエンブレム。

平日泊まり込みの用務員。俺を心配した孤児院の院長が持って来た話だ。俺の過去がきっと彼が見た中で一番エグかったのだろう。だから、彼は院を出て行った俺をまだ気にかけている。正直、普段稼いでいるそれより収入は低い。安定はするが、それは家庭を持たない俺には不要な物だ。

だけど断らなかったのは…


「おっ、百円はっ」

校舎正門に続く道端。人工芝の上に光る何かを見付けて取り上げた。そうであれば良いなと口にした台詞は、荒い息に怒鳴られるような必死さに止まった。

「すみません!その釦、私のです!」

「え?」


俺は硬直した。

なぜならその釦の裏には、俺の懐かしい筆跡で「第2ボタンの代わりに貰います。」と書いて有ったからだ。

「すみません!ありがとうございます!」

釦をまるで奪い取ろうとするよう乱暴に俺の手にかかる、骨の形が良く分かる指。

制止。

大人になっても上の方にある唇が震えながら、俺の名を呼ぶ。


「詫間」

「浜山くん」

そのまま指はしっかりと俺を捕まえてしまう。

「…聞いてねぇんだよ。お前が高校上がんねーとか聞いてねぇっ!」

「ごめん月給九万と浜山くんより月給十八万と通帳を取った」


その時甲高い呼び笛がした。浜山くんは、俺を持ったまま走り出す。スーツに黒髪、大人になってしまった浜山くん。

ついた先には、昔の面影濃い浜山くんの女王主人が居た。

いや、キングでも横暴でも良いんだけどよ。顔が女顔だから。

「遅いよ。そしてそれ何?」

「あ」

間抜けな声を上げつつ、しかし、浜山くんの手は俺を離さなかった。




余談


「ところで何しに来たんですか?お二人さん」

「ボクの可愛い息子の授業参観」

「……(ちょっと!ちょっと浜山くん!どうなってんの?)」

「……(あれから色々あって別れたんだ。宇都さんは、ちょっと人振り回す所があるから)」

それって本当にちょっとだったのか?

思った俺に、無造作に何故かカメラが女王から渡される。

「付き添い制限人数なんて無ければ!君が浜山の友人なら丁度良い、息子の勇姿をしっかり撮れ。」

「俺仕事が」

「はっ!クビになっても浜山の補佐で雇ってやる!ああ!しまったもう十分前じゃ無いか!浜山!ちゃんと交渉はしたんだろうな!?」

「はい!蒼真様の席と同じ列の保護者とは話がついております。ただ、鈴木様が」

「ちっ!あの豚野郎!毎回毎回ボクの蒼真のベストポジション分捕りやがって!本当は豚息子じゃ無くて蒼真撮ってんじゃ無いだろうな?」

鼻息荒く校舎に向かう女王と付き添う浜山くん。浜山くんに引きずられ、本当は振り払えたハズなのにそのまま撮影隊(浜山くんはムービー担当だった)に加わった俺の行く末。聞いた院長先生は、笑顔だったと言っておこうか。




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