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企画もの

残念な白雪姫による、王妃様の因果応報

作者: 平泉彼方

 昔々ここからはあらゆる意味で遠い国で、心優しき娘が生を受けた。そして優しく厳しい母親に5・6歳まで育てられ、母親が死ぬと父親の別の嫁であった継母から虐待を受け、命を狙われた。

 現代日本だったら間違いなく通報からの即逮捕ものであったが、ここは残念ながら法の違う色々遠過ぎる国。しかも継母や空気な実父は法を作る立場の存在、というより中央集権型国家の君主制らしくその人自身が法であったので誰も保護できない、裁くものがない状態であった。


 ただ、その頃には母親から継いだらしき天然かつ残念な性格が見事力を発揮しており自身の立場を嘆くことなく逆に相手を憐れみ心優しいま強くまっすぐ斜め上というか下というか…とにかく性格は悪くない方向に育った。

 ご飯を抜かれた日には、きっとこの国は貧乏なのだろうと解釈して王宮を出て周囲の森へ食べ物を探しに出た。その後さすがにまずいだろうと解釈した王宮の人々が彼女を連れ戻し、再び脱走…というパターンが何度か。

 ある日継母である現王妃に呼ばれ鞭で折檻されるも、これは訓練の一種なのだと解釈して自分で鞭を調達して次回から対抗するようになった。今では西部劇の熟練カウボーイ並に以上に鞭を自在に操れる。

 また晩餐会で毒を盛られた日、毒の症状を前日王立図書館で読んだ『あれるぎ』と呼ばれる食べ物による病と混同した。その際毒が付いていたのがりんごのコンポートであったため、りんごを避けるようになった。


 さて、紆余曲折あってお手上げであると考えた王妃様は自らの手勢でもって白雪を城から追い出した。ついでに殺しておけと命じたのだが手勢の数名は王族への不敬を恐れて野垂れ死を期待し放置することにした。

 そうして白雪は、王宮暮らしの白雪改め森暮らしの白雪となった。身も蓋もないが、つまり窓際王女は野生のホームレス王女へジョブを転職することになったのだった。

 だが、前述した通り彼女はどこまでも残念な思考の持ち主…もうここまでくるとある意味戦慄を感じる。彼女は王妃様の修行が最終段階に入り、いざ戦になった際生存率を上げるためにもサバイバル訓練を自分に課したのだと認識した。ああだからサバイバルナイフ一本をあのおじさんたちは選別だと渡したのか、と。

 …数ヶ月前隠れて徹夜してでも読破した王女が武の力で救国する英雄譚に影響されていたことは、言うまでもないだろう。

 まあ、それ以前に元から脱走癖のあった姫は特に問題なく森で生活するのであった。



「ま、魔術とか使えるしなんとかなるでしょ。」



 こうして白雪は、王宮に縛られることなく自由に暮らしたのだった。



 1・2年が経過した頃、白雪はある日運悪く盗賊集団『森の小人』に捕まってしまった。彼らは最近王都付近で活動していたレジスタンスの名残であり、貴族の馬車を襲撃することが何度かあった。そのため貴族の家出娘(いるかどうか知らんが)だと勘違いされて拘束された…誘拐脅迫?人身売買?とにかく目的は不明であったが。

 森暮らしをしていて薄汚い孤児ではなく貴族令嬢と勘違いされたのは、おそらく白雪自身が王宮時代の姿を保ったままだったことが原因と考えられる。『魔術』と呼ばれる特殊技能を習得していたことが完全に裏目に出た形となった結果である。

 なお、具体的には服や体の清潔保持や再生能力、さらに日光などへの防御能力。これらによって白い肌、令嬢らしい傷のない体、清潔かつ高そうな服に変化せず状態は保持されたのであった。


 王族…というか王女なのに野生児並の行動力と特殊技能を持っていた白雪は何度か脱走した。ただ、彼女の残念な思考は彼女に誘拐犯を王宮の関係者で自分を連れ戻しに来たあるいは保護しに来た連中だと思い込ませてしまった。正してくれる人は誰一人としておらず、勘違いは加速していった。

 王妃様の部下は元から採点するためここにいた。そして自分の様子を見守っていた…だがあまりにも不出来だったがために仕方がなく保護するに至った。ゆえに自分はまだまだ未熟者。王妃様の期待にはまだ答えられていない。自然界に帰り再び鍛錬あるのみ。

 …そんな風に考えて脱走を繰り返した白雪。


 一方のレジスタンスの連中は彼女を自分の状況を理解していないじゃじゃ馬娘と決めつけ何重にも拘束しようと頑張った。前半部分はある意味正解であるが、結局互いに噛み合わないのであった。


 ただ、この二者はひょんなことからあっさり和解した。


 『森の小人』

 彼らがレジスタンスになった経緯の詳細は時間と文字数が嵩むので省。

 彼らの活動目標は基本的に現政権の打倒。現在の王妃、つまり白雪の継母が力を持ってから酷い圧政となったので、前時代『自給自足生活』を取り戻すことを主な活動理念として掲げていた。

 自分の生活は自分でまかなう(人を雇って経営するも可)。そして、土地代のみ王侯貴族(地主)へ払う。支払いは金でも現物でも可。期間は1年以内で分割でも一括でも良い。そんな時代へ戻ろう、と。

 実際、領土が広い分それだけで過度な贅沢さえしなければ十分暮らしていけるはずなのであった。



「え、前王妃の姫様?」

「なら俺たちの仲間じゃないの?」



 上述の内容をかつて提案した白雪の母親である前王妃様は、そんなわけで大変好かれていた。


 さてある日、脱走途中でブービートラップに引っかかって白雪の上着ポケットが破れてしまった。その際、白雪の母親から継いだ母親の出身国-生家の家紋を宝玉に彫ったペンダントが落ちてしまった。

 これを拾い上げた『小人』。

 彼らは気付いた…いや、元から怪しんでいたのだが到頭認めることになってしまった。



「…まさか白雪姫だったのか……」



 そういう過程を経て、白雪は『小人の家』という自警団?マフィア?の世話になることとなった。

 なお、彼女のただ飯ぐらいを嫌う質というか修行をしたいという意志から、家事労働を彼らの潜伏先である『小人ハウス』滞在への対価とした。最初恐れ多いと感じていた『小人』はだが、やがて慣れてしまったのであった。




 そんなある日、王妃様は殺しきれていなかったことが鏡を用いた占いで判明した。王の耳に入る前、そして白雪の母の生家である隣国の魔導国家の魔術師たちが気付く前に、始末することにした。

 そこで、前王妃が存命で自分が側室だった時代に幼少の白雪がりんご好きであったことを思い出す。失敗した部下のことは無視し、短絡的にりんごに毒を塗って持って自ら乗り込むことにした。

 当然ながら、白雪がりんごを嫌っていることと自分が既にその手を使っていたことは忘却の彼方であった。


 こうして白雪の手に至った毒りんご。



「誰か食べたい人いる?」


「「『いやいやいや、施しを受けないポリシーに反する!』」」



 さてどうしよう…そうだ、いいこと思いついた。


 白雪は綺麗な笑みを浮かべ、レジスタンスの面々は戦々恐々となった。一体今度は何をやらかすというのだ、などと。

 青い顔で胃のあたりを押さえる彼らに白雪はお腹が空いているのだと勘違いし、その日の夕飯はガッツリとヘビーな森のイノシシカツ(大盛り)がメインとなった。なお、狩猟は鞭を含めた縄技術の得意な白雪にとっては朝飯前であった。

 とりあえず、『小人』たちの胃袋に合掌チーン






 数日後、王妃様はりんごを食べた白雪の遺体を確認するため森へと来ていた。農村の村娘(自称)…というかよくておばさんにコスプレし、そうとは知らずに自分を倒すことを企てている敵地へ向かう王妃。

 犯人は必ず現場に現れるとは、このことを指すのだろうか。


 だが彼女が目にしたのは相変わらずピンピンした様子の憎き白雪。りんご、食べなかったのかと落胆して出直そうとしたところ、見つかって呼び止められた。






「さあおばさま、アップルパイですわ…どうされましておばさま、おばさま?」



 王妃は全身に脂汗をかいてアップルパイを見ていた…あ、これ妾が用意した特別製の毒林檎だ、などと。当然食べられるはずもなくゴクリと唾を飲み込んで眺める。


 なぜ、林檎を食べずにこうやって妾に振舞ったの?


 数日前特別製の林檎だと譲ったばかりだというのにそのことはスコンと頭から抜け、譲った本人へと振る舞う白雪。別に悪意も害意もない。ただの天然ボケの善意である。悪質であることに関して否定はしないが。


「…あ、えっと、お嬢さん?」


「おばさま食べないのですか?」


「え、えっと…その、あ、あまりに良いで、出来栄えに…お、驚いただけなの、ええ…そ、その家族に持ち帰っても…いいかしら?」


「ああ大丈夫ですわ。おかわりはありますのよ、ほら!」



 結局、大家族で暮らしているからこれじゃあ足りないという苦しい言い訳でなんとか毒入りパイを乗り切った農家のおばさんもとい王妃様。王宮へ帰ってから自分の疲れきって老けた顔と眉間のシワを見て悲鳴をあげたとかあげてなかったとか。

 後に語っていたことだが、笑顔でアップルパイを進める白雪をこの日は本気で悪魔みたいに見えたという。そして同時に思ったことは一つ。



“もうこの親子と関わり合いになりたくない”



 実は王妃様、前王妃様がご存命だった頃に同じように毒殺を試みたことがあり、似たようなやり取りで撃退されてしまっていた。その日は確か、茶葉に毒を入れていたのだが彼女と自分のみが参加する茶会でそれが使用されることになるとは…しかも白雪同様特別なものは大事な人たちと飲みたいものですよね、など笑みを浮かべて言うのだ。

 本気でこちらを殺しにきているのか、それともこちらの意図に気付いておらず天然なのか…まあ間違いなく後者なのだが。それも含めて憎くて仕方がなくなんども殺そうとしたのに。




 1年経たないうちに王妃は亡くなった…なお、死因は胃潰瘍の悪化によって穴が開いたこと。食前に食前酒を飲んでいる最中吐血し亡くなったため一度給餌が疑われたが、魔術による検査結果で彼の無実がめでたく証明されたことは余談である。


 そうと知らないレジスタンスは葬儀に忙しい王宮へと侵入、あっさり乗っ取った。



「父上、いや、王よ。今をもって隠居せよ!」

「うむ、そうさせてもらおうか。クラウス、任せた。」



 いつの間にか出来ていた白雪と『小人の家』の長クラウスがトップに据えられた。なお、長は王妃の方針に逆らい潰された公爵家の生き残り(母が隣国の王族一人娘=王子)であったことから、身分上は問題なかった。


 後、再び革命が起こるまではほどほどに力ある安泰な国であったと記録されている。


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[良い点] これに感想を書きたくなって読んでたら! まさかすでに読んでいたとは! さすが私! いいセンスしてますよね! 森暮らしのしらゆっきーって! イカれてますね! いつも酔っててごめんなさい。 […
[良い点] 面白かったです! 森暮らしのしらゆっきーって言いたくなりました! やはり正義は勝ちますね!
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