8 余談
“スピルト”ダイニングにて。ロマンヌはひとり、紅茶を飲んでいました。ストロベリーティー。レアがどこかから摘んできた赤い実とともにいただくお紅茶はほんのりと高貴な甘み。
「随分と嬉しそうですね」
「あ……先生」
わかっちゃうなんて……と少々照れながらもロマンヌは答えました。
「レアの悩みが無事解決したみたいなので、わたしも嬉しくて」
エルネスト先生は涼しげな微笑みを浮かべます。
「でも今回、どうしてわたしに相談してくれなかったのかなって、それだけがちょっとだけ気がかりなんです」
「人にはそれぞれ役割があるんです。そんなふうに妹さんのことを真剣に考えてあげることのできるロマンヌが、僕は好きですよ」
「はい。……って、え?」
あまりにもさらりと言われたので、喉をすっと通るルビー色の液体とともに流してしまいましたが。ロマンヌは固まりました。
今のって、どういう意味でしょう?
「聞いてらんねーぞちくしょー」
調理台の陰にて。その様子をこっそり覗くふたり組がありました。
「エルネストのヤツ、許せん。どっちつかずの態度続けやがって。いい加減はっきりしろよ」
「パーパ」
身を隠すため、台の裏側で身をかがめて憤るロジェの肩をレアがたたいてなだめます。
「いちゅか女の子は父親のもとを巣立っていくモンでしゅ。パパこそいい加減娘離れしなくては」
ロジェパパは、やだやだそんなの、ロマンヌはずっとパパと一緒になどと駄々をこねるとばかり思っていたら、
「ふーん……」
しばらく含みのある目でレアを見つめて何事か考え始めたので、レアはあれれ、と首をかしげます。
「パパ、ロマンヌを送り出すのを考える気になったでしゅか?」
あな珍しや。レアがどんぐり眼でした質問に、再びダイニングの方へと目を向けながら、パパは答えました。
「……レアが、ずっと一緒にいてくれんなら、考えてもいいかな」
「……考えときましゅワ」
さらにそのふたりの様子を裏口へと続く小さな倉庫で盗み見ていたプレヌママがこう呟いたとか。
「やだ。こっちも聞いてられなーい♥」
傷つきやすい温室いちごさんにも、親しみ易い野いちごさんにも、早く暖かな春が来ますように!