2 どっちのデートプラン?
大都会パリで高級志向デート? 港町の市場で夕飯のお買いものデート?
みなさんはどちらがお好みですか!(^^)!
「♪ララバーイ、ララバーイ、今日と言う日に乾杯~」
普段、超絶音痴につき、人前で歌うことを辞退する彼が、なんとモップを手に歌っているのです。
「♪あなたを愛するわたしに乾杯したいのよ~、買ったばかりのイアリング、気が付いてね~」
モップがリズミカルに動きます。確認のため記しておきますが、歌っているのは女性ではありません。
「ロジェ、どうしたの?おしまいには『愛に乾杯』なんて歌っちゃって」
「気が狂ったとしか思えないぜ。男があんな歌」
プレヌとティトがそれぞれ、その歌い手を評します。
「な、プレヌ。とうとう頭がどうかしちまった夫なんてほっといて、どうだ。今日はオレと出かけるなんて」
そう言うティトとプレヌとの間に、さり気なく割って入りながら、
「何とでも~言~え~♪」
ロジェはあくまでも上機嫌。
「おい……、ふつうの台詞にまでメロディーつけてっぞ。やばいんじゃねーかコイツ」
こそこそと、ティトがプレヌに耳打ちしたその時です。
カランカラン……。
「帰ってきたっ」
黒いバラのアーチの装飾のついた、茶色い扉――レストラン”スピルト”の入り口が開く音がするや否や、ロジェはそちらの方へ駆けつけました。
「よっ、ロマンヌ」
「あ、パパ……。ただいま」
店に入ってきたロマンヌは、どこか気まずそうに微笑んでいます。
「さ、かねてからの約束通り、パパと市場&港公園デートしよーな。今日は久々に休みがとれたから、なんか嬉しくてさー。モップかけながら歌っちゃったよー」
後方ではプレヌが笑いながら、こういうことだったのね、と、ティトが単純な奴、と囁いています。
「あの。そのことなんだけどね、パパ……」
「公園に市場とは随分、安上がりなプランだな」
人は本能的に天敵の声を聞き分けるものなのでしょうか。この場に新たなる声が介入してきたとき、ロジェの表情はガラリと変わりました。
「エルネストか。どーしてお前はこういつもいつも出たがりなんだか」
「……どういう意味だ」
「だけど今日のところは、お前も用無しだぜ。ロマンヌは今日、このオレとデートに」
「その計画ならお蔵入りだ」
「な……んだと」
エルネストは涼しい顔で、
「ロマンヌは今日オレとパリの洋服ブランドのディオールの店に行くんだ」
安々とそう宣言しました。
「なにーっ!? さり気なく、立てたプランで財力見せつけてくんのもムカツクー<`ヘ´>」
「あ、あのね、パパ」
ロマンヌが慌てて割って入ります。
「パパとの約束、忘れてたわけじゃないの。ただ、せっかく先生も誘ってくれてるし、どうしようかなって……」
「ロマンヌ」
ロジェはロマンヌの両肩に手を置きました。
「今日は市場で買った野菜で、ロマンヌにおいしーいカレーを作ってやる。だからここは、パパの顔を立ててくれ」
「うーん、……そう、だよね」
半ば涙目(笑)のロジェに、ロマンヌの心は動いたようです。しかし、
「娘というのはいずれ父親の元を去っていくものだぞ、ロジェ。いつまでもそうやってしがみついていては、彼女も新たな人生に巣立って行けないんじゃないか」
音もなく、ロジェは、ロマンヌの目線に合わせるため屈めていた腰を上げました。
「なんだよ、新たな人生って……。まさかお前がその、新たな人生に進むためのパートナーになろうってんじゃないだろうな」
やれやれとエルネストは肩をすくめて、
「例えだ、例え。こんなことでいちいち熱くなっているようじゃ、子離れがいざ必要となったときに考え物だな。ロマンヌが本当に結婚するときなんかどうするんだ」
「ロマンヌはどこにもやらねーっ!」
ロジェは叫びました。
「だいたいロマンヌをパリへ連れてくだって?馬車の馭者は誰がやるんだよ」
ロジェは憤りながらも、話題をすり替えました。
「オレだが」
「なんだとーっ」
当然のごとく答えるエルネストに、ロジェは激昂して、
「断固許さねーぞ。反対だ。エルネスト。お前安全運転ってもんができるのか」
「失礼なことを言うな」
エルネストも反撃します。
「そりゃ、暴走族並みだとか、命綱が必要とか言われたことはあるが、しかしそれは、全て精神状態の荒れているときであって、ロマンヌが一緒のときに限ってそうなるはずは――」
「弁解んなってねーよ!」
「そうだ!」
そこへロマンヌが割って入りました。
「あの、わたし思いついたんだけど、3人で市場へ行って、公園に行って、それから、パリに行くっていうのはどうかな? 」
しばし沈黙の後、
「「えー」」
という不満そうな2つの声はしたものの、その案に決定するのでした。
その様子を、影からじっとうかがっているおちびさんがいました。
もちろん、レアです。
ロマンヌやパパを複雑そうに見るレアちゃんの気持ちは次回へ続きます(#^.^#)