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いつか来るその日まで  作者: 皐月 時雨
1章 運命
3/8

転生者

遅くなりました


ある王は


少数を捨て、多数を救った


得られたものは多大な感謝と少量の憎悪であった

 私、ロートは転生者である。前世では天寿を全うせず死んでしまったが、気づけばこの世界に転生していた。文明の発展具合はもはやテンプレのように中世ヨーロッパぐらい。


 これだけでは過去に転生したことも考えられたが、親との会話で"魔物"という単語が出てきてからこの世界はいわゆるファンタジーの世界なんだと自覚した。今住んでる村に来る時に見た冒険者が魔法のようなものを使っていたことからも明らかだろう。

 

 さて、そんな転生者である私だがこの村で馴染めていない。それはそうだろう。前世はれっきとした社会人であったため同年代の子供たちとは1歩引いた関係となるのは必然的だったのだろう。

 

 だが、悪いことばかりでもなかった。社会人になってから勉強の大切さを知ったため、この人生ではしっかりと勉強している。といっても文明レベルが低いせいか紙が貴重品で本は高価で買えない。前に住んでいた街はそこまで大きくなかったため図書館などはなく、親に勉強を教えてもらっていた。といっても、この世界で使用されている文字などだが。

 

 そのため、この村に大量の本を所持しているお婆さんが引っ越してきたのはすごい幸運だろう。最近はいつもお婆さんの家に言って本を読ませてもらっている。魔術について書かれた本もあったが別に戦うわけでもないので必要ない。

 

 私はよくある異世界転生して冒険者になりハーレムを作りたいといった願望はない。女として生を受けたから、とういうのもあるだろうがそもそも日本人だったものとして複数人の女性と関係を持つということはすごいと思う。もちろん悪い意味で。そんな野郎とは付き合いたくもない。

 

 さて、話が逸れたが私は今医学書を読んでいる。分からない単語は横に置いてある辞書で調べ読み進めている。この世界には回復魔術というものがあるらしいので医学レベルは低いと思っていたが、それは違った。なにせ魔物がいる世界である。当然冒険者はいて怪我もする。その治療には医学の知識がないとダメだ。そんなもの回復魔術で治せばいいと思われるかもしれないが、それは出来ない。その理由を知るにはまず魔術のことについて知らなければならない。

 

 この世界の魔術は異世界でありがちな万能なものではない。この世界での魔法とは、事象の拡大である。

 

 例えば目の前に火のついた蝋燭が立てられてある。そこで火に向けて世界に満たされているモノ、魔素を魔力に変換しそれを火に集中させる。そして世界の事象に干渉する特殊な詠唱を唱えると魔法が発動する。これは詠唱によって変わるが例えば「ファイア」と唱えれば蝋燭の火が大きくなる。「ファイアーボール」と唱えれば指定した場所へ火が飛んでいく。


 このように魔術は触媒がないと発動しない。ただ例外もある。長年使い続けた魔術は触媒なしでも発動出来るようになることがあるのだ。これはその魔術に限って事象への干渉方法が染み付いた、ということである。それは言葉には表現し難いもの。いつの間にか身につくものなので基本伝承は無理である。


 回復魔術も同じようなものである。これは生物の細胞の自己修復能力を促進させているだけなのである。だから細胞が死んでる場合は治せないし、基本的に体の欠損も治せない。そして、怪我の治癒には時間がかかり激痛を伴う。強制的に細胞を活性化させてるので治癒後はしばらく過負荷による反動で動けなくなるおまけ付きだ。こんな感じなので、医学の発展は割としてる。


 この世界には魔素が満ちていても魔力が使えない者もいる。正確に言うと使えないではない。先ほど、魔素を魔力に変換すると言ったが、この変換率には個人差がある。普通に例外はあるが、一般的に変換率が0~40%の人は魔法を使わない極普通の仕事に就き、40~60%の人が医療関係に就き、60~100%の人が魔術師となる。

 

 医療関係者の変換率がそこまで高くないのにはちゃんとした理由がある。人の治療をする際、細胞を活性化させるが、変換率が高いとその分活性化率も上がる。一見言いように思えるが、実際は真逆。悪いのだ。つまるところ、治しすぎるのだ。

 

 例えば、左胸のところに大きな切り傷を負ったとする。幸い、心臓に影響はない。だが、ほっとけば出血多量で死ぬだろう。そこで魔力変換率が高い治癒師が回復魔法が使ったとする。するとみるみる傷が塞がっていく。1時間もすれば完全に元通りだ。だが、治療してもらったものはその後すぐに死んでしまう。

 

 回復魔術で細胞を活性化させる時、ピンポイントで指定することは難しい。指定した時周りの細胞も一緒に効果を受け、活性化してしまうからだ。


 今回の例の場合、胸の傷を治す時その効果範囲が心臓まで至ってしまった。その影響で心臓は治療中活性化され、酷使されてしまった。それで治療後心臓は過負荷で機能を停止させてしまったという事だ。そのため、治癒師の適正変換率は約50%となっているのである。


 なら、私の変換率は50%なのかと聞かれたら私は分からないと答えるしかない。この世界には個人の魔力変換率を測る便利道具など存在しない。そのため実践でしか測ることが出来ないのだ。そして私は魔術の使い方を知らないので、自力で測ることも出来ない。つまり、治癒師になれるのかは分からないのだ。だが、例外もあると言ったように魔力変換率が低くても治癒師にはちゃんとなれる。差といえば治療にかかる時間程度なのだから。


 さて、そんな私だが先程も言ったように同年代の子供たちとは仲良くなれない。私は元々子供があまり好きではない。そんな子供たちに遊ぼうと誘われても精神年齢アラサーの私には付き合えない。

 

 必然的に距離を置くことになり、あちらもいつも本を読んでばかりの私とはつるまない。それで、そのままの関係でいてくれたら良かったのだがそうはいかなかった。


 人間とは悲しいことに自分たちとは違うもの、又は特異なものを見下し、もしくは排斥し相手より優位に立とうという習性がある。あの子供たちもそれは例外ではなく、やけに冷静で異質な私を排斥しようとしてきた。イジメである。


 最初の頃は罵詈雑言を言ってくるだけだったので精神年齢の高い私は耐えれた。だが、次第に過激になり遂には囲まれ、蹴られ殴られるようになった。心は我慢出来ても体は我慢出来なかった。


 反撃することも出来ず、ただイジメが終わるのを静かに待つだけ。親にバレないのかと思う人がいるかもしれないがそこはしっかりしている。村ハズレにある井戸でちゃんと体の汚れを洗い流してから家に帰っている。痣が出来ることもあるが適当に誤魔化している。


 そんな少し普通とは言い難い生活を送っているが、充実していると思う。そんなことを思いながら私は床についた。

9/21 魔法→魔術に表記変更

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