1.プロローグ
つまらない人生
それを変えるのは他の者だ
ならばそれに賭けてみよう
その日、人気の無い薄暗い洞窟で一体の巨大な竜が息を引き取ろうとしていた。
その竜は既に数千年も生きていて、いつしか竜王と呼ばれるようになっていた。
竜が寿命で死亡するのは珍しい。だが、この竜は今寿命で死のうとしている。竜には寿命を縮めた理由に心当たりはあるが、それに後悔はしていなかった。
「そろそろか⋯⋯竜にしては濃い生だったな⋯⋯あいつと出会ってからは⋯⋯」
竜はそう呟くと、大切な記憶を呼び起こすようにゆっくりと瞼を閉じた。
◇◆◇◆◇
──ルイン帝国リメント村──
太陽が丁度真上に登る頃、山に囲まれた小さな村である『リメント村』で1人の幼い少女が歩いていた。
その少女は、いかにも村人ですというような茶色い布製の服を着ていたが、その所々は汚れていて、泥が付いている。よく見れば、服の間から除く白く細い手足や、顔にも泥や傷、痣といったものがあった。
これは彼女が遊んで付けたわけではない。村の他の子供から付けられたものだ。
だが、彼女はそれをあまり気にしていなかった。いや、気にしてはいるのだが、自分が傷つけられることに関して気にしている訳では無い。
そんな彼女は今村の外にある川へ向かっていた。全身の傷などを洗うためだ。別に村の中にある井戸で洗えばいいのだが、それは訳あってダメだ。
しばし移動してその少女は川に着く。そして、川を覗き込む。そこには、洗えばさぞ綺麗だろう黒髪の髪と、明るい青色の瞳を持った白く線の細い、だが今は痣だらけの少女が映った。彼女は痣を確認すると丁寧に洗っていく。無論、全部が消えるわけではない。当然、傷は残る。だが少女からしてみれば、"苛められている"とさえ思われなければいい。大事なあの人が自分を心配しなければいいだけなのだ。
そして、30分程洗い続け太陽が少し傾き始めた頃彼女は自分の家のある村へ戻って行った。
少女は村へ着くと自分の家には戻らず、これまた村外れにある少し古い家へ向かった。
少女は家に着くとドアをノックし、
「ルゥおばあさん、お邪魔します」
と言うとドアを開けて家に入った。
家の中は、一言で言うと図書館だった。見渡す限りの本、本、本だ。
本棚に入らないものは床にも置いてある。
少女は家の様子に特段驚く様子もなく、器用に床に散らばった本を避けて奥へ進んでいく。
すると、本棚の奥にあるカウンターの様な机に本をいくつか重ね、その側で椅子に腰掛けながら本を読んでいる老齢の女性がいた。その女性は、少女に気がつくと、
「おや、今日も来たのかい?勉強熱心だねぇ⋯⋯読みたい本をお読み」
と言うとすぐに読書に戻った。
少女は頷くと、本棚からいくつか本を取り女性の隣にあった椅子に腰掛け、本を読み始めた。
暫くの間、家には本を捲る"ペラッ"という音だけが響いた。そんな状態が数時間たった頃、少女が二冊目の本を読み終えた位の頃老齢の女性が言った。
「また、医学書かい。医者にでもなるつもりかい?」
少女は答えない。
ただ、本を静かに置き何か思案するかのような表情を作った後こう言った。
「分からない⋯⋯そろそろ帰ります。また明日来ます」
その後、少女は本を本棚に返し、家を出た。
家の外は赤かった。太陽が沈みかけている。思っていたより長くあの家にいたようだ。少女は静かに、しかし急ぐように自分の家に帰った。少女の家は先ほどいた家のすぐ近くにあった。つまり、村の外れだ。すぐに家に辿り着くと少女はドアを開けた。
「ただいま」
家の中には忙しそうに動き回っている少女に非常に似た優しそうな女性がいた。女性は少女は気づくと、
「あら、おかえりなさい。今日はどうだった?」
と言った。
少女はその質問に対しこう返した。
「うん、今日もたくさん遊んだよ。」
「そう、良かったわ。お母さん、あんまり構ってあげられなくてごめんね?」
少女の母親は少女の返答に嬉しそうにし、その後申し訳なさそうに目を伏せた。
「大丈夫。」
少女はそう言い笑った。その笑みには純粋な喜びの他に色々なな感情が混ざっていたが。
「そう。じゃ、夕飯食べよっか。」
「うん。」
その後、夕飯を二人で食べた親子は共にお風呂に入り、床についた。
その夜、少女は夢を見た。酷い悪夢を。
そして、それは今後の彼女の運命を左右する、とても大事な夢であった。だが、夢とは忘れるモノ。例え、覚えていたとしてもそれは確定した未来なのかもしれない───。
これは、とある悲痛な運命を辿った少女の約束の物語。
プロローグという感じではありませんね。
前書きはとある言葉を、後書きは基本書かない方向でいきます。
6/24 主人公の髪の色を変更