独り言~冬の姫~
「……お姉さまたちなんて、大嫌い……」
薄暗い塔の中で、冬の姫・ミアは呟いた。
塔の制御室、つまりは四姫たちの『仕事場』である。ここからは『外』──人間たちの『世界』が見える。
大きな画面に映る人間たちの様子など気に留める様子もなく、ミアは自らの雪のように白いドレスに顔を俯けていた。
膝を抱えて、ドレスと同じくらいに白い腕の中に埋もれたミアの表情を窺い知ることはできない。
しかし、そんなミアの様子に対して、あまりにも無遠慮な言葉が『外』では飛び交っている。
「はあ、冬はやっぱり寒いねー」
「寒いよねー、確かに」
「霜焼けとかするし。寒いから冬嫌い」
「あー、怠い。今年も冬が来てしまったかー」
「ちょっと、こたつ出すから手伝って」
「えー、めんどー。つか冬って動く気起きないわー」
「もうっ、冬になるとあんただらしなくなるから嫌だわ」
ちくり、ちくり。
言葉の棘が小さくミアを刺していく。
どんなに小さくとも、棘は棘なわけで。
刺されば痛いわけで。
むしろ、小さいほどその痛みが際立ってしまう。小さいけれど、痛みがいちいちここにあるよ、と主張してくるから。
「わー、冬とかいらねーわ。早く春来ねーかな」
「えー? あたしは夏が好き!」
「や、夏からちょっと落ち着いた秋の方がいいだろ」
たくさんの声の中に『冬』を好きと言ってくれる存在はなかった。
ミアは孤独だった。
でもまあ、塔にいる間はいつも一人だ。
だから、こんなの慣れっこだ。
弱音を吐いてたまるか。
そんな抑え込んでいたミアの感情に姉たちは誰一人として気づいていなかった。故に、ミアは八つ当たりしてしまったのだ。
八つ当たりをしたことを、少し後悔している。姉たちには理不尽な当たり方をしてしまったように思う。
けれど、答えが欲しかった。
『冬の姫』の自分が──季節として冬が存在しなければならない理由が。
ちゃんとした理由がなければ、立てない気がした。生きていけないような気がした。
生きていてはいけないような、気がした……
「季節は、どうして巡るのですか?」
ゆらりとミアの長い黒髪が揺れる。
誰にともなく問いかけたその声に、ミアの求める答えをくれた者は、いない。
最も聡明な姉・ナミですら、ただ理屈を並べるだけで、答えはくれなかった。他の姉二人も。
それなら、自分たちには、特に自分には、存在意義などないのではないか?
人間から、疎まれ、嫌われ、ただ『季節』としてあるだけの存在。
「……そんな私なんて、いらないじゃない……っ」
けれど、前の季節の秋を管理する姉のナミは、ミアにまた季節の変わりを託した。
ミアは塔に行きたくなどなかった。またあの「冬は嫌い」という声を聞かねばならなくなるから。
でも……
冬が悪だと、ミアは断じたくなかった。自分の管理する季節だから。
故に、姉たちに論破された箇所を注意しながら、長い長い冬を作ることに決めた。
誰も死ななければきっと、冬は存在してもいい。
そんな根拠のない論理にしがみついて、ミアは塔に閉じ籠った。