四姫~四人のお姫様~
九JACK久々に復活。
よぉし、2016には参加できなかったから、2017には参加するぞ、と思ったら、冬童話2017はガラケーから参加できない、だと……!?
ならば、ガラケー民のためにいざ立たん!
『柄冬童話2017』始動!!
どうしてこうなってしまったのだろう?
秋の姫の名に違わぬ深紅の髪を揺らし、頭を抱える妙齢の女性がいた。
秋の姫、名前はナミという。彼女には三人の姉妹がいた。姉妹といっても、年齢という概念は彼女らには存在しない。だが、ナミはほんわりした不思議っ子の春の姫アルよりも、天真爛漫な元気っ子ルナよりも──そして現在進行形で彼女の悩みの種となっている冬の姫、ミアよりも姉御肌ではあった。しっかり者の長女、といった感じだ。
故に、彼女は悩んでいた。
今は雪で覆われ、白く輝く塔に、ひきこもってしまった冬の姫、ミアをどうすればよいのか、と。
春の姫アル。
夏の姫ルナ。
秋の姫ナミ。
冬の姫ミア。
彼女らは少し特別な存在だった。
肩書きにあるとおり、四つの季節を司る、『四姫』と呼ばれる特別な姫君なのだ。
四姫は担当の時期が廻ってくると、人々の世界を管理する塔に入れ替わり立ち替わりで入り、人々の世界の季節を変える。それが彼女らの役目だ。
しかし、今、大きな問題が起こっていた。
冬の姫ミアが、塔にひきこもって出て来なくなったのだ。
冬の姫がずっと塔にいるため、人々の世界は長い長い冬が続いている。
寒さに苦しむ者もいる。作物が育たず、飢えに苦しむ者もいる。動物たちは凍え続けている。
それは問題だった。大問題だ。
塔の中にいるミアだって、世界を管理する立場の者だ。生きとし生ける者たちが死すことが、どれほど大変なことなのか、理解しているはずだ。
それなのに、ミアは言うのだ?
「何故世界はずっと冬ではいけないの?」
生きる者たちに不便な季節だからだ、とナミは答えた。しかし、ミアはそれに納得しなかった。
「生きる者たちに不便な季節なら、何故冬はあるのです? 冬でも人は生きるでしょう? ある場所ではこたつなんて温かなものでぬくぬくとし、動物は賢く眠ったり、前の季節までに溜めていた食糧で暮らす。みんながみんな、生きていけないわけではないわ。それならどうしてずっと冬ではいけないの?」
「冬が過ぎなければ、人々は作物を得ることができません。無論、動物も。そして、冬は寒い。みんながみんな、こたつを持っているわけではありません。みんながみんな、温かい暮らしをしているわけではありません。不自由な暮らしをしています。だから、春を待っているのです。
夏にしたって、秋にしたって、他の季節がなければ生きるものたちに実りをもたらすことはできません。
故に、世界は冬だけではいけないのですよ」
理路整然と、ナミはミアに説いた。するとミアは。
「お姉さまなんて大嫌い!!」
と、塔にひきこもってしまった。
ナミは戸惑うしかなかった。自分が口にしたことは正しい。ミアが事実を求めていると思ったから正しい答えを与えたというのに。
ひきこもった上に「お姉さまなんて大嫌い!!」とは。わけがわからない。
無論、他の姉妹、春の姫アルと夏の姫ルナもミアの説得を試みたのだが……
「ねぇねぇ、ミアちゃん。塔の中でずっとお仕事って大変じゃなぁい?」
「仕事なんてないですよ、アルお姉さま。私たちはいるだけで季節をもたらせるんですから」
「でも、塔にこもってたら、他の子たちと自由にお喋りできないよ? 寂しくなぁい?」
「……アルお姉さまも大嫌い」
とか、
「おいおい、何をウジウジ悩んでるんだよ、ミア? こもるよりみんなと一緒にいた方が楽しくていいぞ?」
「ルナお姉さまは能天気でいいですね。私の気持ちもわからないくせに」
「そりゃだって、ミアが話してくんないんだもん。わかりっこないさ」
「大っ嫌いっ!!」
……とか。
物の見事に姉妹全員で全滅してしまい、途方に暮れていた。
そう、冬の姫ミアは、丁寧な語調で四姫の妹みたいな位置だが。
それゆえか、姉妹の中で一番捉えがたく、頑固なのだった。
終わらない冬が訪れても、人々は気づいていないようだった。
堅物なところのあるミアだが、四姫の仕事に関しては最も腕が立ち、姉妹の中でも長女的存在であるナミよりも頭が回る。こもりながらもただただ冬を『続ける』のではなく、生き物たちが不自由しないよう、『廻らせ』ているのだろう。
普通は三月ほどで変わる塔の管理をミアは半年ほど続けていたが、凍死や餓死などといった、『冬』が原因で命を落としそうな死因で天に召された生き物はなかった。
つまり、このままミアに任せっきりにしてしまっても、何も問題はないのではないか?
──なんて考えがナミの脳裏をよぎった。慌ててナミは首を横にぶんぶんと振る。いけない、いけない。四季の管理は四姫四人でするもの。ミア一人に押し付けてしまってはいけないのだ。
でも、なんで?
ふと、疑問が頭をよぎる。
ナミは四姫の中で一番ものを知っている。だが、疑問を持ったのは初めてだった。
だって、誰かが『世界はこういうもの』と教えたのだから、決めたのだから。
「……は?」
自分の思考にぐるぐると疑問が渦巻く。
誰かって誰だ。誰が世界をこうだって決めたんだ? この知識は誰が自分に与えたもの?
考えるうち、ナミは混乱した。振り返ってみると、彼女は定められたことに唯々諾々と従うだけで、その意味や理由など、全く省みたことがなかったのだ。
何故? どうして?
ぐるぐる渦巻く疑問に、ナミは答えられない。袋小路にはまってしまった。
ただ一つ、確かに思ったことがあった。
ミアも、何故? どうして? と無数の疑問を胸中に抱いていたのだ。それに対して、自分はちゃんと『答え』ていられたか? ──否、だ。
自分ですらわからないことを答えるなんてできようはずもない。
なるほど、ここまでくると、ミアの癇癪も得心がいく。欲しい答えではないのに、意見ばかりを押し付けられては、堪ったものではない。
ならば、今度こそきちんと『答え』を示してやらねばなるまい、とナミは考えた。
しかし、一人ではその『答え』は到底思いつかない。それはここまでぐるぐる一人で思い悩んでいたのだから、理解していた。
故に、ナミは他の姉妹、アルとルナを呼び出し、話し合いをした。
「と、考えたんだ。アル、ルナ、ミアはどんな『答え』を求めていると思う?」
「えーっと……ごめん。難しいお話で、アルにはちょっとわからないかな」
「ナミ姉すごいな! 俺全然わかんなかったぞ? ミアに『大嫌い』って言われたことばかりで頭がいっぱいで」
ご覧の通り、芳しい答えは得られなかった。
けれど、ルナの言葉の後半にナミは反応した。
「そういえばみんな、ミアに『大嫌い』と言われたのだよな」
「そういえばそうだったね〜。ちょっとショックすぎて忘れちゃってたかも〜」
「それは酷くないか? アル姉。……でも、みんながみんな、『大嫌い』って言われてるんじゃ、まず話を聞いてもらえないかもしれないよなぁ」
それはそれで大問題だ。問題解決以前の問題だ。
「参ったな……」
「ミアちゃんとは仲良くお話ししたいだけなのにな〜。聞いてくれないなんて寂しい」
まだミアが聞く耳を持たないと決まったわけではないが、三人の間には重い空気が落ちる。
こんな空気がどうにも好かないルナが数度口をパクパクさせながら考え……それから「あっ」と一つ手を突いた。
「どうした? 何か案でもあるのか?」
ナミが水を差し向けると、ルナはうんうんと頷いてその『案』を口にした。
「俺たちで聞いてくれないんだったら、『世界』の人間たちに手伝ってもらったらいいんじゃないの?」
ナミとアルはしばしきょとんと目を丸くしていたが、二人声を揃えて「それだぁっ!!」と喜んだ。
しかしそれも束の間、ナミはすぐ顰めっ面に戻る。
「だが、人間たちに、どうやってこれを説明する?」
「「あ……」」
確かに、それも問題だった。
四姫たちと人間とでは、存在の概念が少し違う。管理する側とされる側。大きな思考の隔たりがあるのだ。
人間的にわかりやすく言うのなら、四姫たちは、神様みたいなものだ。神様の悩みを、果たして人間が解決できるだろうか? そもそも人間がこの悩みを理解してくれるだろうか?
三人でぐるぐると考えたが、埒が明かず、
「とにかく、人間に聞いてみよう」
半ば破れかぶれでナミはおふれを出すことにした。