1-3越河15時06分
「まもなく、越河。越河。」
ちょうど第4話を見終えたところで、車掌の声が車内に響いた。たしか、越川から宮城県にはいるはずだ。県境を越えるのは実に去年の夏休み以来である。そして、相変わらず彼女は僕の目の前でスマートフォンを眺めている。彼女も目的地は仙台なのだろうか。無意味な想像をしても意味がないなと思い、彼女から目をそらしたその瞬間。
「痛っ……痛い!」
彼女が突然声をあげた。やはり彼女はどこか具合が悪かったのだろう。少し遠くにいるわずかな乗客も彼女に視線を浴びせたが、すぐに目をそらす。やはり先ほど僕が声をかけたのは正しかったのではないか。もう一度声をかけよう。僕はイヤホンを外して立ち上がり、彼女に声をかけた。
「大丈夫ですか。」
「だ、大丈夫です。」
しかしやはりどう見ても大丈夫ではない。
「やっぱり病院へ行ったほうが……」
「大丈夫です……あの、病院には行けないんです。」
病院に行けない?行けないとはどういう意味だろうか。妙に引っ掛かりを感じる。金銭的な理由か?
「あの、どこか、目が痛いんですか?」
「えっと……あっ……」
彼女はぼく何かに気づくと
「そうです。目が痛いんですけど、病院に理由があって……」
そして続けて、
「あの、もしかして郡山西高校の方ですか?」
確かに僕は私立郡山西高校の3年生だ。何故わかった?とおそらく面食らった顔をしたのだろう。彼女は微笑んで、
「西高のシール貼ってありますよ。」
大きめの青い長方形のシールに学校名と校章が描かれていた。僕は図らずも、修学旅行の帰路では飽き足らず、夏休みに好きでする旅行の往路においても学校名の宣伝をしていたようだ。剥がそう剥がそうと思っていたのに何故忘れてしまったのだろうか。恥ずかしい。恥ずかしいので口がよく回る。
「あはは。なんでだろう、ずっと剥がさなかったのかな。ということはきみも西高?偶然だなぁ。僕は仙台に行くのだけれど、君も仙台に行くの?」
混乱に「饒じて」取り乱している僕に彼女は
「そうです、私も西高なんです。あと、私もこれから仙台に行きます。偶然ですね。」
と、また微笑みかけた。
「もう痛みは引きましたか?」
「はい、だいぶ。」
「それは良かったです。一応病院に行ったほうが良いと思いますが、なにか事情があるみたいですね。」
すると困ったように、
「あるにはあるのですが、信じてもらえるかどうか……」
その濁された言葉に、僕はまた妙な引っ掛かりを感じた。
「オカルト的な話ですか?僕はそういうの話は嫌いではないので信じるかもしれないですよ。」
「いえ、オカルトとは少し違いますね。もう少し科学的というか。」
科学的?科学的なら誰も簡単に信じそうだが……科学らしい用語を並べれば、人は簡単に電子レンジの危険性や水素水の効用も信じてしまうものだと思っていた。
「少し話を伺っても良いですか?」
僕はアニメより奇なる現実の話を期待したのだ。