月と宴と団欒と
・・・思ったより遅くなっちゃいましたすみません。
今回の話は色々ツッコミ所があるかと。気にしたら負けです。
ちなみに主人公はツッコミよりボケ(たい)派です。(笑)
旧暦で表すと長月で、その中でも今日はスーパームーンなのだとか。つまり大きくて綺麗。
故に月見日和。
そんな訳で本日用意するのは団子に、芒と、月見酒。
え?酒は駄目だろって?
まぁ確かに前も今も未成年だから呑めないけど。でもおじぃが張り切ってお高い日本酒準備してたから、つい。
けどまぁうん、未成年者は仕方ないから団子でも食べてればいいんじゃないかな。
今作ってるし。
てか学校行事で月見とかなんか地味でない?
まぁ楽っちゃあ楽だからいいんだけど。
そんな訳で団子を作ってる。といってもテキトーに千切って丸めるだけだけど。
悲しきかな、こんな単純作業ですら例の如く二人ペアなんだぜ。
淡々と、黙々と、千切っては丸め、千切っては丸める。
他の班は和気藹々と楽しそうに喋りながら丸めてるが、仮にも口に入る物なのだから自重するべきだと思うんだ。
はしゃぎすぎて打ち粉が舞ってるし。
「2、4、6、8・・・っと。よし、15個完成」
「終わったか?」
「おう。そっちは?」
「・・・ん。これで終わり」
最後の1個が完成したらしく、これで後は積み上げるだけなのだが・・・
「・・・どうする?」
「・・・微妙な量だよな」
「んー・・・5個分くらい?」
「・・・二分するか」
「無難だね」
揉めることもなく打ち粉を手につけ残った塊を半分にする。
そしてまた千切って丸める作業を二回、残りを丸めること一回。計3個の団子が完成。
一回り小さめな3個。
どうしたものか。
一応作ったものは持ち帰るのだが、我が家は3人暮らしだから月見用の団子だけでも1人5個で、追加でさらに1個だとふつうにお腹いっぱいだ。
まぁ今日に限ってはそんな心配しなくていいんだけど。
「おい!お前とりすぎだろ!15個作れねーじゃんか!」
「おれもう作ったもんねー!」
「はぁ!?よこせよバカ!」
「何すんだよ!」
「お前がいっぱいとるのがわるいんだろ!?」
「きゃ!」
「うわっ!」
ガタガタッガシャン!
そんな音を立て、騒がしかった家庭科室は静まりかえった。
まぁ、何があったかなんて説明するまでもなく非常にわかり易いのがこの年頃。
一言でまとめると、なんだろうか。
お約束?テンプレ?むしろコレ含めて形式美?
・・・まぁいいか。
盛大に打ち粉が舞った床に、転がった2個の団子、空のボウル、そして真っ白になってしまった女の子。
うん、そこの男子2人は土下座するべきだと思う。
慌てて先生が駆け寄ってくるけどさ、アレだ。
一足遅い。
え?何がって?
そりゃあ、ねぇ・・・
「ふっ・・うぇっ・・・ひっく」
この子、すぐ泣いちゃうんだよね・・・
気弱で自己主張があまり得意でない女の子が、男子にぶつかられ、あまつさえ打ち粉の入ったボウルを掛けてられてしまい、更に団子まで落としてしまった。
突然そんなことになってしまった女の子は一気にキャパオーバーになってしまいました、と。
まぁ、完全に男子が悪いのだけど。
つか罪を擦り付けあってんじゃねーよバカ2人。
面倒臭い。
ハァ、と思わずこぼれた溜息が重なった。
隣から聞こえたので考えるまでもなく葛城翔のものなのだが、まぁ多分似たような心情だと思われる。
巻き込まれたくない、面倒臭い、五月蝿い、アホ臭い、関わりたくない・・・etc.
まぁそんな感じだ。
チラリと視線を向けると目があった。
そしてなんとなく伝わる同じ気怠い雰囲気。
うん、以心伝心?
まぁ、わたしがモデルなんだから思考回路が似てて当然なんだけど。
頭の片隅でひとりごちて、視線を反らすように多少落ち着いた惨状に目を向ける。
不貞腐れたような男子二人と必死に泣き止もうと頑張る女子と慰めつつ男子を威嚇する女子二人。
の間に立ち場を納める先生。
うーん、と、修羅場?
「啓太君も一気君もわざとじゃないのは先生もわかるの。でもね、ぶつかって粉がついちゃって、由美ちゃんびっくりしたのは分かってくれる?」
「・・・・・うん」
「・・・わかる」
「じゃあ、驚かせてごめんねって、ぶつかってごめんね、って出来るかな?」
「・・・ん」
「・・・・・・うん」
不服そうに頷く二人を冷めた目で見ている女子が二人。泣いてる由美ちゃんとは幼馴染という関係らしいので、まぁ致し方ない。
男子に合掌。
クラスの女子からは当分風当たりが強くなるだろう、ツヨクイキロ。
そんなこんなでやっと事態は収集をつけるかと思いきや、問題が一つ浮上。
団子が足りない。
授業も終わりに近いこの時間、ほぼ全員出来上がっているのと、余ったものを既に食べていたりとあって、残ったものがないそうだ。
先生、計画性ない餓鬼を甘くみちゃダメだって。
ちなみに必要な数は6個。
啓太は足りなかった4個、由美ちゃんは落とした分の2個。
・・・うん、やっぱ土下座するべきだと思う。
しかも男子達の団子のデカいことデカいこと・・・
もうさ、なんてゆーかアホ臭い。
でもどうにかしないと終わらない雰囲気。
あぁ、面倒臭い。
チラリと隣を見れば再びかち合う視線。
ついでに無言で頷き合って意志疎通。
互いの手には小さめな団子が3個づつ。
一つ押し付けて手持ちを2つにしてから未だ涙目な由美ちゃんに近付く、と後ろの二人に睨まれた。解せぬ。
けどまぁスルーさせてもらおう。
「あげる」
「ふぇ?」
キョトンと目を瞬かせる由美ちゃん、と女子二人。と、先生。
何、そんなに意外か。
「小さいけどこれでいいならあげる」
「あ、ありがと・・・」
「どういたしまして。後、目は擦らない方がいい。粉だらけだし、なにより腫れると可愛い顔が台無しだ。コレで冷やすといい」
「っ、え、あ・・・」
濡らしたハンカチを押し付けて撤退。
驚いてポカーンってしてた先生と二人の反応がヤバかった。
我慢しなかったら吹いてた。
若干フェミニストっぽい行動だったかなと思いつつ反省はしない。
私は泣いてる子に優しく出来てるからね。
席に戻りつつチラリと観察対象を盗み見ると、男子二人からキラキラした視線を送られていた。
え、何があった。
気になるけどまぁいいか、早く授業よ終われ。
帰りたい。
溜息を一つ吐いて席に座る。
後は団子を詰めるだけなので押し潰さないように気をつけて作業する。
持ち帰って飾ったらそのまま胃の中に入るので、丁寧に扱う。
なんてったって自分の口に入るものだしね。
衛生面は大事。食中毒は怖い。
そんなこんなで授業は終わり、包んだ団子を持ち帰る。
ちなみに・・・というか今更ながら帰り道は同じ通学路を使う葛城翔が一緒である。まぁだからといって春からこの秋にかけて会話は一切ないがな。
いつも通り黙々と歩いて帰るその道すがら、結構なスピードを出した赤のスポーツカーが視界に入ったので止まる。
ブルルルルンッと排気音を奏でて横切った。
と、思えばキキーッと高音を掻き鳴らし急停車。
思わず固まる私と葛城翔。
共に風圧で髪がボサボサなのは致し方ない。
通りすぎた分だけゆっくりバッグしてくるスポーツカーは、目の前で止まるとスモークがかかったウィンドウが開いた。
そこに居たのは、白スーツを身に纏った葛城母。
「丁度良かったわ。翔、お母さん急な仕事入っちゃったから留守番お願いね」
「・・・今日親父も姉さんも居ないんだけど、飯は?」
「あ・・・」
瞬時にしまった、と言う表情の葛城母。
だがしかし問題は解決しない。
育ち盛りの子供にとって御飯は重要である。一食でもないと、そりゃあもう辛い。
まぁ、何はどうであれ葛城母は必死に葛城翔が作れそうな献立を考えている模様。
ぶつぶつとお粥だのチ○ンラーメンだのスクランブルエッグだの聞こえるが、それが晩御飯と言うのは虚しいだろう。
なによりもまぁ、急な仕事が何なのかは予想がつくし、子供の食事事情が疎かになるのは頂けない。
ついでに個人的興味もなきにしもあらず。
という訳で、
「ウチ来ます?」
「え?」
「は?」
「だから、私の家で晩御飯食べてきます?」
キョトンとした美形×2にもう一度少し詳しく言えば素晴らしい笑顔と訝しんだ表情に別れた。
ちなみに笑顔が葛城母で子供らしからぬ表情なのが葛城翔だ。
「まぁ。穂澄ちゃん、いいの?」
「元々今日親戚が来るので、料理は多めに作ってるハズですし。それでも良かったら・・・」
「あらそうなの?でも、だったら翔が居たら邪魔にならない?」
「月を肴に呑んだくれる大人達の相手はしたくないので丁度いいかと。まぁ一つ下の子も居るんですけどね」
「あらあら・・・じゃあ穂澄ちゃん、お願いしてもいいかしら」
「はい、大丈夫です」
「そう、ありがとうね。また今度お礼させて頂くわ。翔、粗相の無いようにね。仕事終わったら迎え行くから」
じゃあ忙いでるから、行くわね。と言ってウィンドウを閉じながら発車していったスポーツカーを見送る。
アクセル全開なのか5秒もせずに消えた恐ろしさよ。よくあのスピードで曲がれたな、おい。
「てな訳だけど、ランドセルどうする?」
「あー・・・鍵もってないからこのままだな」
「・・・そ。じゃあ行くか」
「・・・おう」
互いに気付いてしまった事は同じだろう。
それ故に、申し訳なさ気な雰囲気が隣から醸し出されている。
間違いなく、私が提案しなけれはご飯どころか家にも入れなかったのだから。
つか、なんで鍵持ってないの。
忘れたの?お母さん居るから持って無かったの??
まぁいいけどさ。
で。
「どうかしたの?」
「・・・いや、なんでもない」
「そ。ただいまー」
「・・・・・お邪魔します」
門構えの所で立ち尽くされたので振り返って進むように催促して玄関をあける。
見慣れぬ靴が5足あるので親戚達はもう来ているらしい。
きちんと靴を揃えるのを視界に入れ、やはりきちんと行儀作法が躾られているなと感心。
とりあえずランドセルは玄関放置でいいとして、だ。
「台所行くからついてきて」
「台所?」
「団子と手」
「あぁ、わかった」
いつもは洗面所で済ますけど、今日は団子があるので冷蔵庫にしまいつつ手を洗える場所にした。
すぐに理解してくれるから楽である。
トントンと一定のリズムを刻むその場所には、ここの主人であるおばぁの姿ともう二人。
足音に気付いたのかゆっくりと振り向くその所作は身に付いていて綺麗だと思う。
「あら穂澄ちゃんお帰りなさい。そちらはお友だち?」
「おばぁただいま。これ葛城翔って言うんだけど、今日家に誰も居ないって言うから連れてきた。晩御飯一人増えても問題ない?あ、夜に迎え来るって」
「・・・葛城翔です。今日は突然お邪魔してすみません」
「あらあら丁寧な子ねぇ。いいのよ、今日はちょっとした宴会みたいなものだから、一人くらい増えても楽しくなるだけよ。ふふふ。こんなおばあさんが作る料理だけど食べていってちょうだい」
にこにこと朗らかに笑うおばぁに言いたい。
貴女の料理はプロ並なのだ、と。
まぁ言わないけど。毎日食べれる私は勝ち組!と叫びたいけど。
ただの自慢ですがなにか?
「雪江さん、真弓おばさん、お久し振りです。お元気そうで良かったです」
「ふふふ。ありがとうね穂澄ちゃん。今ここ空けるから、手洗ってね。翔くんも、どうぞ」
「久しぶりね穂澄ちゃん、今日はお邪魔するわね。翔くんも今日は楽しんでいってね」
「はい、ありがとうございます」
「あ、そうだ雪江さん。これ今日作った月見団子なんだけど、後で食べましょ」
「あらまぁ、楽しみねぇ」
ふふふと上品に笑う美人なお婆さま。
血は繋がってないが、親戚の一人である。
良く遊びに来てくれるので親戚だと知って驚いた。気兼ねなく会話出来る大好きな人でもある。
・・・この人の旦那さんを知ったのはつい最近のことだけど、知りたく無かったなぁ、って今でも思う。
そしてその隣に居らっしゃる癒し系な真弓おばさん。
血縁的には5親等にあたる人。ちなみにオーダーメイドの家具会社を経営している敏腕社長です。
家柄的にご令嬢なのでこの人の所作も綺麗。
手洗いうがいを済まして冷蔵庫に団子を投入。二人分なのでちょっと場所取っているけど後で減るから問題ない。
さて。
「こっち」
「・・・おう」
キョロキョロする葛城翔をひっつかみ、連行。
行先は縁側だ。
多分、そこに残りの人がいるから。
角を2回曲がり、居間の横を通りすぎ、客間を開いて横断。若干戸惑いながらも掴んでるので逃げれない葛城翔を一旦解放。
そして、閉じられてた障子を開けば目に優しい緑の庭。
突然開いた障子に必然的に視線が集まる。
「あ、穂澄ちゃん!お帰りなさい!」
「お帰りなさい、穂澄ちゃん。久しぶりだね」
「涼介、久しぶり。圭一おじさんもお久し振りです」
「おや穂澄ちゃんお帰りなさい。ひさしぶりだね、お邪魔しているよ。今日はよろしくね」
「お久しぶりです龍平さん、先日は慌ただしくしてしまいすみません。今日は楽しんでいって下さい」
怒涛の挨拶3連続をペコリと一礼して閉める。そうでもしないとずっと話しが終わらないからね。
顔をあげた先にいるのは縁側に腰かけ囲碁を打つおじぃと榊龍平、中庭で鯉を眺めてたらしい榊涼介とその父親の榊圭一だ。
これが親戚、である。
実は榊龍平とおばぁは兄妹で、それはまぁ仲良く育ったらしい。
ちなみに榊龍平、おばぁ、おじぃは幼馴染みなのだとか。
そして言うまでもなく、雪江さんの旦那さんが榊龍平である。
くっ・・・知りたくなかった。
ちなみに"先日"とはまぁ、言うまでもなく夏休みの画廊での一件。
あれの3日後に榊涼介とその両親である真弓おばさんと圭一おじさんが来て、まぁ、いろいろお話しした結果というか過程で親戚と知ったのだ・・・
あの時、親戚と知った私の心境は相当荒ぶってた。顔には出してないがな!
閑話休題。
かくしてゲーム開始前にて攻略キャラ同士が邂逅した訳ですよ。
いや、させたが正しいんだけどさ。
じぃ、とこっちを観察するように・・・むしろ睨むように?見つめてくる榊涼介にはいったいどう反応すべきなのか。
そしてその視線をうけて睨み返している?葛城翔をどう紹介すべきか。
なんか、喧嘩でも起こりそうな雰囲気なんだけど、どうした?
「ねぇ、穂澄ちゃん。その人、だぁれ?」
若干かたく感じる声音で催促するのは榊涼介で、こてん、と首を傾げる姿は可愛らしいが、なんとなく警戒しているようにも見える。
思い返すに、榊涼介は人ごみの中震えて涙を溜めるような子で。
対して葛城翔は周りに興味が薄く話しかけられたらおざなりに答えるような奴。
・・・つまり、これはアレか。
初対面の目付き悪い相手に怯えてた、と?
何も喋らないけど見てくる相手を見つめ返してた、と?
なにこいつら面倒臭い。
「こちらクラスメイトの葛城翔です。今日は家に誰も居られず、晩御飯がないと言うので連れてきました」
「・・・葛城翔です。本日は突然の事で迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします」
おばぁにした説明をもう一度しただけなのに、葛城翔が驚いたような気がする。
表情は変わってなかったけど。
軽く一礼するのを視界に収め、次いで未だ威嚇している年下の少年をみやる。
視線は変わらず・・・
・・・いや、険しくなってる。
あー・・・と、うん。
仲良くする気はなさそうだね。
どうしたものか、と思ったが面倒臭いしスルーしよう。
会わせたらどうなるかとか思ったけどただ面倒臭くなるだけだったね。
スマン。
「ふむ、葛城翔君か。もしかしてファッションデザイナーの葛城香織さんの息子さんかね?」
「はい、そうです。母をご存知ですか?」
榊涼介を気にしてたらまさかの榊龍平が反応してちょっとびっくり。
まぁこの歳で知ってたらまぁビビるけどさ。
しかしながら隣で警戒MAXな雰囲気の葛城翔はいったいどうした?
まぁ確かにこんな腹黒狸じじいに親のこと知られてたら怖いけどさ、悪い人ではないよ?
安心・・・は出来ないけど。
「はっはっは。なに、よく香織さんにスーツをデザインしてもらっていてね。息子さんの話しも良く聞くからね。それに彼女のセンスは気に入っているんだよ」
「・・・ありがとうございます」
うわー何か企んでそうな笑顔だ・・・
頬が引き吊ったのは仕方ない。
そして何となく嫌な予感がする。
・・・そんな訳で、だ。
「涼介、そろそろ冷えてくるから中入ろう。そんな薄着じゃ風邪ひくぞ。おじぃと龍平さんも、縁側でなく居間で続きして下さい。圭一おじさんはどうします?」
「うーん、そうだねぇ・・・真弓とお義母さん達を手伝おうかな。そろそろいい時間だろうしね。涼介、穂澄ちゃん達に迷惑かけないようにね」
「・・・ん」
不服そうな榊涼介には悪いが何となく榊龍平と葛城翔を同じ空間に長居させてはいけない気がするんだ。
だから急ぎめで頼む。
中庭から縁側に上がった榊涼介と葛城翔を引き連れ向かうは茶室。
客間は今から料理とか並ぶから邪魔してはいけないという配慮である。
そうして非常に微妙な空気の中、非情にも仲良くなる気配が芽生えることもなく時間は過ぎた。
なにこれしんどい。
まさか夕食の時間になっても一転する気配は微塵もなく、異常に疲れてしまう羽目になるとは思わなかった。
もうお前ら、ほんと面倒臭い。
意気消沈な中、それでも面倒事というのはあるもので・・・
・・・実は今日、夕飯の時間だけ帰ってくるんだよね。あの人達。
会話以前に最後に会ったのが正月だったから、実に9ヵ月ぶりの対面だったりする。
それに比べれば、まぁ、うん。
耐えれなくもない気まずさではある。
日が暮れる6時半頃、見栄えだけは出来る人なスーツ姿の二人と対面。
・・・言葉が出ないってこういう時のことを言うんだろうね、何言えばいいのか全然浮かばないんだもん。
実の親子だと言うのに気まずすぎてどうしようもない。
顔を合わせてもなんか威圧感あるから怖いんだよなぁ。
うん。
やっぱり、これに比べたら葛城翔と榊涼介に挟まれてた方がまだマシ。
断然気が抜ける。
そんな訳で、夕飯の時はひたすら二人の橋渡し。
いつも通り美味しいご飯はいつもより豪華で、雪江さんや真弓おばさんの料理も美味しくて幸せだった。
やっぱご飯って大切だよね。
苛立ってた葛城翔も、不機嫌だった榊涼介も、何故かご飯の最中は平穏なものだったのが何よりも有り難かった。
客間から月見をしつつ豪華な夕飯を食べつつ、酒を呑む大人達を観察。
男組は空の酒瓶と空き缶がどんどん増えていっている。
女組はそれに比べれば平穏だが、ゆっくりではあるものの飲むペースは変わらない。
吸飲力の変わらない唯一つの胃袋。
ただし酒限定で。
そんなフレーズが浮かんだ。
ちなみにだが、ザルとワクな爺組に付き合わされた圭一さんは見事に潰されていた。御臨終である。チーン。
あの人は顔色が若干赤くなってるけど意識も滑舌もはっきりしてるから、ザルなんだろうなぁ。なんて。
遠目で見つつ、視線を反らす。
手元にあるデザートとして用意された果物を毟って、口に放り投げる。
冷えたブドウが美味しい。
梨もあるのでそれも頂く。
「・・・なんてーか、あんな大人になりたくない」
「そうだな」
「・・・うん」
同じ心境なのか、微妙な顔の二人も何とも言えない空気の中、果物を摘まむ。
うん、梨も美味しい。
シャリシャリとした食感と、プチっとした食感を楽しみつつ、月を見上げる。
客間から見える月は、丸くて、大きくて、明るくて、綺麗で。
和やかなんて雰囲気はないし、心休まる空間でもないけど、でも、まぁ、うん。
こんな日も、悪くないかなぁ、なんて。
思った。
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9月▽日、晴れ
団子作りは丁寧に丸めていた。どれもほぼ同じ大きさだったのでやっぱり几帳面なのかも。
騒ぎ起こした男子達は帰る時までなんか尊敬した眼差しで見つめていた。
気付く気配なし。鈍いな。
赤のフェラーリに乗った葛城母の違和感の無さは凄かった。
鍵を持って無かったのは偶々らしく、普段は鍵っ子なのだとか。
なんで今日に限って忘れたのか本人が疑問符を浮かべてたのが印象的。ワロス。
ちなみにお姉さんが居ない為外食の予定だったそうな。ラーメン食べたかったみたいだけど葛城母がラーメン食べる姿が思い浮かばない。うーん?
・・・そーいや外食したことないな。まぁおばぁのご飯で全然これっぽっちも問題ないからいいんだけど。
純和風の赴きが珍しいのか、それとも門構えの上にある道場の看板が気になったのか固まった表情は面白かった。
にしても行儀作法は一体誰に教わったのかちょっと気になる。
和室のマナーを知ってる小学生って滅多に居ないと思うのだが、如何に。
涼介も知ってたし、攻略対象達のマナースキル高くない?
まぁ正座の姿勢とかも綺麗だったけどさ、たかだか遊ぶだけなのに張り合ってるみたいでなんか馬鹿馬鹿しかったので胡座で対抗。
二人共目を点にしてたのは笑えた。プギャー。
遊び道具といってもトランプしか無いんだけど、ババ抜きも真剣衰弱も7並べもあんなガチンコ勝負みたいな空気になるってどゆこと?
勝負したいお年頃なの?
最下位になりたくなかっただけなの?
よくわからん。
まぁ全部勝たせて貰ったがな!
敵対視と言うか涼介が一方的に噛みついてるだけっぽかったけど、翔はがテキトーな対応するから火に油。
大人げないなー。
夕食時にあの人達が来て迎えに行ってきた数分に何故かギスギスしてた雰囲気が緩和されてたが、一体何があったのか。
多分真弓おばさんと圭一おじさんが何か吹き込んだんだと思うけど、それでどうにかなったというのが謎。
くそ、気になる。
豪華な夕食に目を輝かせてた翔は珍しく年相応だった。
山菜ご飯を気に入ったようで持ち帰って良いとおばぁに言われた時は遠慮がちだったけど目は素直だった。
豚の大葉巻きとかほうれん草のお浸しとか、和食が気に入ったと思われる。
月見酒とか称してただの呑み会と化した大人達を見る目の冷たいこと冷たいこと・・・
二人の視線が絶対零度だった。おそろしや。
デザートの葡萄を黙々食べる涼介と、梨を淡々と食べる翔。好みが分かり易くて和んだ。
団子は晩御飯の前に飾って、勿論食べたけど、翔は食べなくても自分の作ったやつがあるのに何故二つも食べたのか。
涼介も対抗して食べてたけど、なんなんだ。
自分が作ったからと私も二つ食べたのだが、残りの二つを誰が食べたのか分からないホラー。
可哀想なモノを見る目をしてきた翔にとりあえずデコピンしたった。ふん。
葛城母が迎えに来て帰って行った際、榊龍平となんか黒オーラ撒き散らして会話してた。怖い。
震えたのは仕方ない。翔も涼介もガクブルしてた。
ちなみに榊家は本日お泊まりである。
それを知った翔が涼介を睨んでたのだが、ほんとなんなの。
朝御飯も食べたいの?
山菜ご飯食っとけ。
そして明日、山菜ご飯入れたタッパーを返すからってことで遊ぶことになった。
駄々をこねた涼介も一緒に。
土曜日なんだから寝かせて欲しいなーって意見を捩じ伏せられたので明日は全力で二人を振り回そうと思う。
・・・よくよく考えてみたら休日に遊ぶの初めだわ。
うん。
ちょっと楽しみ、かな。
以上。
知り合いの知り合い同士で仲良くない(?)二人の前に明かにギクシャク空気な親子が登場したらどうなるか。
こうなりました。
どんなフォローを入れたのかはまたいつか、書けたらいいなぁ・・・




