直前の様子
砂時計を返すだけ。ほかにはなにもない。
見つけるたびに手垢まみれで、自分のものなんてどこにも見当たらない。
人間を憎んでどうする。人間を諦めてどうする。お前だって人間だろうに。
世の中に居場所がなく、天に拒まれ、地下へかくれる度胸もない。
快楽を忌み嫌い、快楽に浸る自分を恥じる。くだらない。
自分を罪人のように思っていながら、罪人のような扱いを嫌う。
いったいお前は、何者なのだ。
夕暮れ時の踏切。そんなことを考えながら、すでに潰された虫のように線路にむかう。
誰かに呼びとめられた、悲鳴もきこえた。そんな気がした。