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10, 鮮血に白色

なんだか短くてすいません。次回頑張ります。

 ああ、そういえば、酷く滑稽で、それでいてどうしようもなく救いようの無い夢を見ていた気がする。

 無意味に人を殺して、無機質に笑って、無感情に泣いて、無為に帰す。

 私はその日始めて女の子の名前を知った。その血塗れの外見とは裏腹に、とても少女らしく可愛い名前だった。女の子は自分の名前を自慢するように、その時だけは本当に楽しそうだったように思える。

 目の前で誰か、怯えていた女の子がその子に殺されていた。顔面の肉を引きちぎられて、物凄い悲鳴が聞こえたかと思えば、その場は既に血だまりになっていた。それがどんな風になっていたのかは私にはもう表現することどころか、認識することすらままならなかったけれど、確か、赤かったと思う。

 あの子で何人目だったろうか。

 三日ほど前からこの大量殺戮が始まったように思える。それまでは、確かにあの子との仲が良かった人はここにはいなかったけれど、それでもこんな事態が起こるほどに悪いわけじゃなかったはずだ。

 ――彼女が狂気と邂逅したのは、ある日の川の流れの変化に問題があった。

 その日はいつもは緩急はあろうとも、洪水や干上がることなんてまずなかった川が初めて氾濫を起こした。堤防など最初から無かったかのように押し破り、一気に私たちの住む場所まで流れ込んできて、私たちの住処を破壊しつくしていった。その水の冷たさと言ったら形容の仕様が無いほどで、最初は皆凍える寒さに震えていたのだった。

 その洪水がきっかけか、その日の夜から、いや正確には早朝にかけてに一人の女の子がおかしくなり始めたのだ。感情などまるで無しに周りにいる子を次々と手にかける。その行動原理は呼吸と同義、行為自体に意味など無く、それをしなければ良くないからする。

 最初の被害者の末路を見たときは胃袋の中のものを全て吐いた。

 二番目の被害者の末路を見たときは嘔吐を抑えるのに必死だった。

 三番目の被害者の末路を見たときは頭痛とめまいを覚えた。

 四番目の被害者の末路を見たときは眉をひそめて嫌だなぁ、と軽い感想を漏らした。

 もう次からは、「またかぁ」と、自分の番がいずれ回って来ることにすら興味をなくし、ただ坦々と日々を過ごしていたのだった。

 ……そうして、私の番が回ってきた。

 無論言うまでも無いが、私は殺された。マニュアル通りといったところか、人体のあらゆる部分を犯されて死んだ。そこには何のモラルもない、ただただ猟奇的な殺人。

 閑話休題、彼女の殺人云々の問題など殺された私がどう解釈しようがもはやどうしようもない。問題は彼女が私の問いに対して、はっきりとした答えを提示したこと。今まで何を問うても「分からない」や、逆に「なんで?」という答えを返してきた彼女が、私の問いに答えたこと。


「あなた、お名前はなんていうの?」


 聞かれた彼女はすこぶる驚いた顔をして、その後笑って言った。


「――――」


 ああ、その時私は気付いたのだ。私は今ここで、この因果の鎖に縛り付けられた状態ではこの殺戮から逃れられることは出来ないのだと。彼女がその名前を持っている限り、因果の鎖が解かれることも無い。半永久的な因果応報。

『彼女にその名前を持たせた彼女が殺されるのは、当然の理』だった。

 だから黙って殺された。痛みに身を任して、なるがなるままの運命に命を委ねた。

 最後に見たものは何だったか。

 そうだ、どこからか白い手が伸びてきて、私の首を掴もうとしていた。けれども女の子は視線を向けもせずにそれを払い除けて、結局私を殺した。あれが助けの手だったのか、それともまた別な刺客だったのかは私の知るところではない。けれども、あれがもし前者だというのならば、早く他の子たちを助け出して欲しいと思う。半ばみんな諦観していると言えども、死にたくないの気持ちは無くなっていないはずだ。

 本当に下らない。地獄に下りた蜘蛛の糸を掴むかのようだが、それがなるべく強靭な糸であることを祈った。





―――





 白い腕は、その願いを受け入れない。

 元より彼女のほうこそ間違いなのだ。危害を及ぼす因子があるならば、それから周りのものを遠ざけるよりも、元凶を叩いてしまった方が良いに決まっている。ゴキブリが出たから人間が家を出るなど有り得ない話で、当然スプレーなどで殺虫するのがポピュラーであり当然のやり方であると同じことだ。

 だから白い腕は『彼女二人とも』を殺そうと腕を伸ばしたのだ。結果、失敗に終わったが、これで引き下がれるならば元よりこの場に姿を現していない、と自らを鼓舞する。

 

「一撃必殺のマグナムで断ち切れぬものならば、マシンガンを用意しろ。それで残り粕ごと全て葬り去ってあげよう」


 その鮮血の空間に、真っ白な腕が無数に侵食し始めたのは、その日の朝のことであった。

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