第一章 夜の宝石の王女 4
日が沈んで、周りが暗くなると、いよいよ祭りもたけなわになってきた。
人々は白熱し、火を囲んで踊り、そして飲み合い、語り合う。長年の友や、昨日まで全く知らなかった人と。
若者や老人、子供に至ってまでみな祭りに繰り出し、家に残っている者は殆どいないという感じである。子供は食べ物を食べる為、老人は飲みあうため、そして若者は恋は語り合うために、みな出てくるのだ。
出会い、契りを交わした恋人たち、この祭りにはそんな恋を求めて大勢人が来る。
王女に仕える侍女たちが祭りに出たがるのくは、このためであるらしい。
城から王女の周りを囲み、守っていた彼女たちだったが、街の中央広場までたどり着いた時には、半分になっていた。
皆、途中で若い男性に誘われたのだ。
王女も何人かの男に誘われかけたものの、周りを侍女たちががっちり護っているため、ついていくことはしなかった。
だか、侍女たちが誘われると快く送りだした。
一人一人といなくなるたび、心細くなりはしたが、皆が言うように王女だと見破る者はいなかったので、次第に気が大きくなっていた。
「そなたも行ってくるがいい」
王女を気づかってか、寄ってくる男の誘いを断っている一番年上の侍女に、王女はやさしく言った。
いつの間にか、彼女一人になっていた。
「この期を逃すと、いつまでも結婚できないかもしれないぞ?」
からかうように、王女は言う。
「で、でも………」
「私のことなら心配いらない。誰の誘いも受けないから。祭りをいろいろと見て回って、一人で城へ帰ることにする」
そめれでも渋る侍女を、誘いに来た男の方へ追いやると、王女は広場を離れた。
「やれやれ、やっと一人だ」
言い寄ってきた男を追いやって、王女は呟いた。
始めての祭り。始めての経験。何もかもが新鮮に思えた。
王女は改めてフードを深く被ると、人込みをかき分け進んだ。
長く同じ場にいると、正体がバレてしまう。
ここにくるまで、すでに何人かの人間が首を傾げ、怪訝そうに王女を見ていたのだ。
王女には目的があった。
――あの若い神官に会いに行こう。
侍女たちと城を抜け出す計画を立てた時に、密かにそう思っていたのだった。
おそらく、彼は祭りには出ていないだろう。
それに、今なら宿舎には殆ど人は居まい。
いる人といえば、神殿に仕えている人への面会人だけのようだ。
このヴァルメーダ神殿の戒律は甘く、神に仕える身でも結婚できるし、女性との交渉ももちろん許されている。
神殿の宿舎には二種類あり、一つは独身者用。もう一つは家族ぐるみで住めるようになっていた。
もちろん、宿舎に住まず、自分の家を持ち、そこから通ってくるものもある。
王女はかなり迷ったが、独身者用の宿舎へ向かった。
結婚しているとは思えなかった。
あんな風に、大抵の女性より優れた容貌を持つ、変わった男と一緒になろうという女が、いるとは到底思えない。
しかし、家族が居て、家から通ってきている、という可能性もないわけではなかった。
けれど、あのように高い位でいるからには、神殿に住まっている方の可能性がより高い。
宿舎へ来ると、王女は周りの面会人が全て女性であることに気づいた。
みな薄絹を纏い、着飾っている。
王女はああ、と思い当たり苦笑した。
舞姫――つまり、遊女だ。
懇意の神官を訪ねて来ているのだろう。
こんな日でないと、おおっぴらには来られない所だ。
――あの神官の元にも誰か来ているだろうか。
ふと王女は思った。
顔はよかったから、さぞかしモテることだろう。
だが――遊女、というか、女と彼とは結びつかない。
彼からは女の匂いがしない。
あれこれと考えていると、次々と女たちは門番に声を掛け、中に入っていき、残っているのは王女だけとなっていた。
門番が、躊躇している王女を、胡散臭そうに見ている。
王女は意を決すると、声を掛けた。
「申し訳ありませんが、エディアール様はいらっしゃいますか?」
門番はぎょっとして王女をまじまじと見た。
正体がバレたのだろうかと、ドキンとした王女だったが、しかしどうやらそうではないらしい。
「え、エディアール様……だって?」
と、門番が喘ぐように言ったからだった。
門番は王女を遊女だと思っている。つまり、遊女がエディアールを訪ねて来たことに驚いているのだ。
驚きながらも、彼は王女を上から下までじっと眺める。
だが残念なことに、王女の顔はフードの中に隠れていて見えない。
「あー、エディアール様は、奥院の小礼拝堂にいらっしゃると思います、はい」
「そう。ありがとう」
王女は門番への挨拶もそこそこに、奥の院へと続く小道を歩きだした。
「エディアール様ねぇ。もの好きな遊女もいたもんだ……」
見送る門番が、そうつぶやいたのを、王女は知らない。