プロローグ
ポロロン。
夜の酒場の喧騒の最中、一人の吟遊詩人の若者が、その竪琴の弦をひとかきならした。
細い指が軽く触れただけの弦は、しかし美しく確かな音を、辺りに響かせた。
ざわめきがぴたりと止む。
琴の音に勝るとも劣らずの美しさを持つ、その吟遊詩人の若者は、人々の意識を自分に向けさせることに成功してか、満足そうな笑みを浮かべた。青みがかった銀の髪と、深い青色の瞳を持つ青年が、その秀麗な顔を綻ばせただけで、その美しさに酒場の男たちはハッと息を飲んだ。
「皆様」
男が笑みを浮かべたまま、言う。
「酒の席の余興に、一つ私に物語を語らせていただけませんか?」
「おう、ぜひとも」
「語ってくれ、吟遊詩人」
「英雄の話か、それとも戦士が美しい姫を得る話 か?」
荒くれの男たちの口々の要望に、竪琴を手にした青年は、ますます笑みを深めた。
ポロロン。弦をかきならす。
「いいえ、皆様、これはある南の海に面した国の、美しい王女の話ですよ。
『ある国に、美しい王女がいた』
『その姫は、誰よりも美しく、誰よりも賢かった』
昔々の話です………」
ポロン……ポロン…………
昔書いた小説です。
気高く綺麗な王女様が書きたくて書きました。