婆ちゃんの笑顔浮かべる金木犀
「連休なんて、実際はあんまり要らないよなぁ。みんなが休んでる時に遊びに行ったら、混んでるし、リア充しかいないし、良いことないよ……あーあー。引きこもるしかないのかなぁ……」
秋の道すがら、独り言が止まらない。連休とは言っても、特別何かする必要はない。だってボクはぼっちなのだから。生まれてから高校2年生になって、この方ずっとぼっち。もう誰かにネタにされてもいいくらいぼっちだ。寂しいという気持ちも、もう無くなってしまった。
(──あ!)
でも、秋は少し事情が変わってくる。
強めの風が吹いて、ほわっと甘い香りが鼻を抜けた。思い出した。これは……、
(婆ちゃん家の匂いだ!)
真緑の葉にオレンジのポツポツがポップコーンみたいな金木犀!
幼い頃に婆ちゃんが植えていたらしい。それをボクは、親から婆ちゃん家に預けられている間、ずっと嗅いでいた。
(懐かしいなぁ、そうだ。ゼリーのお菓子とお煎餅と煎茶が出てきたんだ。美味しかったなぁ。今は区画整理で伐採しちゃったけど……)
思い出に浸りながら匂いのもとを探した。それは、思ったより視界の上にあった。コレは僕の勘違いだけど、いつも低木かと思ってしまう。匂いのもとが近く感じるからかな?
「こんにちは、金木犀」
ぼっちだからか、独り言が増える増える。秋風が吹いた。ボクの独り言に応えるように、婆ちゃんのもてなしの笑顔のような優しい香りがする。
「わっ!」
金木犀を通り過ぎると、蛾なのかチョウチョなのか解らない生き物がとんできてビックリした。まるで半袖姿を挑発するような生き物に『まだ暑いもんね』とあっかんべする。
「行こっかな……」
秋の金木犀の香りを嗅ぐと、やたら婆ちゃんに会いたくなる。メールじゃなくて、家に行きたくなる。
(もう金木犀はないけど……)
この日に嗅いだ金木犀の香りを伝えたくなる。ボクぼっちだから。親や婆ちゃんにしか伝えられない。
(ほわわっとして、頭がふっと持ち上がって、アスファルトが明るく見えて、少しだけ優しい気持ちになれる)
まるで婆ちゃんの笑顔みたいだなって言ったら、婆ちゃんはどんな顔をするかな。金木犀みたいにほっぺた染まるかな?
お煎餅とゼリーと煎茶も、出るといいな。偶にはアイスクリームも置いてくれると嬉しいけれど……。
「──よし、行こう。婆ちゃん家!」
金木犀の香りが時折、忘れかけた婆ちゃんの笑顔を思い出させてくれる。ボクはそんな金木犀の香りが大好きだ。
おしまい




