表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せんごく女子高生  作者: 松原正一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/68

第24話「月香の“介入しない介入”――残像が残す手紙」

週末。京香は図書館へ行くつもりだった。

でも図書室の件があって、白い場所が少し怖い。代わりに自宅で参考書。

机のライトの温かい色が安心だ。


母の白衣を思い出す。

白が怖くないときもある。白は命を守る色でもある。


シャーペンを握ると、指先がすぐ冷える。

ため息をつき、体温計を挟んだ。


35.9。


「……落ちてる」


数字は嘘をつかない。

でも数字だけで全てを語れない。


メモに書く。


『体温−0.5/指先×/夢:危険』


その瞬間、硬貨が机の上でわずかに動いた。

勝手に、ではない。“示す”ように。


胸の奥が低く言った。


(……来る)


眠っていないのに、視界が白くなる。

白い霧が部屋に差し込み、窓の外の音が遠ざかる。


月香の夢の白だ。


「……月香?」


返事はない。

でも机の上に紙が一枚あった。さっきまで無かったはずの紙。

白い便箋。六つの円が薄く透かしで入っている。


震える指で触れる。

触れた瞬間、視界の端に雪が差し込んだ。


文字ではなく、感覚が流れ込む。


——私は介入しない。

——でも、記録は残す。

——あなたが選ぶために。


紙の上の字は読めない。

でも意味だけが読める。


最後にひとつだけ、鮮明な一文が浮かび上がる。


『嘘をつくな。嘘は命を奪う』


医療の倫理と同じ言葉だ。京香は息を止めた。


「……月香、あなた……看護の人みたい」


月香は答えない。

答えないのが“介入しない介入”。


それでも次の感覚が流れ込む。


——ユッキーは嘘をつかない。

——でも、知らないことがある。

——知らないことが、あなたを削る。


京香は唇を噛む。

知らないことが削る。だからチェックする。だから記録する。


京香は紙を机の引き出しにしまった。

お守りとしてではなく、カルテとして。


「ユッキー。あなたは嘘をつかない。でも、知らないことは“知らない”って言って」


(……うむ)


「私も、怖いって言う。怖くないふり、やめる」


胸の奥が少しだけ柔らかくなる。

心拍が整う。それが不思議で、京香は小さく笑った。


「ねえユッキー。あなたが近いと、なんか落ち着く」


(……近いとは)


「距離。……心の距離」


答えはない。

でも逃げもしない。

その沈黙が京香には優しい。


白い霧が引く。部屋が戻る。

引き出しの中の紙は残っている。夢ではない証拠だ。


京香はその紙に、赤ペンで追記した。


『嘘はしない。怖いは言う。兆候は記録する』


——医療みたいに。

——人生みたいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ