道のり その①
村を出て一日がたった。いま、僕は北へと向かって歩いている。風が少し寒くなってきているように感じる。そんなことを考えながら、先生の授業を思い出す。先生というのは、サルサという北の大地出身らしい中年の人間族のことである。先生が村に来た初めのころは、村が排他的であることも相まって、あまりいい顔はされていなかった。しかし、先生は基本的な読み書きや、簡単な魔法、周辺の地理から西にあるという王国の情勢まで何でも知っていた。その知識にひかれて、先生が村に来て二週間もたたないうちに先生は、多くの人に頼られるようになり、一年がたったころには先生のために、村にあった古い小屋を改修して小さな学校が作られたほどだった。学校は、朝の時間は子供が中心で、夕方ぐらいから大人向けの授業が始まる。余談だが、僕の村は先生が来るまでは読み書きや計算ができる人が少なく、こちらに不利な取引が多く行われていたのだが、先生のおかげで正当な内容で取引が行えるようになり、村は目に見えるぐらいには潤った。先生は、僕が5,6歳の時にやってきて、それから十年近くいろいろなことを教えてもらった。先生の授業はとても面白く、苦も無く知識を蓄えることができた。村を出て北に向かおうと決心したのは、先生が語ってくれた北の土地の美しく厳しい自然や、そこに生きる猫人族に代表される種族の文化をこの体で体験したいと思ったからだ。先生によると、村を出て2,3日歩くと宿場町<カラマリー>につき、そこから馬車で5日もたたないうちに城塞都市<フォビアード>が見えてくるらしい。当面の目標は、フォビアードを目指し前進し、機会があればおじいちゃんの置き土産の禁断の魔法を試してみるつもりだ。とりあえず、今日のところは昨日のように土魔法を作って簡素な家を作って野宿としゃれこもう。この土魔法も先生から教わったと思うと、あの人には本当に頭が上がらない。何か書置きでも残しておくべきだったかと今更ながら少し後悔した。