旅立ち
じいちゃんが死んだ。あたりが明るくなってきたころだった。僕と、じいちゃんがアンデッドにならないようにするために来てくれた、エピル爺さんの二人だけに囲まれながら亡くなった。父さんはきっと、何の気もなしに村の入り口にある酒場でごろつきたちと飲んだくれているだろう。母さんは、三年前に手紙をテーブルの上に残してどこかに消えてしまったから、現在の所在を推し量ることすらできない。村のみんなは、「ホラ吹き爺さん」をわざわざ看取ろうとは考えなかったのだろう。ただ、二人だけがじいちゃんの最後を見届けた。なんというか怖かった。その時にして、僕は初めて「死」という概念が持つ恐怖を本当の意味で知った。僕が死んだときには、何人の人が周りを囲んでくれるのだろう。そして、そのうちの何人が僕の死を悲しんでくれるのだろう。そんな考えが頭を締め付ける。こんなことを考える自分が嫌になって、親愛なるじいちゃんの死のにおいから遠ざかりたくて、昼下がり、僕は父さんの軍資金のほとんどをかっぱらい、見た目だけの短く頼りないなまくらを腰につけ、じいちゃんが残してくれた魔法を身につけ、生まれ育ったこの村を出た。村の入り口の酒場では、思った通り昼間から酔っ払いどもの唸り声が響いていて、その中に実の父の死をなんとも思わない父さんもいると思うと、なおのこと足は早く動いた。目的地も定まらない彗星の一人旅はこうやって始まった。