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【カクヨムコン10大賞】恋とはどんなものかしら ~当て馬令嬢の場合~  作者: 鈴音さや


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第22話 魔剣グラムの覚醒


「少し休んだほうがいい、そのまま続けても怪我をするかもしれない」

いつものように裏庭で剣を振る彼女に俺は声をかけた。剣を降ろした彼女は少し俯いて、小さく息を吐いた。

「ごめんなさい、集中できていなかったみたい」


「気にするな、疲れているんだろう」

革の手袋を外し、銀の髪をはらったその左手には、大きな緑石のついた金の指輪。王子の誕生日パーティーの後、数日して裏庭に現れた彼女の指にはギラギラと王子の瞳の色が輝いていた。輝く銀の髪には揃いの髪飾り。


あの日、夜の庭園で聞いてしまった王子の言葉を、俺は未だに彼女に伝えることができなかった。彼女も何もいわないけれど、ときおり見せる沈んだ顔と増えたため息でわかる。やはり彼女にとってよくない状況なのだ。噂通りならば、彼女の父親や王家が手配したという宝石があしらわれた装飾品。彼女を飾る、美しくて重い枷。


俺は、剣の稽古の邪魔になるから外しておけば? と親切ごかしにいってみた。そうねって、いつものように笑ってくれると思ったのに。実際には、『失くすと面倒だし、侍女がいないと上手く付け直せないから』と彼女は寂し気に微笑んだ。


「これ、やっぱり目立つかしら?」

指輪を示して困り顔の彼女にいわれ、我にかえって笑って見せる。悔しくて見ないようにしていたのに、凝視してしまっていたようだ。

「ごめん、つい目がいっちゃったみたいだ。髪飾りと揃いなんだな」

「そうなの、しばらくつけていないといけないことになって」

「……しばらく、なのか?」

できるだけさりげなく訊いてみる。


「大丈夫、何か月かの我慢よ。お役御免になったら慰謝料代わりに貰っちゃおうかな」

いつものように笑う彼女に、俺は少し安心した。

「すごい金額になりそうだな。それならもう刺繍や組紐を売らなくてもいいんじゃないか?」

「それはそれ、これはこれ。慰謝料とお給料は別なの。これからもどんどん稼いでいくわ!」

「無理すんなよ」

にっこりと頷いた彼女は、いつものように刺繍の図案や組紐に使う色の組み合わせなんていう他愛無い話をして。昼休みが終わる少し前、足早にサロンへと戻っていく細い背中を俺は見送った。木漏れ日にギラリと光る髪飾りが目について俺をいら立たせた。


学院の休日、俺は王都の冒険者ギルドにきていた。いつもは小遣い稼ぎに街壁から程近い林の浅い場所で薬草採取などをしているのだけれど。

「少し足を延ばしてみるか……」

今日は日帰りのできる距離で割のいい仕事を探していた。たくさんの依頼が貼りだされた掲示板をじっくりと眺めていく。食費の補填や装備の補修、帰省の土産代のためではなく、彼女のために。俺も彼女に何かを贈りたくなったのだ。金額ではあの大きな緑石には及ばなくても、身に付けた彼女が、ふと目に入った時に暗い顔をしなくてもいいもの。つけていることを確認した時に楽しい気持ちになれるものを。


依頼書をめくる俺の腕に揺れる組紐。どれも赤が差し色にされたそれは、今では3本になった。

――新商品なんだから、ギルドや討伐に行く時は目立つようにつけるのよ――

俺を見上げて、真剣な顔でいう彼女を思い出して覚えず口もとが緩む。学院では制服の下に隠しているけれど、言いつけ通り、ギルドや依頼に出る時は袖から見えるようにしていた。グラムにも、柄の部分と剣帯につけてある。柄に巻いてやった時、うっすらと光っていたので喜んでいるようだ。


腕輪をつけたり、剣帯の細工、剣の象嵌に凝っている冒険者はいるが。

「腕輪と剣の飾りを揃いにするというのは、さすがだよなあ」

脳裏に、胸を張る彼女の笑顔がよぎる。組紐なんて、もうリボンでもないだろうという年配の女性が長い髪を一つに纏めるために使っているものだった。男が、しかも冒険者の装備を身に付けた俺が。何色もが鮮やかに編み込まれている組紐を腕や剣につけているのを、最初はみんな胡散臭そうに見ていた。


程なく、ギルドで年の頃が同じくらいの冒険者から、それはどこで手に入れたのかと訊かれた。ギルド近くの雑貨屋で売っていると教えてやると、翌週にギルドに行った時には、訊いてきた奴以外の何人もが腕と剣に組紐を巻いていた。革や金属の腕輪よりも手頃な値段だし、何より軽くて動きを阻害しない。そして色合いが華やかで目を引く。


目新しいものや派手なものを好む冒険者の気を引くことには成功したようだ。やがて俺が二本三本と組紐を増やしているのをみて、やはりギルドでも何本もの組紐を巻いている奴らが現れた。俺は順調に彼女の売り上げに貢献できていることが嬉しかった。


「貰ったら、御礼を返すのは当たり前だからな」

手首に踊る組紐に、確かめるようにつぶやく。そう云えば、彼女はきっと受け取ってくれるはずだ。輝く銀の髪、透き通るように白いあの手に、俺も何かを飾ってみせる。値段は及ばなくても、人任せにはしない。俺の稼ぎで、俺が買ったものを。相手は美しい公爵令嬢だ。小さくとも、やはり宝石がいいだろう。金か、赤で。だからまとまった金が必要だ。

「一人で受けられる仕事はやっぱり報酬が低いんだよな……」

ため息交じりに零した声に。


「さっきから随分悩んでいるみたいね」

聞き覚えのない声が応える。そちらに目をやると、冒険者の装備に身を包んだ女性が立っていた。


「あなた、学院の人でしょう? 私は同級生のイザベル、東部のバートン子爵家よ」

「どうも、クロイツだ」

「やっぱり! その赤い髪、“クロイツの赤い牙団”、ね」

「そんな御大層なものじゃない、ただ領地が強めの魔物の生息地と隣り合っているっていうだけだ」

「御謙遜を、“赤い牙団なければ辺境で人は暮らせぬ”というじゃない。あなたはそのクロイツ家の男でしょ」

「三男だから家督には関係ない」

「私は次女なの。私の分まで持参金が都合できなさそうだから、こうして今から冒険者稼業をしているってわけ」

私たち、似ているわねとバートンがいう。


「私は弓手なんだけど、いつも組んでいる前衛の子が商隊の護衛にいってしまってしばらく戻らないの。その間に臨時でパーティーを組める相手をさがしているんだけど、どうかしら?」

あなたは剣士でしょ、とグラムを指さす。


「俺は王都では学院の休日しか依頼を受けられないから、パーティーは組まない」

「私も学院生だからちょうどいいじゃない。私の相方が戻ってくるまで、たまにはパーティーを組んでみたら?」

「なんでそんなに俺を誘うんだ」

「さっきから掲示板見て難しい顔をしているから、仕事選びに困っているんじゃないかと思って」

「まあ、そうだけど……」


いきなり図星をさされてしまった。

「私もね、弓手単独だと割のいい仕事は厳しいのよ。この間の王子サマのパーティー、何かと費用がかさんで今月お財布が厳しいの。あなたは学院生で身元もはっきりしてるし、赤い牙団の男なら実力は折り紙付きでしょ」

あなたとならこの仕事が受けられると思うの、と差し出してきた依頼書を受け取る。


「魔鹿か」

魔鹿は鋭いその角が薬に使われるが、すばしっこく体力があって狩りにくいため報酬がいい。弓で射て、動きを鈍らせてから剣で仕上げることを考えれば悪くない組み合わせだった。

「狩場は日帰りできる距離だし、報酬はあなたの取り分が6でいいから」

薬草採取は嫌いなの、とバートンが言い募る。


「わかった、じゃあバートンさんの相方が帰ってくるまでの臨時ということで」

「ありがとう、助かるわ」

早速行きましょうと二人でギルドを出て、屋台で昼食を買ってから狩場の近くを通る乗合馬車に乗った。

「ねえ、私のこと。イザベルでいいわよ」

気安い感じでバートンがいうが、俺は首を振った。

「学院生同士だろう、うっかり名前で呼んで誤解されたらかなわないから」

「生真面目なのね、クロイツ君」


それから、その日は順調に5頭の魔鹿を狩ることができた。翌週、翌々週も

充分な成果をあげて、俺の懐も大分温まってきた。バートンの相方も帰ってくるということで、今日が最後の魔鹿狩りの日となった。これまでが順調だったせいか、今日で最後と気が緩んだものか。バートンが弓で足止めをした魔鹿に俺が剣で対応している時。


「助けてっ」

バートンの悲鳴が聞こえた。振り向くと連れだったのか、別の魔鹿がバートンに角を向けて突進してくるところだった。距離的に、間に入るには間に合わない。

「うずくまれ!」

足がすくんで動けない様子のバートンに言い放つ。踏まれはしても、あの鋭い角に刺されるよりはマシだろうと思った。


うずくまるバートンを挟んで魔鹿と相対する。せめて風魔法で勢いを削れるだろうかと剣を構えたその時。グラムが火をまとい、俺の風魔法を吸い込むようにして魔鹿に炎を放った。ドサリと魔鹿が倒れこみ、うずくまっていたバートンが恐る恐ると顔を上げる。

「今のは? クロイツ君は風属性なのにどうして炎が……」


彼女の祝福が効いたのか、グラムが魔剣になった瞬間だった。だが、よりにもよってこんな時に。いや、窮地だったからこそ覚醒したのかもしれない。いずれにしても、バートンをなんとか口止めしなくてはまずいだろう。

「これは実家に代々伝わる剣なんだ」

嘘はいっていないけど心苦しくて、俺は目を合わせないようにぶっきらぼうにいった。


「領地の防衛に関わることだ。今日、ここで見たことは内密にしてほしい」

驚きから感嘆に表情を変えたバートンが、もちろんと頷いた。

「炎を放つ剣なんて聞いたこともないわ。さすが、赤い牙団ね」

的外れな賞賛に背を向けて、黒く焦げてしまった魔鹿に歩み寄った。


「ちょっと煤けてるけど、表面を削れば納品に問題はなさそうだな」

剣で角の根本を切って、背負っていた袋にしまう。もう一頭の剣で倒した魔鹿の角も切り取った。グラムの話に乗ってこない俺に肩を竦めたバートンが立ちあがる。


「もう十分稼いだ。危ない目にあったこともあるし、今日はもう帰ろう」

「そうね、まだ心臓がドキドキしてるわ」

狩場の林を出て、乗合馬車が通る街道へと歩く。


王都に戻り、ギルドで換金して報酬を分けた時だった。

「ねえ、これからも私と組んで貰えない?」

「バートンさんの相方が帰ってくるまでの約束だっただろう」

「そうだけど、クロイツ君と組んでみて、やっぱり男性の剣士とのパーティーは成果が安定するって実感したの。クロイツ君はやっぱり強いし、その剣だって……」


「剣のことは口外しない約束だ」

俺は低い声でいった。午後のギルドは空いているとはいえ、職員も冒険者もいる。まだ学院生の俺が魔剣を持っていることがバレたら、どんな面倒ごとになるかわかったものじゃない。


「ごめん、わかってる。もういわないわ。ただ、それもクロイツ君と組みたい理由の一つだってこと」

「悪いけど、俺はまた単独で薬草採取でもするよ」

「どうして? 私たち上手くやってきたじゃない。順調にたくさん稼げたでしょう」

「ああ、だから稼ぎはもう十分だし、また今日みたいなことになれば面倒だから」

地元に帰るまではおとなしくしておくというと、バートンは渋々と引き下がった。

「私はいつでも大丈夫だから、その気になったら声をかけてね」


バートンの声を背に、足早にギルドを後にした。雑踏の中を学院の寮に向かいながら歩いていく。

「明日は彼女にいい報告ができるな」

グラムが火を噴いて本当に魔剣になったと伝えたら、一体どんな顔をするだろう? まずは驚くだろうか。そして大喜びするだろう。はしゃぐ彼女の様子が思い浮かんで自然に顔が綻んだ。最近は元気そうに振舞っていても、ふと瞳を曇らせることが多い。


そうだ、ちょっとだけ彼女の前で試してみてもいいじゃないか。昼休み、稽古に現れる度にグラムに『汝、炎の魔剣』云々と言い聞かせては祝福をかけてくれていたのだ。俺と揃いの組紐だって編んでくれる。俺の剣だけど、グラムは半分は彼女のものだといってもいい。報告を聞くだけじゃなくて、実際に見る権利があるだろう。

「グラム、頼むぞ」

剣帯のあたりを軽く叩くと、微かにふわりと光が散った気がした。


この時、俺は本当にただ彼女を喜ばせたい、元気づけたい一心で。まさか、あんな大ごとになってしまうとは夢にも思っていなかった。


いつもご高覧ありがとうございます!

感想欄でお問い合わせのありました件につきましては

安心して読み進めていただけますと幸いです。

タグにしてつけるのは、知りたくない人もいるかもしれませんので、

こちらでご対応まで。

今後ともどうぞ、よろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
グラムがかわいい。ちゃんと主を守っていますね。 私の妄想解釈(二人には「見守り隊」がいるのではないか)の中では、組紐を買った「年の頃が同じくらいの冒険者」は「ヴィクトリアのファン」と解釈されています…
頑なにバートン呼びを続けるクロイツに好感 逆にクロイツ君呼びを勝手に始めたイザベルにイライラ
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