第8話 人間の国の商店街
転移陣でナージュ国からディア王国に転移したシャーラとシオンは、拘束魔法を解いたヤナワシに連れられて、彼が長をしている商店街を訪れた。
「うわーーー!! ここが人間の商店街かニャ! 見たこともないものがたくさんあるし、とっても活気があって凄いニャ!」
王都で一番広い大通りにある商店街には、人や獣人など本でしか知らない種族が歩いていて、屋台や店先には見たことがない食料や道具などがたくさんあり、好奇心旺盛なシャーラは目に映る全てのものに心を奪われていた。
そんな彼女がはぐれないように手を繋いでいたシオンが、呆れた顔をしながら声をかける。
「こら、シャーラ。楽しそうに観光するのも良いが、お仕事も忘れちゃダメだぞ」
「えへへ、分かっていますニャ!」
照れくさそうに笑うシャーラは、周りを注意深く見回すと、隣を歩いているシオンに耳打ちをした。
「それにしても、本当に5属性以外の魔法を使っている人がいませんニャ」
「そうだな。電灯も雷や火の魔法が付与された魔石を使っているようだし、氷も水と風を使って作っているようだしな」
「そうですよね……あ、串焼きだニャ!」
「あ、シャーラ!}
屋台の食べ物に目がいったシャーラを慌てて止めたシオンは、隣を歩いていたヤナワシに申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。如何せん、好奇心旺盛なものですから」
「良いのです。むしろ、この商店街を見て嬉しそうにしてもらえるだけで私も長として誇らしく思いますから」
優しく微笑むヤナワシにシオンが愛想笑いを浮かべると、前を歩いていた男の子が突然転んだ。
「いててて……」
「君、大丈夫かニャ?」
シオンの手を離れたシャーラが、男の前にしゃがみ込み、咄嗟に魔法をかけようとしたが、昨日シオンに言われたことを思い出し、収納魔法が付与された肩掛けカバンからハンカチと水を取り出す。
「少し痛いけど我慢してニャ」
「う、うん」
目に涙を溜めている男の子に笑いかけたシャーラは、手早く応急処置を済ませると、カバンから新しいハンカチを取り出して傷口を塞いだ。
「はい、これで大丈夫だニャ」
「あ、ありがとう! 可愛いお姉ちゃん!」
「お、お姉ちゃん……!」
生まれた時から1人っ子で、相談所や街の人達からは手のかかる妹扱いされていたシャーラは、走り去った男の子からお姉ちゃん扱いされて胸がときめいた。
「シオン先輩、私、ここに住みたいニャ!」
「はいはい、それは相談が解決した後で聞く」
目を輝かせるシャーラを軽くあしらうシオン。
思っていたのと違う素っ気ない返事をされたシャーラは、不貞腐れた顔で小さく呟いた。
「もう、今日のシオン先輩、まるで所長みたいニャ!」
「……何か言ったか?」
「いえ、何も言ってませんニャ。ごめんなさいニャ」
「なんだか、シャーラさんとシオンさんはまるで姉妹みたいですね」
自分の教育係であるシオンは、普段は優しくて頼りになる先輩だが、怒ると物凄く怖い。
それを知っていたシャーラは、小さく肩を震わせると頭を下げると、視線をヤナワシに移した。
「ところでヤナワシさん」
「何でしょう?」
「建国祭まであとどのくらいですかニャ?」
「確か、あと1週間だったかと」
「「1週間!?」」
思っていた以上に時間が無いことに、人目を気にせず声を上げて驚いた2人は、周囲に頭を下げると、ヤナワシがどうして神頼みのような真似をしたのかようやく理解した。
「なるほど、ヤナワシさんが湖に行って頼み込んだのは、単に時間が無かったからなのですね」
「すみません、一応王立図書館に行って調べてみたのですが、手掛かりと呼べるものが見つからなくて」
申し訳なさそうに頭を下げるヤナワシを見て、2人が揃って溜息をついた時、突然開けた場所に出た。
「ヤナワシさん、ここは?」
「ここは、王都で一番大きい広場です。自然が多く、普段は待ち合わせや憩いの場として使われていますが、建国祭の日はここがメイン会場になります」
「そうなのですね」
木々が多く生い茂り、色とりどりの花々が咲き誇る広場には、多くの子ども達が元気に駆け回っていたり、木陰に設置されたベンチに腰掛けて笑いあっていたりと、大通りの賑わいとは明らかに違った、穏やかなで優しい空気が流れていた。
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