第7話 いざ、人間の国へ!
相談所に人間が来て翌日、アカネから許可を貰ったシャーラとシオンは、ヤナワシを人間の国に帰し、相談解決をするため、王都の片隅にある大昔に使われていた転移魔法陣が刻まれている遺跡を訪れた。
「全く、所長はどうして私のやることなすことに一々口を出して反対するのに、シオン先輩だったらあっさり認めてくれるのニャ! いざとなったら、魔法を使えば万事解決ニャのに!」
普段は怒られても底抜けの明るさで切り替えるシャーラだが、昨日アカネに言われた事が余程腹に据えかねたらしく、珍しく引き摺っていた。
「それだけ、シャーラのことが心配で心配で堪らないんだ。それに、人間の国において魔法は『火・水・土・風・雷』しかないらしいから、それ以外の魔法を使えると他の人間に知られたらどうなるか分からないんだよ」
「うっ、それは昨日、ヤナワシさんから聞きましたけど……」
アカネから相談解決の許諾を得た後、シャーラとシオンは早速行動に移すため、ヤナワシがいる相談室に戻り、3人で作戦会議を開いた。
その中で、2人はヤナワシがいる人間の国『ディア王国』では、魔法と言えば『火・水・土・風・雷』しかないらしく、それ以外の魔法は秘匿か禁忌とされているらしい。
そのため、2人がディア王国で魔法を使うとすればその5属性しか使えない。
それ以外の魔法……ヤナワシに使った鑑定魔法や拘束魔法を使う時は、絶対に人間に見られてはいけない。
また、頭に浮かんだものをそのまま魔法に具現化するケットシーの魔法とは異なり、人間が魔法を使う場合は『詠唱』と呼ばれる、魔法を具現化する際の決まり言葉がいう必要がある。
ただし、大昔にいた異世界人はケットシーと同じように多種多様な魔法を無詠唱で使えていたらしい。
シオンに諭され、シャーラが不貞腐れたように口を噤むと、2人の後ろを歩いていたヤナワシが口を開いた。
「それにしても、まさか食事付きで泊まらせていただけるとは……初めてこの国に来た時は、剣を突きつけられましたからこのような素晴らしい待遇になるとは思いも寄りませんでした」
「あ、それは……大変失礼いたしました」
捕らわれの身であるヤナワシは、シオンがアカネに掛け合ってくれたお陰で、特別に簡易ベッドを用意してもらい、ささやかではあるが食事を用意してもらった。
もちろん、その時には拘束魔法は解かれているが、念のため、食事の際はシャーラとシオンが監視役として同席し、就寝の際は部屋全体に拘束魔法をかけて逃れられないようにした。
そして相談室を出る時、彼に再び拘束魔法をかけた。
「いえいえ、昨日の話を聞いて、あなた方は私を警戒するのは無理もないと思いましたから」
白髪交じりのヤナワシが朗らかな笑みを浮かべ、それを見たシオンがいたたまれない気持ちになっていると、シャーラの足が止まった。
「シオン先輩、あれって……?」
「あぁ、間違いない。大昔に使われていた転移陣だ」
薄暗く狭い遺跡を進んだ先に現れた、転移魔法陣が描かれた巨大空間。
ヤナワシが持っていた荷物を抱えていたシャーラが、満面の笑みを浮かべると駆けだして魔法陣の上に立った。
「それじゃあ、これでヤナワシさんが住んでいた国に行きますニャ!」
「そうだな。その前に」
「ん?」
ヤナワシさんを連れて陣の上に立ったシオンが、静かに目を閉じると魔法をかけた。
すると、ケットシー姿のシャーラとシオンが瞬く間に人間の姿へと変化した。
「おぉ、これがケットシーの魔法! 昨日も何度か見ましたが、やはり人間が使う魔法とは段違いですな」
「えへへ、ナージュ国でトップクラスの魔法使いであるシオン先輩にかかれば、このくらいおちゃのこさいさいですニャ!」
「どうして、シャーラがドヤ顔するんだ」
スーツを着た仕事の出来る美女に変身したシオンが呆れながらも照れくさそうに笑うと、その場にしゃがみ込んで両手を魔法陣に置いた。
「それではヤナワシさん。ゆっくり目を閉じてあなたのいた場所……帰りたい場所を強く思ってください。シャーラは私と一緒に魔力を魔法陣に流して」
「分かりました」
「はいですニャ!」
ヤナワシが目を閉じたタイミングで、探偵服を着た活発な少女に変身したシャーラがシオンの隣にしゃがみ込み、両手を魔法陣に置いて魔力を流す。
その瞬間、魔法陣が白く輝き、3人はヤナワシがいたディア王国の商店街へと転移した。
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