第6話 ダメに決まっているでしょ!
「ダメに決まっているでしょ!!」
相談室でヤナワシの相談を引き受けることになったシャーラは、シオンにヤナワシを任せると、シオンが書いた取り調べ記録書と共に所長室を訪れ、アカネに取り調べ記録書を渡すと、ヤナワシの相談を引き受けたことを伝えた。
その瞬間、アカネの怒号が相談所の建物全体に響き渡った。
「あんた、自分が何を言っているか分かっているの!? ただえさえ、ケットシー以外の種族が……それも、よりにもよって一番の憎むべき人間が来たっていうのに、その人間の相談事を受けるって! ふざけないでちょうだい!」
「ですが、あの人間からは敵意も何も感じませんでしたニャ! それに、『成功報酬として1000万オンを支払う』と約束して下さいました。これが、その証拠です!」
そう言って、シャーラはシオンが手配してくれた、相談を引き受ける際に使われる契約魔法が付与された羊皮紙をアカネに渡した。
ここに記載されている内容は絶対順守であり、万が一どちらかが破った場合、契約違反をしたとして、破った方に一生魔法が使えない厳罰が下される仕組みになっている。
その羊皮紙には、シオンの文字で『成功報酬としてシャーラとシオンに1000万オンを支払う。そして、今回の相談案件は全て他言無用とする』と明記されており、文末にはヤナワシの署名と血判が押されていた。
「何より、あの人間は心の底から困っていましたニャ! だったら、相談員として助け……」
「良いわけないでしょうが!!」
再びアカネの怒号が飛び、シャーラは肩を震わせた。
それを見て、不機嫌そうに座り直したアカネが小さく鼻を鳴らした。
「フン! そもそも、その人間がちゃんと支払うか怪しいわね! それも、ちゃんとした金貨を!」
「荷物を改めた者が本物だと言っておりますし、こうして契約も交わしたということは、破ることはしないと言っているのと同じですニャ!」
「それは、私たちケットシーに対してでしょ? 意地汚い人間だもの、どうせ抜け穴を見つけて破るに決まっているわ!」
「っ!」
『イルミネーション』にかける思いを熱く語るヤナワシが脳裏を過ったシャーラは、人間ってだけでヤナワシを蔑むアカネに怒りを覚える。
そんなシャーラを全く気にしていないアカネは、だらしなく机に頬杖をつくと悪態をつき始める。
「全く、どうして人間なんかに私たちケットシーが手を貸さないといけないのよ。やっぱり、あの人間をあの場で殺すべ……」
「所長」
アカネの言葉でシャーラが怒りに任せて飛びかかりそうになった時、閉じられていた所長室の扉が開き、ヤナワシの見張り役をしていたシオンと、シャーラと入れ違いで所長室を出て行ったリリアンが入ってきた。
「今回の件、私の目から見ても問題は無いかと思いますし、成功報酬は支払われるものだと感じました」
「けど、相手は人間よ。だったら、ここで殺しておいた方が相談所のため……ひいては、この国のためになるとは思わない? 陛下も『ナージュ国に来た人間の扱いは私の裁量に任せる』って言ってくれたし」
「まだそんなことを言っているの?」
呆れ返っているリリアンをよそに、小さく溜息をついたシオンが怒りで震えているシャーラの肩に触れた。
「でしたら、私がシャーラについて回ります。万が一のことが起きても、私の魔法なら対処できると思いますし。それでよろしいでしょうか?」
アカデミーを主席で卒業したシオンは、魔法においてはトップクラスに優れていることで有名である。
「でもあなた、確か王族から相談が来ていたんじゃないの?」
「それでしたら先日解決しました。報告書はこちらに」
そう言って、所長室に来る途中で持ってきた報告書をアカネに提出した。
すると、怒り心頭だったアカネの表情が一気に晴れやかになった。
「分かったわ。そういうことなら、今回の件、あなたとシャーラに一任するわ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げたシオンにつられ、シャーラも頭を下げると、アカネから名前を呼ばれた。
「シャーラ」
「は、はいニャ!」
頭を上げたシャーラは、不機嫌そうに顔を顰めるアカネと顔を合わせる。
「くれぐれも、相談所の看板に泥を塗るような真似はしないで頂戴ね!」
「わ、分かりましたニャ」
上司から釘を刺されたシャーラは、自分が引き受けたことがどれだけ重いことなのか、ようやく実感したのだった。
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