第4話 イルミネーション
「……なるほど、ここはケットシーが住まう国で、今いる場所は相談所なのですね。御伽噺で聞いたことはありますが、まさか本当にそのような国が実在するは思いも寄りませんでした」
シオンが拘束魔法で男の身柄を抑え、シャーラが相談室に男を通すと、聞き役のシャーラが男のことを聞くと、この国のことや相談所のことを話した。
不思議そうな顔で相談室を見回している人間の男『ヤナワシ』は、『ディア王国』という人間の国の王都で、長らく商店街の会長をしているという。
そして、とある願いを叶えようと、人間の国に伝わる『願いが伝わる湖』で、魔力を秘めた石を両手で包み込んで願っていたところ、突如湖が光り、気がついたら相談所の1階にいたそうな。
「では、あなたは最初からこの国に来るつもりは無かったのですニャ?」
「も、もちろんです! 先程も申し上げましたが、ケットシーが住まう国なんて、我々の国では本当に御伽噺程度にしか信じられていないのです! 獣人が住んでいる国なら、私がいた国と条約が結ばれているので知っていますが」
「そ、そうですかニャ……」
必死で弁明するヤナワシを見て、敵意が無いと感じたシャーラは、シオンとアイコンタクトを交わすと、ヤナワシに視線を戻した。
「ちなみに、湖で願っていたことを聞いてもいいですかニャ?」
『まさか、ケットシーが住まう国に行きたいなんて願っていたのだろうか』とシャーラとシオンの頭を過ったが、ヤナワシが口にした願いは2人の予想を大きく超えたものだった。
「はい。私は、あの湖で『イルミネーションを復活させて欲しい』とお願いしたのです」
「イルミネーション?」
「えぇ、遥か昔に使われた魔法です」
聞いたことが無い魔法の名前に、思わず首を傾げたシャーラは、堪らずシオンに視線を向ける。
しかし、シオンもその魔法を始めて聞いたらしく、眉を顰めながら首を傾げていた。
「ちなみに、その『イルミネーション』ってどんな魔法ですかニャ?」
「それが、遥か昔、『異世界人』と呼ばれる人間が、親しくしていた当時の国王陛下と王妃様の結婚のお祝いに使われたものらしく、実際はどのような魔法なのか具体的にはよく分からないのです」
「イセカイジン?」
聞き取り役をしていたシャーラが再び首を傾げると、近くで書記役をしていたシオンが口を開いた。
「それなら知っている。確か、こことは違う世界から来た人間で、この世界の人間とは明らかに異なる規格外の魔力を持ち、当時人間達を虐げていた『魔族』と呼ばれる種族をその力で倒したと本で読んだことがある」
「そんな人間がいたのですかニャ!?」
驚いて声を上げるシャーラに、深刻そうな顔で頷いたヤナワシが話を続ける。
「それでこの度、会長を次代に引き継ぐことに決めた私は、その最後の仕事として、建国記念日に王都を『イルミネーション』でお祝いしたいのです。丁度、陛下も次の年で王位を王太子殿下に譲るようですから、そのお祝いも兼ねて。もちろん、陛下からは許諾を得ています。これでも一応、商店街の長で、筆頭公爵家の次男ですから伝手はそれなりに。ですが……」
「その『イルミネーション』と呼ばれる魔法が具体的にどのようなものか分からないと」
「はい。唯一分かることが『街は光に覆われた』としか……ですが、何としてもその魔法でお祝いしたいのです。今までお世話になった商店街や、会長としての私を支えてくれた人達のためにも! 何より、幻の魔法で皆が喜ぶ姿を見てみたい!」
「だから、願いが叶う湖に願ったと」
「はい。魔法があまり得意ではない私ではどうすることも出来ませんから、藁にも縋る思いであの場所で願ったのです」
「ヤナワシさん……」
初めて見た怯え顔とは明らかに違った、どうしても諦めきれない悔しそうな表情に、シオンが少しだけ俯いた瞬間、今まで黙っていたシャーラが立ち上がった。
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