第2話 人間の相談者(前編)
「シオン先輩、迷惑かけてしまいすみませんでしたニャ」
3階建ての相談所の最上階にある所長室を後にしたシャーラは、相談員が事務作業をする2階の部屋に戻ると、隣に席に座ったシオンに向かって深々と頭を下げる。
そんな彼女を見て、シオンが優しく微笑むと小さく首を横に振る。
「いや、良いんだ。むしろ、シャーラの行いを悪く言ってすまなかった」
「い、いえ! 元はと言えば、私は他の相談事に解決していたから、本来受けていた相談を解決に時間がかかって……」
申し訳なさそうに体を縮こませるシャーラに、シオンは席から立ち上がった。
「シャーラは、目の前に困っているケットシーを見つけたら、仕事に関係なく迷わず手を差し伸べる?」
「もちろんですニャ! 困っているケットシーがいたら、仕事だろうが何だろうが助けるのは当たり前のことですニャ!」
いつもの元気さを取り戻したシャーラに、安堵したシオンが満足げに頷いた。
「そう、困っているケットシーを見つけたら迷わず助ける。そういう当たり前が出来ないと、この仕事はやっていけない。そして、それを一番出来ているのはシャーラだと思うし、シャーラの最大の強みだから」
「シオン先輩……」
「だからと言って、仕事にかこつけて近所の子ども達と遊んでいるのはいかがなものかと思うけどね」
「うっ、それは……もうしませんニャ」
アカネが知らないであろうことを指摘され、恥ずかしそうにもじもじするシャーラ。
それを見て、シオンや他の相談員達が微笑ましそうにしていた時、1階から悲鳴が聞こえてきた。
「キャッ!!」
「ん? 何事だ?」
「もしかして、揉め事か?」
基本的に穏やかな性格であるナージュ国のケットシーだが、稀にケットシー同士で諍いが起こることがある。
それは、相談所でも稀に起きることで、その際は相談所にいる相談員が対処しなければならない。
「私、行ってきますニャ!」
「あ、シャーラ! 待って!」
シオンが止める前に、部屋を飛び出したシャーラは、そのまま1階へと繋がる階段を駆け下りた。
「シオン、俺たちも行くぞ!」
「シャーラだけを行かせるわけにはいかない!」
「わ、分かりました!」
先輩相談員達に言われ、シオンはその場にいた相談員全員と一緒に1階へと向かった。
◇◇◇◇◇
「どうしましたかニャ!」
「あ、シャーラちゃん!」
1階に降りたシャーラは、既に出来ていた野次馬達を掻き分け、両手を握り締めて震えている受付嬢に声をかけた。
すると、すぐ近くから男の声が聞こえてきた。
「あ、あの……」
「あ、はいです……ニャ!?」
男の声に気づいたシャーラがそちらを向くと、そこには、両手に小さな石を握り締めて座り込んでいる立派な商人の格好をした人間の男がいた。
「シャーラ! 大丈夫か……っ!?」
「シオン先輩!」
追いかけてきたシオンがシャーラの傍に立つと、目の前にいる男に言葉を失う。
「に、人間!?」
「どうして人間が!」
シオンと一緒に来た相談員達が人間の男を見て言葉を失っている隙に、シャーラはシオンに何かを耳打ちする。
その時、騒ぎを聞きつけたアカネがシャーラ達の前に現れる。
「どうした、何が……っ!!」
アカネが男を見た瞬間、全身の毛を逆立て、護身用として携帯している剣を鞘から引き抜くと、そのまま男に突き立てた。
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