第15話 光の花畑
「うわーーー! この前来た時も人が多くてワクワクするニャ!」
朝から雪が降る中、ディア王国の建国祭は、日が落ちて街灯に明かりが灯り、空に幾多の星々が輝いているにもにも関わらず、祭りを楽しむ人々の熱気が冷めやらぬことは無かった。
そんな人々が祭りを楽しんでいる様子を、王都の一番高い建物である時計台の上から見下ろしていたシャーラは、真っ赤な生地に白銀色の刺繡がされたローブに身を包んだ人間の姿で、興奮したように目を輝かせていた。
それを黒のパンツスーツに身を包んだ人間に変身したシオンが、呆れたような顔をして声をかける。
「シャーラ、あまり顔を出し過ぎるな。こちらを見た人間に怪しまれる」
「そうだぞ。あまり顔を出していたら、魔法を放つ前にバレるでしょうが」
「あっ、ごめんなさいニャ。所長」
紺色のパンツスーツに身を包んだ人間の姿で時計台を上ってきたアカネは、呆れながらも屋台で買ってきたであろう串焼きをシャーラとシオンに渡した。
「ありがとうございますニャ!」
「所長、すみません。お使いのような真似をさせてしまい」
「いや、良いんだ。この1週間毎日頑張ってくれた2人へのせめてもの労いだと思って欲しい」
「とは言っても、あまりにも質素すぎるから、国に戻ったらちゃんとお祝いするから楽しみにしていてね~!」
「副所長!」
白のワンピースに身を包んだ人間に変身したリリアンが時計台に上ってきた。
「お2人とも、街の様子はどうでしたか?」
「あぁ、昨日の最終打ち合わせの通り、街の人間は皆、祭りの熱気に充てられたバカ騒ぎをしていたぞ」
「そのお陰で、何度かナンパに遭って、その度にアカネが魔法を放とうとして大変だったんだから」
「うぐっ」
笑顔で指摘されて、アカネがいたたまれない気持ちになっていると、貰った串焼きを食べ終えたシャーラが再び窓の外を見る。
「それにしても、人間の国はこんなにも寒いのですかニャ? 私たちの国でこんなに寒いことは無いニャ」
「まぁ、私たちの国は1年を通して暖かいから無理もない。だが、ヤナワシさんの話では、今日は『雪』と呼ばれるものが降るほど特別に寒いらしい」
「そう言えばそんなことを言ってましたニャ」
「だが、所長が私たちが着ている服とこの場所に暖房魔法をかけてくれたお陰で今は寒くない」
「はいニャ! 所長には、色々と相談に乗ってくれたり、アドバイスをいただいたりして、本当に感謝していますニャ!」
「そ、そうか......まぁ、力になれたならそれで良い」
嬉しそうに笑うシャーラを見て、アカネが照れ臭そうに頬を掻くと、窓の外から少し離れたところでヤナワシが火魔法で小さな円を作っていた。
「よし、行くぞシャーラ!」
「気を付けて、シャーラ」
「頑張って、シャーラちゃん」
「はいニャ! 行ってきますニャ!」
シオンとアカネとリリアンに見送られ、転移魔法で広場の銅像の上に移動したシャーラは、周囲の視線を一気に集めた。
「おい、何だあれ?」
「なぁ、あのローブに帽子って……」
「もしかして、異世界人様!?」
街明かりが照らす中、突如現れたローブ姿のシャーラに、人々から戸惑いの声が上がる。
それを見て、小さく笑みを浮かべたシャーラが、持っていた杖を高く上げた。
「この日のために作った詠唱付きの魔法ニャ。寒さも吹き飛ぶ素敵な魔法だから、皆、楽しんでくれニャ!」
楽しそうに小声で呟いたシャーラは、杖の先端にありったけの魔力を集めると、シオンとヤナワシと3人で決めた詠唱魔法を解き放つ。
「顕現せよ、光の花畑!!」
シャーラの力強い声に合わせて杖の先端に集まった魔力が王都を包み込んだ瞬間、雪降る街の至る所に、光魔法で作られた花たちが咲き誇った。
「見て、光のお花さんだよ!」
「光の花、こんなに綺麗な花は初めて見たよ
「すごい! これって伝説の『イルミネーション』じゃない!?」
「え、本当!?」
遥か昔に1度だけ使われた魔法を目の当たりにした人々は、あちこちに咲いている色とりどりの花々に目を奪われ、その美しさに見惚れて喜んでいる。
それを見てシャーラが満足げに笑った時、シオンの転移魔法で時計台に戻ってきた。
その瞬間、待っていた3人がシャーラに思い切り抱きついた。
「い、痛いニャ!」
「シャーラ、よく頑張った!」
「さすがシャーラちゃんだね!」
「光魔法だと分かっていても、街に光の花が咲き誇った瞬間は本当に圧巻だった! さすが、我が相談所の新米相談員だ!」
「シオン先輩、副所長、所長……」
3人から手放しに褒められ、シャーラの黄色い目に涙が浮かんだ時、ヤナワシが時計台に上がってきた。
「シャーラさん!」
「ヤナワシさん!」
3人から離れたシャーラは、ヤナワシから握手を求められた。
「シャーラさん、私の夢を本当に叶えてくれて本当にありがとうございます! 商店街の長として最後の仕事が出来たのも、シャーラさんのお陰です」
「ヤナワシさん、それは違いますニャ」
「えっ?」
不思議そうに首を傾げるヤナワシに、シャーラは視線を後ろにいる3人に目を向ける。
「私がこの街に光の花畑を作ることが出来たのは、親身になってくださったシオン先輩や副所長や所長のお陰ですニャ」
「そうでしたか、ならば改めてお礼を」
シャーラから手を離したヤナワシは、4人を見つめると深々と頭を下げた。
「ナージュ相談所の皆様、此度は私の相談を解決してくださり本当にありがとうございます。この御恩、一生忘れは致しません」
「「ヤナワシさん」」
長として礼を言うヤナワシに、今度はシャーラから握手を求めた。
「シャーラさん?」
「ヤナワシさん、私からもお礼を言わせてくださいニャ。こちらこそ、このような素晴らしい光景を見せてくれてありがとうございますニャ!」
そう言って、振り返ったシャーラの視線の先には光の花畑で楽しそうに戯れる人々の姿があった。
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