第12話 所長の過去
「シャーラ、大丈夫か?」
「はい、副所長に治癒魔法をかけてくれたお陰で大丈夫ですニャ」
シオンの手を借りたシャーラが部屋に戻ってくると、相談を終えたらしい他の相談員達が2人を心配して待っていた。
「シャーラ、大丈夫か!? いつものどやされ方と明らかに違っていたようだが」
「アハハッ、どうやら私の提案が所長の逆鱗に触れたみたいでやっちゃいました」
力なく笑うシャーラに先輩相談員がいたたまれない気持ちになっていると、シャーラを自席に戻したシオンが先輩方に声をかけた。
「それで副所長から『今日は所長のせいで迷惑をかけたから早めに閉じて帰っていい』と」
「分かった。丁度、相談が途切れたタイミングだから今から受付に言ってきて、店じまいの手伝いをしてくる」
「お願いします。私は、シャーラと一緒に一足早く帰らせていただきます」
「あぁ、そうしてくれ。今日は、シャーラにとって辛い出来事になっただろうからな」
そう言って店じまいの手伝いをしに行った心優しい先輩方の気遣いに感謝し、シオンはまだ少し動けないシャーラと自分の帰り支度を済ませる。
「シオン先輩。ありがとうございますニャ」
「いや、良いんだ。むしろ、こういう時は頼ってくれ。私もそうやって色んなことを学んできたから」
「はい……」
シオンの優しさに甘えたシャーラは、不意に涙が出てきた。
「どうして、所長は私のことを認めてくれないのですかニャ?」
「シャーラ?」
普段は底抜けに明るいシャーラの落ち込みぶりに、支度の手を止めたシオンがシャーラと向かい合わせになるように座った。
「私が新米だから認められないことも、私自身がまだまだ未熟なことも分かっていますニャ」
「そんなことはない。シャーラは、新米だった頃の私に比べて遥かに優……」
「ですが、それでもどうして認めてくれないのですかニャ? 私だって、ナージュ相談所の相談をニャのに!」
「っ!」
初めて見たシャーラの悔し涙に、胸が苦しくなったシオンは、深く息を吐くとシャーラの両手をそっと掴んだ。
「多分、所長は今のシャーラがかつての自分と重なって見えるからじゃないのかな?」
「所長がですかニャ?」
涙で濡れた顔を上げたシャーラに、シオンは小さく頷いた。
「あぁ、私も副所長から聞いた話だから本当のところは知らないのだけど、新米だった頃の所長はともかく猪突猛進で、相談に来た方のためになら何だってしていたから失敗だってよくしていたし、その度に当時の所長からこっぴどく怒られていたみたいだよ」
「今の所長からは想像出来ないですニャ。私の知っている所長は、仕事に対して常に冷静さと完璧さを求めるような方ですニャ」
「まぁ、そうだろうね。私も所長に対しての印象はそんな感じだから、最初聞いた時は驚いたよ。けれど、だからだろうね。シャーラに対して辛く当たるのは」
「えっ?」
小首を傾げるシャーラを見て、シオンが優しく微笑んだ。
「管理職になった今だからこそ、若い時の行動がどれだけ相談所に迷惑をかけたのか理解出来た。だからこそ、シャーラには自分と同じ轍を踏んで欲しくなかったのだろう」
「それはそうかもしれませんが……けれど、それならそうと言ってほしいですニャ」
「それは、過去の自分と向き合うことになるから、恥ずかしくて言えないんじゃないのかな」
「何ですか、それ。全然分からないですニャ」
「うん、今は分からなくていいかもしれない。けれど……」
不貞腐れているシャーラに優しく微笑んだシオンが椅子から立ち上がると、いつの間にか茜色に染まった空を窓越しに見つめた。
「それにしては、今日のはさすがにやりすぎだと思う」
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