第11話 衝突
「しょ、所長?」
「ふざけるな」
「えっ?」
顔を上げたアカネが鬼の形相でシャーラを睨みつける。
「ふざけるな!!!! どうしてケットシーが人間如きに魔法を使わなくちゃいけないんだ!!!!」
「「「っ!!」」」」
その場にいた3人の動きを止めたアカネの怒声は、相談所の外にまで響き渡った。
そうとも知らず、アカネはつかつかとシャーラのもとに近づくと、シャーラのお気に入りである水色のローブの襟を掴んだ。
「しょ、ちょ……」
「良いか!? ここは、あらゆる相談事を引き受ける場所であって、宴会芸を提供する場所ではない!!」
「で、ですが、相談事が解決するのであれば……」
「その相談事は『イルミネーション』という魔法かどうかも分からないものを見つける手伝いをするということだったよな!? それがどうしてケットシーが魔法を披露することになるんだ!!」
「所長、相談事は『イルミネーション』という魔法を実現させる手伝いをして欲しいと……」
「うるさい! 部外者は黙っていろ!!」
「っ!」
シオンの言葉を無視し、アカネは苦しそうにしているシャーラを睨みつけた。
「そもそも私は最初から反対だったんだ! お前が人間の相談を受けることも、お前が人間の国に行くこともな! それが何故か分かるか!?」
「わ、分からな……」
「この相談所に泥を塗るからだよ!! 建国時から支えているこのナージュ相談所の看板にな!!」
「っ!? 相談所は、相談に来る人のためにあるものではないのですかニャ?」
「それはケットシーのみだけだ。人間は該当しない」
「……ざけるな」
「は?」
「ふざけるじゃないニャ!」
思わず目を見開くアカネに対し、漆黒の毛を逆立てたシャーラは掴まれた手を握った。
「相談事も人間もケットシーも関係ないニャ! 誰だって悩んで悩みぬいて、藁にもすがる思いでこの場所に来るニャ! それを聞いて解決に導いてあげるのが相談員の役目ではないのかニャ!?」
「違う!! 相談所は、相談するに値するものが集まる場所で、それを速やかに解決するのが相談員だ!!」
「うぐっ!」
深紅の毛を逆立てたアカネが、襟物を更に強く握り締める。
「私がお前と同じ新米で入った時は、この相談所で働いているケットシー全員が優秀で、どんな相談事もたった1日で解決していたし、寄せられる相談も全て相談所に相応しいものだった!!」
その瞬間、普段は穏やかな笑みを絶やさないリリアンから笑みが消えた。
「それが今ではお前が来たせいで相談の質も格段に下がったし、1日で解決していた相談事も2日や3日かかるのが当たり前になっていた! それもこれも全てお前のせいだ!!」
八つ当たりにしか聞こえないアカネからの叱責に、シャーラが悔しそうに唇を噛んだ時、アカネが不意にシャーラを投げ捨てた。
「しょ、しょちょ……」
「やはり、お前を雇うべきじゃなかった。アカデミーの首席で、我が国でもトップクラスの魔力を持っていると知ったから採用したものの、由緒正しき我が相談所の看板に泥を塗る足手纏いなんか……」
パチン!!
倒れ込んだシャーラに対して、アカネが解雇処分を出そうとした瞬間、いつの間にかアカネの隣に立っていたリリアンがアカネの頬を叩いた。
「痛いな! なにす……」
「いい加減にしなさい!! アカネ!! あなた、一体何様のつもり!?」
「『何様』って、私はこの相談所の所長……」
「所長だからって、何をしても許されるっていうの!?」
「っ!」
唖然としているアカネを無視し、倒れ込んでいるシャーラに回復魔法をかけたリリアンは、そっとシャーラの頭を撫でた。
「怖がらせちゃってごめんなさい。今日はもう帰っていいわよ。色々疲れたでしょうし、今はゆっくり休んで」
「で、でも、まだ所長に……」
「それは、また明日ね。それとシオン、ごめんだけど皆に『今日は早めに閉所して』とお願いしてちょうだい。あなたにも皆にも迷惑をかけたでしょうし」
「わ、分かりました」
「おい、誰が勝手に閉めても良いと……」
眉を顰めるアカネを鋭く睨みつけたリリアンが、2人を守るように仁王立ちになる。
「アカネ、あなたがこうなってしまったのは私の責任もある。だから、少し2人でお話をしましょう?」
「え、あ、分か、った……」
片言で言葉を紡ぐアカネをリリアンに任せ、シャーラはシオンに支えらえて所長室を後にした
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