第1話 ケットシーの国の相談所
ここは、ケットシーが住まう国『ナージュ国』。
かつて、異種族から幾度も侵略されそうになったこの国は、国境を深い霧で覆って誰も近づけないようにし、長い間、他国との交流を一切していない。
そのためか、ナージュ国自体はとても治安が良く、年中温暖な気候に恵まれているのと相まって、国民は皆穏やかで、平和な日々を過ごしている。
そんな国には、建国時からケットシー達から寄せられたあらゆる相談事を引き受け、解決する相談所『ナージュ相談所』があちこちに点在しており、王都にその本部がある。
その本部で働く新人相談員の黒色のケットシー『シャーラ』は今日も今日とて、上司でありナージュ相談所の所長である深紅色のケットシー『アカネ』に呼び出されていた。
「シャーラ! あんたいつになったらまともに解決出来るようになるのよ!」
所長室から響き渡るアカネの怒号に、他の相談員は『なんだいつものことか』と苦笑する。
しかし、当の本人のシャーラはそれどころではなかった。
「ですから、ちゃんと相談者の飼っていた猫ちゃんを見つけて、無事に引き渡したではありませんかニャ!」
「だからって、たかが飼い猫見つけるだけでどうして5日もかかるのよ! それにあんた! 猫を見つけている間に他の相談事を引き受けていたっていうじゃないのよ!」
「それは偶然、八百屋の女将さんが『ブレスレットを落としてしまって』って困っていたから、一緒に見つけて上げていただけですニャ!」
「そんなことを一々しているから本来の相談事を解決するのに時間がかかったのでしょう! そのせいで何度相談事をすっぽかしたと……」
「所長」
怒れるアカネに静かに口を挟んだのは、シャーラの先輩であり、彼女の教育係をしている相談所のエース、アイスブルー色のケットシー『シオン』だった。
「今回の件、私の監督不行き届きにもありました。今後はこのようなことが無いように致しますので。誠に申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げるシオンを見て、黄色の瞳を大きく見開いたシャーラは、アカネに顔を向けるとシオンと同じように頭を下げた。
それを見たアカネが、慌てて椅子から立ち上がった。
「い、良いのよ! あなただって今、王族からの依頼ごとで大変だから、シャーラの面倒を十分に見切れなったことだろうし、私も少し言い過ぎたわ」
「そうですよ、所長。いつものことながら、新米相談員のシャーラに対して言い過ぎです」
「うっ、副所長……」
頬を引き攣らせたアカネの隣には、ナージュ相談所の副所長であるベージュ色のケットシー『リリアン』がニコニコと冷たい笑みを浮かべていた。
そんな彼女を目にしたシャーラとシオンが小さく肩を震わせていると、冷たい笑みを浮かべていたリリアンが2人を聖母のような慈悲深い笑みを向けた。
「そういうことですから、2人はここで下がって良いです。シャーラ、困っている人を助けるのは立派なことですが、あなたを頼って相談してきた方がいることを忘れないでくださいね」
「は、はい! 失礼します!」
「失礼致します」
まだ言い足りなさそうなアカネをリリアンが静かに牽制している隙に、シャーラとシオンは所長室から出て行った。
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