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第9話 義母パトラの陰謀

「忌々しいクソガキがっ! あの種なし野郎を味方に付けたからといっていい気になりやがって! あいつのせいでわたくしの立場がより一層危うくなってきたじゃないの!」



 手にしたティーカップを怒りのままに地面に叩きつけたのは、ルシェたちの義母のパトラだった。彼女は夫であるブロンギとの間に子がないことをドワイド家の親類縁者から責められ続けているのだ。おかげで夫の実妹が生んだ甥と姪を養子として迎え入れるという屈辱を味合わされていた。



 それだけでも腹立たしいのに、夫の興味は妻である自分に向かず、養子たちに向けられていることが怒りを倍増させている。夫のその行動が『お前は役に立たない女』だと陰で罵っているようにも思え、随分前から夫婦の関係は冷え切っていた。



「パトラ様、そのようにお怒りになられずに、心を安らかに保たれよ」


「クロード、貴方も少しは焦りなさい。わたくしがドワイド家からお役御免となったら護衛機士の貴方も仕事を失うのですよ!」


「承知しておりますとも。我が命を捧げるパトラ様がよき運命を切り開けるよう、誠心誠意仕えております」



 部屋のソファーにゆったりと腰を掛け、優雅にティーカップで茶を飲んでいるのは、ドワイド家に輿入れしたパトラの護衛機士として、彼女の実家から付いてきたクロードという見目の良い青年機士だった。



 彼の仕事を正確に表すならば、護衛機士兼愛人。夫との仲が冷え切り、ドワイド家の親類縁者からは嫌われているパトラの唯一の心の拠り所となっているのがクロードであった。



 パトラは夫のブロンギとの仲が冷え切ると、本宅には滞在せず、月の大半を愛人であるクロードとともに別荘で過ごしているのだ。今はその別荘にいる。



「クロードは、わたくしの危機的な立場を分かってないわ! 子がいないわたくしなど、あのクソガキが当主になってしまったら実家に送り返されてしまうに違いないの! そうなったら出戻りのわたくしがこんな贅沢な生活を送れるわけないじゃない!」



 優雅に茶を飲んでいるクロードの肩をパトラが子供のようにポカポカと叩く。パトラがドワイド家の者たちから軽く扱われているのは、子がないだけでなく、有力機士の妻としての最低限必要な作法がなっておらず、わがまま放題に振舞っているのを嫌われているからなのだが――当の本人はそのことを理解していないのであった。



「ですから、私がパトラ様のため、いろいろと頑張っておるのではありませんか」



 クロードの視線が、部屋の奥に設置されている大きなベッドに注がれる。クロードの意図を察したパトラから怒りの表情が消え、これから起こることを期待して頬を赤く染めていく。



 パトラが別荘に来る理由を夫には精神的な病の療養と告げている。けれど、本当の理由は愛人であるクロードとの情事だった。それを夫に知られないよう別荘の使用人たちは実家の者たちだけしか採用していなかった。



「もう、クロードはせっかちね。どうして、そんな子になったのかしら?」


「それはパトラ様のせいでしょうね。貴方がどうしても子を設けたいと願い、ブロンギ様と髪と目が同じ私をこの別荘に引きずりこんだのですから」


「そうだったかしら? そっちが先に色目を使ったと思ったのだけど?」


「いいえ、パトラ様が先ですよ。まぁ、どちらでもいいですが」


「そうね。どちらにせよ。貴方との子ができれば、ブロンギの子として認めさせるわ」


「夫婦仲が冷え切った嫁に、急にできた子を認めてくれますかね?」


「馬鹿ね。そうならないように、わざわざ月に一度は本宅で酔い潰したあの人の隣で寝てるのよ。酔った勢いで事に及んだって言えば、記憶のないあの種なし野郎は認めるしかないわ」


「悪い嫁ですね」


「そう? わたくしの子が当主になれば、貴方は大きな権力を手に入れられるわ。それを貴方も期待してるのでしょう? 悪いのはお互い様」



 ニヤリと笑みを浮かべたクロードが、同じ笑みを浮かべて顔を寄せて来ていたパトラを抱きかかえ上げる。この部屋には呼びつけるまで誰も来ないため、これから二人でたっぷりと情事に及ぶつもりであった。


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