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第44話 エルの想い


「パンチョ、ルシェ君の動き見てた? すごくない? すごくない? すごすぎでしょ?」


「あのガキ、やっぱ実力を隠してやがる。誰もが初見だった新種の妖霊機(ファントム)の攻撃を見切って、誘導弾を叩き落としたうえ、一撃で倒しおったからな。かぁー! 悔しいがかっこええやつだ!」


「でしょ、でしょ! 地面に剣を突き立て石を飛ばして誘導弾を破壊するなんて、私じゃ思いつかなかったよ!」



 父親の家臣たちからの聞き取り調査から解放され、自室のベッドの上で寝そべっているエルは、自分の契約している精霊のパンチョと昨日の戦闘について話し合っていた。



 ルシェの戦闘技術に関して語るエルは、心なしか興奮しているらしく頬が赤く紅潮していた。



「あの技は盗むべきやな。切り札として持っててもええ技や。今度練習するで!」


「うん! あれはいい技! 腕に過剰な負担が入らないように改善の余地はあるけど、覚えておいた方が戦場で助かるよね! また、練習しないといけないことが増えた。ルシェ君からはいい刺激をずいぶんともらってる」


「あのガキ……。歴戦の機士でも使わないような技は、実戦で簡単に決めたのは尋常じゃない」


「本当にそう思うよ。くぅー! 悔しいけどルシェ君の操縦技術にはとても追いつけないやー」


「そんな弱気でどうするんや。あいつはドワイド家の後継者候補だし、次代の機士王候補に必ず上がってくるやつやぞ。機士王を目指すエルのライバルやな」


「ライバルか……。たしかにそうだけど……。あの時の戦闘を見てて、ルシェ君になら剣を捧げてもいいかもって思う自分もいるんだ」


「臣下になるんか?」


「父上や兄さんたちが許さないと思うよ。それに私が継ぐべき領地もすでに決まってるし、それを放り出してルシェ君の家臣になるわけにはいかないよ……」



 エルのつぶやきを聞いたパンチョが小首をかしげる。



「ルシェのやつが『好き』なら、ワイにちゃんと言えって言うてあったはずやが? シアにはワイから話を通してやるぞ」


「ち、違うって! そういうことじゃないからっ! 勘違いしないでよ! パンチョ! シア様とルシェ君の間に入れるわけないからっ! やめて、やめて!」



 慌てたエルが、ハムスターのパンチョを掴まえると両手で握りしめる。



「ぐへぇ! やめい、やめい! 力入れすぎだ。ワイが死ぬやろ! 分かった、分かった。何もしないから安心しろ」


「あの2人の間には簡単には割り込めないんだからね。一歩外から見るのがやっとなの!」


「それってやっぱルシェのことが――いででぇ!」


「そう言うのじゃないって言ったじゃん! パンチョのばかぁああっ! きらい、きらいっ!」



 ぐったりとしたパンチョをベッドの上に投げ出すと、エルは布団を頭から被る。



 彼女は朝夕のルシェとの鍛錬を通して、彼が他の機士候補生たちとは次元の違うとてつもない努力家であることを知った。



 その陰の努力という土台を持ち、卓越した霊機の操縦センスを加えた彼の実力に対し、エルは敬服していた。



 パンチョの言う男女の恋愛に絡む好意とは、また少し違う感情をルシェに抱いている自分に困惑を感じていた。



「『好き』もいろいろとあるんだよ。いろいろと……」


「はいはい、分かった。分かった。年下のあのガキが、自分よりももっと機士らしいって思って憧れてるんやろ」


「教えなーい! 教えないもん」



 ぷぅと頬を膨らませたエルは布団の中に隠れてしまった。



「ワイの契約主さんは、子供やのー。これじゃあ、立派な機士にはなれんで」



 一人残ったパンチョは肩を竦めてため息を吐く。


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