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転生機族の英雄譚 ~俺は病弱な妹を救うためだけにゲーム知識を駆使して超難関のハーレムENDを目指すことにした~  作者: シンギョウ ガク


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第36話 妹とのひととき


 ルカの部屋に朝食を食べに行くと、ローマンから長距離通信の方へ手招きされた。長距離通信機が接続され、室内に義父上の顔が映し出される。



 あの表情だと、昨夜の時点でルカから入学式の話を聞いてる感じだな。怒ってる様子はなさそうだが。



「まぁ、ルシェのことだから何かするとは思っていたが……。ずいぶんと派手な入学式を過ごしたようだな。ルカから聞かされた時は、頭を抱えたぞ……」


「とりあえず、義父上から面識を得るようにと言われていた近衛機士団長のご令嬢であるエル・オージェンタム先輩には決闘で勝利し、機士王陛下のご令嬢ソラ・ブレイブハート先輩とは顔見知りになりました」


「そうか……。ドワイド家の後継者候補として名を売ることはできたようで、なによりだが――」


「機士は実力が全てですよね?」


「そ、そうだな。その通りだ。ただ、機士学校のルールには従えと前にも言ったが、もう一度言わせてもらう。ちゃんとルールに従うように」


「分かっております。入学式の件もちゃんと校長や講師たちの許可を得たものですのでご安心ください」



 上級生との20対1の親善試合も、エル先輩との決闘も、俺はちゃんと機士学校のトップである校長の許可を得ている。義父上が心配するようなルール破りはしていない。ちゃんと卒業して機士にならないと、領地も得られず妹を救うことができないからな。



 入学式で自分の実力を見せつけられたので、今後の学校生活では、回収すべきフラグ行動以外は大人しくしておくつもりだ。



「分かった。今後もドワイド家の後継者候補として恥ずかしくないよう、機士学校でも名を高めるようにしてくれ」


「承知しました」


「ルシェ……いや、いい」



 義父上はまだ何か言いたそうだが、言っても俺が聞かないと思っているんだろう。



 長距離通信機が繋いだ映像は、そこで途切れた。心配そうに隣で話を聞いていたルカが俺の袖を引いてくる。



「義父様は兄様にまだ言いたいことがあったみたいだけど……」


「きっとしばらくは大人しくしていろと言いたかったんだろうさ。ちょっと派手だったからな」


「兄様、あんまり無茶はダメだよ。怪我とかしないでね」


「ああ、分かってるさ。そんな無茶はしてないよ。さぁ、飯だ。飯」



 心配そうに見上げるルカの手を取ると、シアとローマンによって朝食が並べられたテーブルにゆっくりと手を引いて連れて行く。テーブルに着くと、シアがルカの食事の給仕を始めた。



「たしかに入学式の件は派手だったけど、おかげでルシェのことを機族のボンボン息子って、みくびる輩は一切いなくなったはずよ。あれだけ実力の差を見せつけたわけだし」


「そうなの?」


「そう、そう。首席機士だったエルですら決闘で下してるしね」



 たしかにあの入学式で見せた実力差で、俺は同期の中でも浮いた存在になるのは確定だった。



 俺の操縦技術にビビッてたやつも多数いたし、殺さないでくれと懇願するやつもいた。いちおう、交流は持つつもりだが同期にサポートキャラ入りするネームド機士はいないので、同期としての最低限のお付き合いをするくらいのつもりだ。



「そう言えば、今日からエルさんが兄様の鍛錬の相手に来てるんだよね? ご、ご挨拶とかした方がいいのかな?」


「エル先輩か? 今日はもう帰ったな」


「ええ!? 帰っちゃったの!? 女性の首席機士様って珍しいってローマンに聞いてたから会えるのを楽しみにしてたのに!」


「え? そうだったのか? だが――」



 ルカの背後に立つ、シアからの熱視線が俺を貫く。シアの視線の意味をすぐに理解した。



 どうやら彼女によるエルの査定が済むまでは、ルカに会わせたくないようだ。



 分かってる。分かってるさ。シアの気持ちは痛いほど理解してるって。ルカを大事に思ってくれてるからこその査定だろ。少し時間はかかると思うが、エルはシアのお眼鏡に叶う人物のはずだ。それまではルカには会わせるつもりはないさ。



「エル先輩も今年が最終学年だし、いろいろと忙しいんだ。落ち着いたら、ルカにも紹介させてもらうよ」


「うぅー残念。でも、忙しいのに無理に会ってもらうの悪いよね」


「そうそう、エルさんは忙しいからねー。はい、はい、今日の朝食はルカちゃんの好きな苺があるよ。ほら、あーん」



 エルのことから話を逸らそうとしたシアによって、ルカの前に薄切りにされた苺が乗ったスプーンを差し出した。その苺を頬張ったルカの表情が蕩ける。



 そういえば、紗奈もルカと同じく苺は大好きだったよな……。食べ物が食えなくなるくらいに衰弱した時も苺だけは食べてたもんな。



 俺はルカが苺を食べている姿を見て、若くして逝ってしまった紗奈の顔を思い出していた。



 俺が紗奈のお願いに負けず『あにいも』の配信活動をさせなかったら、また違った世界線は存在したんだろうか……。でも、やってなかったら紗奈はあんな満足そうな顔をして逝けなかったかもしれない。あれは、間違ってない。間違ってなかったはず。



 紗奈のことを思い出していたら、大好きな苺を頬張ってご満悦だったルカと視線が合う。



「にいひゃまどおしたの?」


「少し昔のことを思い出してただけさ。だが、口に入れたまま喋るのは、機族の令嬢として頂けないな。可愛い顔が台無しになっているぞ」

 


 俺からマナー違反を咎められたルカは急いで口の中の苺を咀嚼して飲み込んだ。その顔は恥ずかしかったのか真っ赤に染まっている。




「そ、そうだよね。兄様、今のは見なかったことにして」


「はい、はい。見てないよ」


「わたしは見ちゃったなー」


「シアさん! 見なかったことにしてー」



 容姿は違ってるが、ルカは紗奈と声が似てるから、ついついいろんなことを思い出してしまう。紗奈のことを思い出して寂しい気持ちもあるが、同時にルカの楽しそうな声を聞くと今日も一日頑張れる気持ちも湧いてくる。



 ルカのおかげで今日も一日頑張れそうだ。



「ああ! 兄様、こんな時間! 早く朝食を終わらせないと、学校に遅れちゃうよ。シアさん、兄様の制服はー」


「もう、準備してあるよ。ルシェの学年は青色だって」


「早く近くで見たい! 兄様の制服姿!」


「まだ、食事を――」



 妹から制服姿が見たいとせがまれた俺は、急いで朝食を食べ、着替えることにした。



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