表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/50

第14話 大事な人


 膝の上で寝息を立てるルシェを見つめるシアの顔は穏やかさに満ちていた。



 彼女が穏やかな表情をしているのは、他の精霊たちが契約して精霊石の外へ出ていくのを見送り続けた時が、彼との出会いで終わりを告げたからだった。



「わたしの声が聞こえる人がいるなんてね。しかも、あんな強烈な意識を発して、わたしを人として実体化させられちゃう人が」



 シアがあの精霊石の中で契約した時、ルシェの中にあった鮮烈な意識が流れ込み、今の人の形を模した彼女を作り出していた。昔から続く精霊と人との契約において、精霊が人の身を模したことはなく、何百年も続く『対話の儀』においても、今回が初めての事態だった。



 ルシェが疲れて眠っているのも、『対話の儀』の後に行われた精霊大神殿による聴き取り調査で長時間拘束されたことが影響していた。



 疲労して寝ているルシェの髪を、シアが優しく撫でる。



「ルシェから流れ込んできた意識は、ルシェ以外のもう一つの魂の影響が強かった気がするけど――君はいったい何者なの?」



 眠っているルシェからの返答はない。



 流れ込んできた意識の中では、ルシェではない人と一緒に、この姿形で霊機に乗って戦っていたり、屋敷で生活したりしていた記憶がいくつもあった。そのどれもが契約者の彼にとって大事な記憶であることが、見ていたシアにも感じ取れた。



 その記憶を契約中に見たことで、彼女に与えられたシアという名の持つ意味も理解できた。



「わたしに与えられた『シア』という契約名は、君の最高の相棒ってことだけど――。それって人型で異性である以上、恋人ってことだよね。もしかしたら奥さんって意味なのかな? そういう役割をわたしに求めてくれてるん……だよね?」



 ルシェの寝顔を覗き込むシアの琥珀色の瞳は、自分に求められた役割を確認するよう不安定に揺れていた。



「シア……俺も大好きだ……一緒に……」



 突然のルシェの告白にも似た言葉に、寝ていたものと油断していたシアはビクリと身体を震わせる。



「ひゃううう!? ルシェ、起きてる!? あ、あ、あのね。わたしもルシェのことは大好きだから――って」


「スゥ……スゥ……」


「ふー、びっくりしたー。寝言か。急に好きとか言われたらびっくりしちゃうって。もう可愛すぎかなー」



 落ち着きを取り戻したシアは、再び寝息を立て始めたルシェの額を人差し指で軽く突いた。



「わたしはずっと可愛いルシェと一緒にいるからね。君が、この世界での生を終えるその日まで、わたしと交わした契約は続くんだもの」



 それだけ告げたシアは、寝息を立てるルシェの額に自らの唇を寄せた。



 顔を離したシアからは、まだ不安そうな表情が消えていなかった。彼女が抱える不安の原因はただ一つだけ。



「けど君は、あの記憶にあったシアが好きなのかな? それともわたし? どうなの?」



 シアはツンツンとルシェの頬を突くが、熟睡しているようで目を覚ます気配はなかった。



「でも、こっちのわたしの方が、あっちのわたしよりルシェのことを大・大・大好きなんだよ。だって、誰にも聞いてもらえなかったわたしの声を聞いてくれた人なんだもの。大・大・大好きって気持ちを表すのに、人の言葉を借りるなら愛してますかな」



 ぽつりと呟いた言葉は、膝枕で眠るルシェにすら聞こえない程の声量だったが、彼女の好意を大いに感じさせるものだった。



「わたしがこうなっちゃったのは、ルシェのせいだからちゃんと責任を取ってね。わたしも自分の持つ全ての力を君のために尽くすつもりだから」



 もう一度寝ているルシェの顔に唇を寄せると、今度は額じゃなく唇に触れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ