ドラクの子【番外編SS】(☆☆☆)
『外敵女騎士のわたしが竜王様の寵妃に!? 降伏から始まる溺愛生活』番外編ショートストーリー
時間軸は本編最終話前。
単話で読めます。本編よりコメディ感、溺愛度強め。
タイトルは聞き覚えのあるものを拝借してつけています。
(※ベル視点)
何の前触れもなく、突然“それ”はやってきた。
「うっ……ちょっと、休む」
レラが顔をしかめ、動きを止める姿を見かけるようになった。
少々具合を悪くしたのだろうかと、最初は気に留めなかったが、頻度が増えてくるといよいよ俺も心配になってくる。
「今日は1日休め」
レラを寝台に寝かしつけることにした。
「いや、……ずっと寝てばかりもいられないだろう」
「大丈夫だ。優秀な部下達に任せて、休むんだ。中途半端では治らないだろう」
「でも……。うぅ……、だめだ。やっぱり、気持ち悪い」
半身を起こしたレラだったが、顔を青くしてまたすぐに横になった。
「言ったとおりだ。レラの体は休めと言っている。素直に今日は休むんだ」
「……いいのかな」
もう無理だと悟ったのか、レラは甘えた声で言ってきた。
ここまで体に支障を来さないと甘えることができないとは。普段からレラが存分に甘え、俺を頼ってくれるように努力しているつもりなのだが、俺の包容力はまだまだのようだ。
「いいんだ。レラは自分の体のことだけを考えろ」
念を押すように言い、レラの体に毛布を掛けた。
「人間の体は繊細だ。悪化させて、命取りにならないように、休養に専念しろ」
「命取りだなんて、大げさな」
レラは笑って見せたが、明らかに顔をしかめて気分が悪そうにしている。
なんて痛ましい笑顔だ。
俺のために笑ってみせるなど、しなくていいのに。
そっとレラの額に口づける。
「無理に笑うな。苦痛を隠すな。しんどい時はしんどいと言え」
「ううっ……」
レラの力なかった表情が一変した。俺の言葉に打たれたのか、瞳に涙をいっぱい溜めて泣き出した。
「……実は、体がずっと変なんだ」
おかしいと思ったのなら俺に伝えて欲しかったが、レラはレラなりに考えがあって、ずっと黙っていたんだろう。
そんなことだろうと思った。溜め込んでしまうのはレラの悪い癖だ。
弱っているレラは痛々しく、長らく隠していたことを責めることはできない。俺は冷静に状況確認に徹した。
「ずっとって、いつからだ?」
「7日前? ……いや、ちょっと変だなと思ったのは半月くらい前からだ」
「どんな風にしんどいんだ?」
「体がだるくて……気持ち悪くて……」
半月前から!?
調子が悪いことに気づかなかった俺も俺だ。
振り返っても、レラは普段通りにしていた。
……まぁ、少し表情が固く、「疲れた」と夜の誘いを断れることもあったが。当時はそんな日もあるだろうと思ったくらいだ。
「ずっと隠していたのか?」
俺の問い掛けにレラは毛布で顔の半分を隠し、体を震わせた。震えているのは泣いているせいだ。
「……だって、原因もわからないし……でも具合は悪いし、不安で……。よくわからないことで、ベルを不安にさせたくなくて……。まさか、病だったらと……」
最後の言葉はなんとも判断がしがたいので聞き流した。
俺に心配を掛けたくないから黙っていたのも、予想の範疇だった。
「まったく……お前は」
レラの両頬を手のひらで包み、負い目を感じて欲しくないから、俺は精一杯微笑んでみせた。
「気にするな。些細なことでも話して欲しい。ただでさえ、レラにとってはここは異国の地だ。肌に合わないことや気苦労もあるだろう。……いいか。今日一日は横になって休むんだ。ハティに後で具合を看てもらおう」
「うん。わかった」
レラは珍しく素直に返事をした。その様子は不謹慎ながらとても可愛らしかった。
「また来る」
そう言って後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。
「病気……。まさかな」
聞き流したはずの言葉が俺の中にしこりとなって残っていた。
人間は短命で弱い。
不治の病だったら、このままレラは……。
想像するだけで恐怖で体が震えた。
まだレラと出会ってひとつも年を重ねていないと言うのに。
レラを失うなんてあり得ない。
俺の不安は大きくなり、拭えないものとなっていった。
* * *
「うえっ……」
「レラ!!」
しばらくして部屋に戻った時には、レラは寝台で苦しそうにえずいていた。
レラのことが気がかりだった俺は執務を放り出して、ハティを連れてきた。ヘスティア王国の医師から医学を学び始めたハティなら、きっと力になってくれるだろう。
ハティが診察をする間、俺は部屋の外で待つ。
時間が止まったように感じられた。
やっと扉が開き、ハティが出てきた。
その顔には憂いのようなものは感じられない。ハティは仰々しくお辞儀をして告げた。
「ベルファレス様。レラ様はご懐妊にございます」
「……な、なんだって!?」
まさか。
その思いが強く、喜びよりも驚きが勝った。
「ベル。おめでとう。よかったですね。……それにしても、なんですか。その反応は、嬉しくないのですか」
ハティはいつもの調子に戻っていた。
「そう、だな。めでたいことだ。……命を落とすくらいの病ではないかと勘違いしていたのでな……驚いたんだ」
「ふふ。大げさな。レラから体の様子を聞いてはっきりしました。体調の変化は懐妊によるものです。腹の御子が育って安定してくれば、改善してくると思いますよ」
「おお、そうか……!」
それ以上は言葉にならなかった。
レラが、俺の子を。
さっきまでは驚きの方が強かったが、じわじわと腹の底から喜びが沸き上がる。
別々の個体から新しい命が生まれる。
なんと神秘的で、尊いことであろうか。
俺とレラは種族が違う。我が子は新しい未来の架け橋になってくれるのだろう。
これから生まれてくる希望に俺は胸が震えた。
自然と目頭が熱くなり、目が潤んでいた。
ふたりきりの部屋で、横たわるレラに駆け寄る。
「レラ……! よくやった!」
力一杯抱きしめてやりたい気持ちを抑え、手を握りながら思いを伝えた。
寄り添うように、優しく手を包む。
「うん……ベル……ありがとう」
気分が悪いせいかレラの反応は弱々しい。
子供を産む。母になるということは不安なこともあるだろう。
「大丈夫だ。俺がついている」
レラの腹にそっと触れた。
あまり母親を困らせるんじゃないぞ。と、伝えるように思いを込めながら。
「……でも、どうしよう……わたし……こわい」
レラは震えた声で泣き出してしまった。
俺はどうすることもできない。
何もできない自分に苛立ちながら、レラに悟られないよう感情を押し殺した。
少しでも気が紛れればと思い、手をさすってやると、レラはぽつりぽつりと不安を語り出した。
「……だって……ドラゴンって、卵から……孵るんだろう? わたしの体から……卵が……。……どうしよう……ベル。人間でも出産は命がけというけど……こわくてしょうがないんだ……。ごめん……素直に嬉しいって思えなくて……」
「……!?」
卵を産む!?
孵化?
レラの発言に俺は驚いた。それは盛大な思い込みだ。
吹き出しそうになるのを抑え、レラをなだめた。
「何か勘違いしているようだが、ドラクの出産は人と変わらない。卵から孵るなんて俺も聞いたことない。今度ハティに話を聞いてみるといい」
「……えっ!? そうなの!? なんだ良かった……」
さっきまで気落ちしていたとは思えないくらいの変わりようで、レラの表情が明るくなった。
「お前の勘違いは面白いな」
「……茶化すのはやめてくれよ。恥ずかしい……」
そのまま毛布の中に潜り込んでしまった。
「気分はどうだ?」
「……やっぱり気持ち悪いけど、原因がはっきりして、……気持ちは楽になった」
「それは良かった。俺も安心した。レラ、改めて言う。俺の子を宿してくれて感謝する」
毛布をめくろうとする前に、レラの方からひょっこり顔を出した。
少し頬が赤く染まっている。
「ベルこそ、ありがとう。いっぱい愛してくれて。わたしも嬉しい」
たどたどしく言葉を並べる様子は、幼子のようで可愛らしい。レラが愛を伝えるときはいつもこうだ。
「お前と腹の子のために俺は精進する。これからもよろしく頼む」
「……うん。わたしも、がんばる」
希望を宿したレラの腹に触れ、微笑み合った。
俺は喜びに溢れる誕生の日を心待ちにしている。
本編、番外編SSともに今回の更新を持って完結です。
ありがとうございました。




