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餌付け

 しばらくすると、先ほどハティと名乗った竜人族の女が戦士らしき者を伴ってやってきた。


「お食べなさい」


 ハティは床に木皿を差し出した。林檎をすったもののようだ。食べ慣れた匂いがする。


 注意深く匂いを嗅ぐ。林檎以外の匂いは感じない。

 匂いのしない毒もあると聞く。異質な匂いを感じないからと言って安全である保証はない。


 ふたりを見た。随分と大きい。見上げるとかなりの迫力を感じた。

 わたしの体格は一般女性に比べると大きく、背丈は男並み。それなのにハティはわたしよりも大きかった。もう一方の竜人族の戦士はハティより頭ひとつ分高い。


(こいつ、竜王の玉座にいた側近だな)


 わたしがジッと様子を伺っていると、竜人族の戦士が真っ先に反応した。


「こいつ、俺らを睨みつけていやがる!」


 竜人族の戦士は腰に携えた長剣の柄に手をかけ、構えの姿勢を見せたが、「おやめなさい、リグ」とハティがたしなめるとすぐさま緊張を解いた。


「毒は入っておりませんから、安心してお食べなさい」


 もう一度ハティが勧めてくるので、黙って皿を見つめた。毒入りじゃなかったとして、手首を縛られた状態でどうやってすり林檎を食せばいいのだ。


「あら、ごめんなさい。拘束を解くのを忘れていたわ。……リグ」


 またわたしの心情を察したハティは一歩退き、リグに指示した。

 リグはチッと舌打ちをして、渋々わたしの手首を解放する。


「さぁ」


 再び食事を勧めるハティだったが、わたしは気が進まない。


 彼らの行動は納得できるものではなかった。


 食事を摂らせるためとは言え、武力行使した異国人の拘束を解くのだ。その瞬間に攻撃を食らわされる可能性だってある。その危険を冒してまで、食事を取らせる理由は何だ? 


 やはり、拘束を解いて安心感を与えておき、毒林檎で殺そうと考えているのか……?


 どうしても毒入り林檎の可能性は拭えない。ここは食べない選択が最善だ。

 わたしは皿をただ見つめて、ふたりが立ち去るのを待つことにした。


 もしもの攻撃に備え、わたしを制圧するつもりなんだろう。

 リグが近距離で臨戦態勢の構えをし、わたしを射抜くかの視線で威圧してくる。痺れを切らしたのか剣の切っ先を喉に向けてきた。


「食えと言っている。これはベルファレス様の命令でもあるんだ。食え。毒入りではないと言っているだろう」


 喉元に剣を向けられるのには慣れている。その瞬間に死の予感がするものだが、今回は何も感じなかった。リグの必死さから、彼らが嘘をついていないと悟った。


 わたしは木皿を手に取り、林檎の上澄みをすすった。指を使い、皿に残った林檎の繊維まですべてを口に流し込んだ。


「よし。いいぞ」


 リグは飼育している家畜かなにかを褒めるような声掛けをし、ハティーは胸を撫で下ろした様子でわたしを見ていた。


「安心しました。食べてもらわないと困りますので」


 役目を果たしたふたりは、再びわたしの手首を拘束し、牢から立ち去ろうとした。

 その背中に向かって再び問い掛ける。


「……なぜだ? なぜわたしを生かす?」


ハティは背を向けたまま答えた。


「ベルファレス様の命令だからです。それ以上はわたくしの口からは申しあげられません」

「なぜ手当をした? 一晩で治るなんておかしいだろう? お前らは何者なんだ?」

「手当をした理由も先ほどと同様で、お答えすることはできません。一方の質問については……」


 一呼吸おき、ハティは振り返って答えた。


「冥界の力を借り、あなたに蘇生術を施しました」

「冥界の力? 蘇生? わたしは一度死んだって言うのか?」


 動揺するとハティがクスッと笑った。


「あなたは死んではいませんよ。蘇生術とはいっても、完全に死んだ命を取り戻すことはできません。死にかかっていた体を回復させた。ただそれだけのことです」


「ちょっと、待て……。お前らはいったい?」


 その問いに答えることなく、ハティとリグは去って行った。


 竜人族。

 彼らの言葉を借りて言えば、『竜の血を継ぐ者』

 ……それが本当だとすれば、やつらはただの人間ではない。



 やつらの目的はわからずじまいだった。推測にしかならないが、また考えを巡らす。


 わたしを生かす目的は何だろうか?


(……もしや)


 思いつくことはあれしかなかった。


 拷問だ。


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