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男装騎士レラ

 わたしの名はレラ。


 我が祖国、ヘスティア王国の騎士団、特命任務遂行部、通称“特務部”に所属している。


 王国騎士団とは王国軍と同義で、国王に叙勲された騎士貴族と訓練を受けた国民兵士によって構成された軍隊のことだ。騎士と兵士には明確な格差があり、役職を持っている者や国王直下の部隊に所属する戦士は騎士と呼ばれた。


 特務部に所属するわたしも“騎士”に数えられる。


 ヘスティア王国は多くの民を有する大国で、農耕や手工業により国力を蓄えてきた。さらなる国の発展のため、植民地を開拓し、巨大帝国を築くのがヘスティア王国の野望だ。


 部隊の中でも特務部は植民地化計画を遂行するために他国へ渉外に赴く部隊だ。時には武力を持って交渉に応じさせることもある。

 野蛮な仕事ではあるが、わたしはやりがいを感じていた。


 女に生まれながら、女としてのありふれた人生を送ることができないわたしにとって、体格や身体能力を活かせる騎士は天職だった。

 だからわたしは女であることを捨て、騎士の道に生きると決めた。騎士団では男装し、男のふりをして任務に励んできた。


『レラ、頼んだぞ。お前の働きに期待している』


 騎士団の仲間であるランティスの言葉を思い出すと、胸が熱くなる。


 わたしのことを唯一本名で呼ぶ男。女であると知りながら、騎士としてのわたしの功績に期待を寄せる者。何より、わたしの道を切り拓いてくれた男だ。


「すまない。ランティス。この様だ」


 牢獄に呟きが虚しく響いた。


 竜人族の首長である竜王に謁見した。植民地化の交渉は決裂し、互いに武力も辞さない状況になった。一方的に叩きのめされ、最終的に気を失った。


 その間に牢に運び込まれたのだろう。石壁に囲まれたこの部屋にわたしは四肢を投げ出し、横たわっていた。

 この牢獄は随分天井が高い。竜人族の大きさに合わせて設計されているようだ。


 手足にひんやりと金属の感触がする。両足、両腕共に枷をつけられ、拘束されていた。


 散々痛めつけられたのだから、骨や筋肉が損傷していてもおかしくはない。そもそも動かすことなんてできないんだろう。

 諦めつつも、腕を持ち上げてみる。ジャラジャラと鎖の音がした。


 体の感覚がなかったはずなのに。今はちゃんと腕が機能しているように感じた。


(なにが起こっている?)


 不思議でたまらない。竜人族の戦士達に投げ飛ばされ、城内の石壁や床に体を打ちつけられたのに。


 竜王と言う名は我々ヘスティア王国の人間が名づけた通り名だ。竜人族の王と言う意味である。


 わたしを含め、王国の人間は竜人族のことがよくわかっていない。


 今から約500年ほど前、コーラル山の樹海で誰かが竜人族に遭遇した。彼らが『竜の血を引く一族』と名乗ったことで、『竜人族』という異民族の存在が明らかになった。

 言い伝えによると、当時遭遇した竜人族は一般人のふた回りほど大柄で、青銅のように青白く丈夫な皮膚を持っていたとか。

 彼らが住む山岳地帯は土地が痩せていて農耕には適さず、険しい山に囲まれていたことで、この時代に下るまで長い間誰も彼らの領土を侵す者はいなかったのだ。


 そのまま互いに干渉することなく過ごせれば安息であったろうに……。


 ヘスティア王国は異民族に興味津々で、彼らの土地と資源に目を付けた。コーラル山にはエネルギー資源になる鉱石があるとの話が広まり、竜人族征服計画が動き出した。


 王国より次々と使者が送り出されたが、皆は帰ることがなく行方知れず。話に尾ひれがつき、竜人族は野蛮で残忍という恐ろしい噂が騎士団の中に出回っていた。


 対竜人族の任務に難色を示す者が多い中、わたしに白羽の矢が立った。

 人選に難航していたランティスに頼まれたのが大きいが、これで功績を挙げればわたしはまた周囲に認めてもらえる事ができる。不安よりも闘争心の方が勝った。


 こうして、わたしが竜人族の領土へ出征することになった。


 いくつか交換条件を持ちかけたが、竜王はいずれも気に食わず、何としても国王の臣下になるつもりはないらしい。この場合、いつものように武力でねじ伏せることを試みたが、この様だ。


 百戦錬磨の強者と渡り歩いてきたわたしの武力をもってしても攻略不可能な相手だった。これまで出会った異民族とは比べものにならないくらい、彼らの身体能力、いや戦闘能力はずば抜けていた。竜のように人間の域を越えている。


 そのような化け物を相手にしてよく生き残ったものだ。


 しかし……。

 一抹の不安がわたしを襲う。


(殺されずに生かされたと言うことは……)


 生きた心地がしなかった。


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